「き、来ちゃった…」

テスト期間に入った今、わたしは前回の課題同様マルコ先輩に勉強をみてもらっている。今日は土曜日なのでマルコ先輩の家で勉強することになったんだけど……。

マルコ先輩曰く、一人暮らしみたいなもんだ。


「ここで一人暮らしですか…?」



今わたしの目の前には大きな門があって、ひろーい庭を挟んだ向こうに大豪邸が見える。

昔、金持ち男子と貧乏少女の恋愛ドラマとかで見たような…。いや、それ以上…。



「まぁ、オヤジの家だけどな」
「おやじ…?」
「白ひげって言えば分かるかよい?」
「白ひげ!?ウチの卒業生の…?」
「あぁ」


この豪邸が白ひげさんの家だとして、どうしてここに連れてきたんだろう?マルコ先輩の家に行くんじゃなかったのかな。巡らせるわたしの思考を止めるように入れよい。とマルコ先輩は門の横にあるボタンを操作した。


するとガタン。と音が鳴り、目の前の門が開いた。


「じ、自動!?」



鯨の形をした門が開くと広い庭が見え、ここからでも建物の大きな扉まで長い道が続いていた。



「す、すごい…」
「こっちだ」


マルコ先輩に続いて進むも、この広い庭は一体どこまで続いているのかとか、銅像は一体いくつあるのだろうかなど、わけのわからない思考がわたしを支配した。
扉が開かれ中に入ると、思わず声が出るほどの広さで、わたしはポカンと口が開いた。



「今日はオヤジにも会ってもらおうと思ったんだけどな、診察があるらしいんだよい」
「診察…ですか」



何か病気なのかな…?よく分からないけど今日は会えないらしい。
こんな豪邸の持ち主に会うなんてとても気が引けるからそれには少し安心した。



「おれたちの部屋はこの上なんだよい」



マルコ先輩について階段を上る(もう、何階まで上ったのか分からない)と、そのフロアには扉が16戸並んだ廊下があり、端から順に16.15.14……3.2.1と書かれている。



「なんかマンションみたいですね」
「はは、まぁそんな感じだ」


マルコ先輩は16の扉の前から進んで行き、一番端に位置する1の扉の前で立ち止まった。


「ここがおれの部屋だよい」


マルコ先輩が開けてくれた1番の扉の中に入る。玄関があって靴を脱ぐと、奥へ向かうように言われ、少しビビりながらも進んで奥の部屋につながる扉を開けた。


「うわ〜、広〜い!」


部屋っていうからわたしの部屋みたいに六畳間を想像していたけれど、ここにはリビングに寝室にキッチン、生活に必要なものが全て揃っていた。


「一人暮らしみたいなもんだって言ったろい?飯とかは自炊してるよい」
「そういうことかぁ」



マルコ先輩に案内され、ソファに座らされる。と、マルコ先輩も隣へと座った。思わずグルグルと頭を動かして部屋を見渡してしまうが、先輩の腕が伸びて来てガチリと頭を掴まれた。



「白髭に所属してる奴はみんな部屋があるんだよい、このフロアは隊長達の部屋だ。隊長は一人部屋もらってんだ」
「ヘェー!てことはエースも…?」
「あいつは家があるからあんまり使ってねぇけどな」
「あッ!だからだ!」



わたしの頭の中でとある事が繋がった。
マルコ先輩が不思議そうにこちらを見つめて、どうした?と首を傾げた。



「中学の頃のエースってガープ先生と喧嘩して家出することよくあったんですよ。その時毎回ウチに来るんです。でも高校生になってからそれがなくなったから、きっとここに来てるんだろうな〜って」
「確かにあいつがここ使う時、大体機嫌が悪いよい」
「あはは!やっぱり!」



思わず二人で笑いあう。
暫くしたところでマルコ先輩がポンとわたしの頭に手を乗せた。


「じゃ、そろそろ始めるかよい」
「ですね!」




















「ふー」



ふと時計を見るとその針は12のところを指していた。10時頃にここへ来たのでざっと2時間勉強していたことになる。



「もうこんな時間か。結構集中したな。そろそろ飯にするか」
「そうですね!わたしもお腹空いちゃいました!」
「なんか作ってくるよい、ちょっと待ってろ」



そう言ってキッチンへ向かうマルコ先輩を追いかけ、わたしはカウンター越しに中を覗いた。作るものを決めていたのか今決めたのか、すでに調理台の上には食材が並べられていて、マルコ先輩の手際の良さがわかった。


「マルコ先輩って料理もできるんですね」
「まだ食ってねぇのに何言ってんだ。そんなたいしたことねぇよい」
「ははっ、期待してますね」
「応えられるよう頑張るよい」



たいしたことはないなんてことはなく、やはり料理し慣れているのかマルコ先輩はものの10分で料理を完成させてしまった。食器をテーブルに並べ大きなお皿に盛られたチャーハンを前に二人でいただきます、と手を合わせた。


小皿にとってからスプーンで掬って口の中にいれた。


「んん〜〜!!」

おいしい!!


普通のチャーハンなのだけど、母の作るものよりもパラパラだし、ねぎ多めというのがまたわたしのツボ。


「おいしすぎる…!!」
「まだあるからしっかり食えよい」
「はいっ!」



また小皿に追加を入れようと手を伸ばしたその時、玄関からバタン!と大きな音がした。
それから、ドタドタドタ!とうるさい足音と、大きな声も聞こえた。


「マルコォォーーー!!」


バッターーン!!と激しい音と共に扉が開かれた。



「エース!!」
「は?なんで名前がここにいんだ!?」
「お前こそ勝手に入ってくんじゃねェよい!!」


エースに近づいたマルコ先輩がエースの頭に拳をたたきつけ、エースは頭を抑えて唸った。



「ってェー!!なんでだよ!合鍵渡したじゃねェか!」
「返せ」
「ハァ!?」
「ふ、二人とも落ち着いて…」
「だからなんで名前がここにいんだよ?ハッ!お前らまさか…」



手で口を抑え、オロオロとわたしとマルコ先輩を交互に見たエースにわたしは瞬間に手を顔の前で振った。



「違うよ!?何考えてるのか知らないけどそれたぶん違うよ!?」
「じゃあなんでここに…」
「テスト勉強みてもらってたの!」
「名前…何もされなかったか!?」



わたしの両肩を掴んでつま先から頭まで見回すエースに、またマルコ先輩はチョップを食らわせた。


「何もしねェよい!お前こそ何の用だ?」
「親父に会いに来たらよ…旨そうな匂いがしたから…」



ぎゅるるるる…


エースのお腹の虫が鳴いた。それにハァ。とため息をついた先輩はお前も食ってけよい。とチャーハンを指した。


「マルコぉ!!サンキュー!」



目を輝かせチャーハンに飛びついたエースになんだかんだマルコ先輩も笑っていて、なかなかにエースは甘やかされているなぁなんて思った。

数分もしない内にチャーハンはエースのお腹の中に消え、米粒ひとつない綺麗なお皿だけが残った。それを片付けたマルコ先輩はソファでくつろぎ始めたエースを足で蹴りつつ言った。


「そろそろ勉強始めるからよい、エース、お前もう帰れ」


だけどエースはそんな蹴り全く気にしていないようで、また動く気はないようで不思議そうにマルコ先輩を見上げた。


「なんでおれが頼んでも教えてくんねェのに、名前には勉強教えんだ?」
「名前はやる気があるからだよい」
「ムッ!おれだってあるよ!」


エースがマルコ先輩の前に立ちかなり近い距離で見つめ合う…、いや、睨み合う二人…。
な、なにこの状況…、止めたほうがいい……?いや、無理、怖いです。



「前に一度教えた時、5分で寝ただろい」
「だって眠かったんだもんよ…」
「だからやる気がねぇって言ってんだろい」



幸い殴り合いにまでは発展しなさそうだったので、わたしはソファに座り、二人の口喧嘩の行方を見守ることにした。するとその口喧嘩が思いのほか長く、数時間後にマルコ先輩が観念してやっと終着することが出来たようだ。


「ハァ…分かったよい…教えてやるから…」
「それなら…いいんだ…頼む…」


そんなに体力消耗するなら最初から勉強するほうが良かったんじゃ…。


[ 17/108 ]

[*prev] [next#]

もくじ



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -