「やめっ!!」
試験担当のたしぎ先生の声が響き、動かし続けていた手の動きを止めた。
「ふー」
集めに来てくれた後ろの席の子に解答用紙を渡し、わたしはやり切った感と満足感を胸に、腕を伸ばして伸びをした。
一日目は英語と数学
いきなりこの二教科はキツい。今までのわたしだったらなんの対処もできずに終わってしまっていただろう。だけど!今回のわたしにはマルコ先輩がついているのだ!だからと言って完璧ってわけではないけど……、やっぱり苦手な英語は…そこそこ……。
「名前どうだった?」
「英語がね…」
「英語なんて授業のままだったじゃない」
「え、うそっ!」
「それより数学よ!なにあれ!青雉、まともに授業しないくせに!」
「わたし数学は大丈夫かなー」
そう言えばありえない!とノジコに掴みかかられる。
「こっちだって英語に関してはありえないよ〜」
「はぁ、まぁいいわ。明日の教科なんだっけ?」
「えーっと、地理と…化学だぁ…」
教科名を言っただけで気分が落ちる二教科に二人して溜息を吐いた。
「赤犬と黄猿が同時に襲って来るなんて…!」
「今日は徹夜かな…」
その教科書を取りにロッカーへ向かい明日の教科の2冊を取り出したところで廊下から名前を呼ばれた。見れば、もうHRは終わったのか、マルコ先輩が迎えに来てくれたようだ。
「行くぞ」
「マルコ先輩だよ!」
「うわぁ、こんなに近くにいるの初めて!」
クラス中の女の子達の視線が集まっているのですぐに向かいたいところだけど、うちのクラスはまだホームルームが終わっていない。なので少し待ってもらうように伝えて自分の席へ戻った。
「まさかお迎え?もうそんな関係になったの?」
「そんなわけないじゃん、勉強教えてもらってるだけだよ」
「ふぅ〜ん?」
明らかに信じていないノジコの視線、だが本当にそういう関係じゃないんだからこれ以上どうしろと…
ガシッ
「どうしたの?エース」
席に座ろうとしたところでエースに手首を掴まれた。不思議に思って見つめ返すと、エースは立ち上がってわたしの視線の高さに合わせるように少し屈んだ。
「今日もマルコんとこ行くのか?」
「うん?行くよ」
赤犬と黄猿なんて一人じゃとてもじゃないけど無理だ。恥ずかしながらも先輩のお力をお借りしなければ倒せそうにない。
「おれ、馬鹿だし名前に勉強教えるなんて出来ねェけど……」
そういえば、昨日の件でマルコ先輩にもう来るなァ!って言われちゃったからエースは来ないんだったね。だから少し落ち込んでいるように見えるのかな。
「マルコになんかされたらすぐにおれを呼べよ?」
一緒に勉強したい、なんて言われると思っていたわしかは思わず、へ?と変な声が出てしまった。
「何もされないよ、マルコ先輩のことはエースの方がよく分かってるでしょ?」
「そうだけど…、おれ今日はそっち行くから、隣の部屋でいるから、な?」
いつの間にかわたしの肩に手を置いて、すごく心配そうな顔で覗いてくる。
この間の…ローグタウンでのことがあってからエースは何かとわたしを気にかけてくれていたもんなぁ。
「うん、わかった、何かあったら…」
「言われなくても何もしねェよい」
「マルコ先輩!?」
突然肩に手が回り、驚いて顔を上げるとマルコ先輩の顔が間近にあって少しドキッとしてしまった。だけどわたしの肩に乗ったマルコ先輩の手はすぐにエースによって退かされた。
「おいコラ!名前に触んじやねェ!」
「お前も触ってただろい」
「え、ちょ、二人とも…!」
突然始まった言い争いに一昨日のことが思い出されるが、こんな狭い教室でこの二人が目立たないはずもなく、教室中がざわざわと騒がしくなり始めた。
「二人が名前を取り合いしてるよー!!」
「うそー!!わたしエースくん狙ってたのに…」
「マルコ先輩カッコよすぎ…!!」
は、恥ずかしい…です。
「ちょっとちょっと、まだホームルーム中なんだけど、そういうイザコザはせめて終わってからにして…」
教卓から青雉が泣きそうな顔をして訴えてきたのだけど、すぐには収まらなかった。
「ここはこの公式に当てはめるんだよい」
「あっホントだ!」
カリカリカリカリ…
「名前〜〜」
「んー?」
右側に座るエースがわたしの肩に頭を乗せてわたしを呼んだのだけど、わたしは問題と格闘しながら言葉だけで返した。
あの後、三人一緒にマルコ先輩の部屋に来たのだ。マルコ先輩が閉め出そうとしたにも関わらず無理やり入って来たエースは、わたしの右側を陣取り勉強をするわけでもなくダラダラとしている。そんなエースをマルコ先輩が良く思うはずもなくわたしを挟んでエースの頭を掴んだ。
「エース、お前ほんとに邪魔だよい」
「いてててててて!!!」
これ何回目よ……。
もう集中集中!明日テストなんだから!
「…あー…。先輩ここは?」
分かりません!という思いを込めてマルコ先輩を見つめると、すぐにグラフを見てみろい。と返してくれた。
「あ、そっか!!」
「名前〜」
さっきよりも肩の重みが増した気がして右側に視線を移すとイビキをかいて眠りに落ちているエースが見えてため息とともに、何処にでも眠れるエースに、ふふ。と笑いが零れた。
「ほんとにこいつは…、あっちの部屋に連れてくよい」
「あ、このままで大丈夫ですよ」
「邪魔だろい?」
「おとなしく寝てくれてるなら大丈夫です。それにエースもわたしを心配して付いて来てくれたわけだし」
そう言って微笑めば、お前が良いなら…。とマルコ先輩も納得してくれたよう、それでもやっぱり収まらない怒りがあるのか、バコッ!とエースの頭にマルコ先輩の拳骨が落ちた。
すると、その衝撃でエースはわたしの肩から滑り落ちてしまい、床で頭をゴツンと打ちつけたようだった。
「いってェー!!」
「だ、大丈夫!?」
「名前、そんなやつほっとけ、このままじゃ化学欠点だよい」
「けっ、欠点!?それは困る!!」
頭を抑え痛みに狼狽えるエースに大丈夫だよね!と言い問題に向き直る。それでも、痛い痛いとわたしの肩に頭をグリグリ押し付けるエースは、暫くすると落ち着いたのかまた深い眠りに落ちてしまった。
どれくらい勉強しただろうか
窓から見える空は綺麗なオレンジ色
時間を忘れて勉強なんてしたことなかったな…
「もうこんな時間か…」
ふと時計を確認した時に口から零れた言葉、ケータイを確認すると母から、夕飯いるの?メールが一通来ていた。それに、いるよ!と返しマルコ先輩に向いた。
「わたしそろそろ帰ります!」
「そうだな。これだけやれば欠点はねェだろい」
「本当にありがとうございました!!」
お礼を言って、今度はソファでぐーすか寝ているエースを起こしにかかる。だけど、どんなに体を揺らしても起きる気配は皆無。
「いいかげんにしろい!」
脇腹にマルコ先輩が蹴りが入り、ぐぉっ!と目を覚ましたエースはボーッと、キョロキョロと首を動かしている。そんなエースの肩を叩きながら帰るよ〜と伝えれば眠そうな欠伸が返ってきた。
「おー、送ってく」
「お前には任せられねェおれが送ってくよい」
「は?なんでそうなんだよ、おれが送ってくって」
「そんなボケーッとしたやつに名前任せられるかよい」
「はぁ?そんな髪型の奴に言われたくねぇ!」
「二人とも…」
なんの意地なのか、男心というものは全く理解出来ませんが、どちらも引かず結局二人に送ってもらうことになったのだけど…。
「お前いつまでついて来んだよ!」
「お前こそ帰ったらどうだよい」
帰り道も頭上で続けられる口論に、どちらも自分を心配してくれているのは分かっているんだけど少し、うるさい…。
「はぁ…」
わたしの口からは何度目か分からない大きなため息が出た。
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