今日は前々から約束していたエースと出かける日、朝から出掛けてお昼も食べに行こうということになった。



「これで大丈夫かな」



わたしはというと鏡の前でにらめっこ。2人で遊ぶのは初めてじゃないけど、久しぶりの遠出だし気合が入るというものだ。



「よし」


準備を終え時計を見てみるとちょうどエースが迎えに来ると言っていた時間で、タイミング良くインターフォンが鳴った。その音に慌ててカバンとケータイを持ち階段を下りた。



「名前〜!エースくんよ!」
「はいは〜い」



お母さんからのエースくんを待たせるな!というような声を背に扉を開いた。


「おまたせ!」
「おぅ!」



自転車に跨ったいつものエース。
ハーフパンツにシャツのボタンは全部開いていて頭にはいつものテンガロンハット。後部座席を叩きながら乗れよ。と急かす。

後ろに乗りエースに掴まると自転車が動き出した。



「ねぇ、どこ行くの?」
「あ?ローグタウンって言ってたじゃねェか!」
「あれ、そうだっけ?」
「やっぱ話聞いてねェ…」



ムッ!エースにだけは言われたくないよーだ!
エースによれば、明後日は愛しのルフィくんの誕生日らしくプレゼントも買いたいんだとか。なんだかんだお兄ちゃんやってるんだなぁ。なんておもわず感心してしまった。

エースは相変わらずのスピードで、あっと言う間にローグタウンに到着。


「なんだか久しぶりだなぁ」


最後に来たのはもう半年くらい前だった。あまり変わってないかも。よし行くか!ってエースが言うと右手に違和感を感じた。



「え?」
「こうしないとお前すぐ迷子になるだろ?」


右手へと視線を下げればエースがわたしの右手を握っていて、ニヤリと笑った。


「なっ、ならないよ!」


振りほどこうとぶんぶん手を振ってみるけど、ビクともせず、さらにギュッと握られてしまった。



「ダメだここで迷われたら広すぎて見つけらんねェ」
「迷わないってばー」



だけどまぁ。よくわかんないけどエースは離す気はないみたいで、これ以上言い合っても時間の問題だと思い、諦めて手は繋いだまま行くことにした。



「あれかわいい!」



ゲームセンターを通り過ぎようとした時に見えたクマのぬいぐるみ。クレーンゲームの商品のようで思わずガラスに張り付いて見てしまった。

あのもふもふ…!女子の夢だ…!



「よし、取ってやる!」
「大丈夫?やったことあるの?」
「ねェ!」


な、なのにその自信…!!


腕まくりをしたエースは100円玉を入れアーム部分がクマの真上にくるように操作をした。



「お!良い感じじゃね?」
「うん!すごいすごい!!」



だけど、そう簡単にいくはずもない……。
一瞬引っかかったように見えたクマはアームが上がると同時にポトンと落ちてしまった。



「あー、惜しいね」
「もう一回!!」
「えっ、いや、もういいよ!」
「おれが取りたいからいいんだ!」



お金もったいないよ!と言ってもすでに100円玉をまたゲーム機へと入れたエースはアームの操作に取り掛かった。
ダメだこりゃ。負けず嫌いだもんなぁ。わたしは諦めてエースを見守ることにした。


「取れた!」
「おー!」



掴んでは落としてを4.5回繰り返した頃、エースもわたしも同時に声を上げた。見事にアームに掴まれたクマは出口の所へ運ばれたのだ。
そして、それを取り出すと、ほら!とエースは笑顔でわたしに差し出してくれた。



「あっ、ありがとう!」



受け取ったぬいぐるみを抱きしめてみる。やっぱり、想像していた通りもふもふで触り心地がたまらない。



「じゃあ次行こうぜ」
「わっ…!」



まだもふもふを堪能中だというのにエースはまたわたしの手を取って歩き出す。クレーンゲームに勝利したからなのかエースの表情もなんだか嬉しそう。



「アイスクリーム屋行こうぜ!新しく出来たとこ!」
「うん!」



エースの言うアイスクリーム屋さんにやって来ると、新しく出来ただけあって、外観も綺麗で少し列が出来ていた。
その列に並んでいる間もエースとの会話は途切れることはなくあっと言う間にわたし達も店内に入ることが出来た。



「い、色んな種類がある…!!」



やばーい!どれも美味しそう!!
こちらから選び下さいと店員さんに渡されたメニューを見てどれを頂こうか考える。



「どれにすんだ?」
「んー…!悩むところだけど、ストロベリー!」
「結局それかよッ!こんなに種類があんのに、お前は冒険心がねェな」
「む、わたしはイチゴが好きなの!エースは?」
「バニラ」
「結局それかよ!」



わたし達のやり取りを見ていた店員さんも少し笑っていて、仲良いですね。なんて言ってくれ、わたしとエースは顔を合わせて笑った。


お会計しようとわたしが財布を出すと、その前にエースがサッと、2人分の千ベリー札を店員さんに渡してしまっていた。



「え!いいよ、わたし払うから」
「いいって、もう払っちまったし」



納得出来ないという顔でエースを見上げるわたしに食おうぜ〜。とエースはストロベリーアイスを差し出した。



「ありがと…」
「お、そこ座ろうぜ!」



空いている席を見つけそそくさと確保しに向かってしまった。奢ってくれたのに、奢ってやったぜって感じがなくて自然で、そういう所にモテる要素ってあるんだろうなぁ。なんて思った。

向かい合って座り、アイスをスプーンでひとすくいし、口へと運んだ。



「ん〜!おいしー!」
「イチゴちょっとくれ」
「どうぞー」



わたしがスプーンですくって差し出すとエースはパクリと一口。そしてさっきのわたし同様うめー。と声を上げる。



「やっぱイチゴもうめェな!バニラもちょっとやるよ」



そう言って同じようにスプーンにのったアイスを差し出すエース。

自分があげるとき気が付かなかった…。というか気にならなかった。だけど、これって関節キス…だよね…。他の人ならもっと抵抗あるのにエースだから気にもしなかった。


アイスを見つめて固まるわたしを不思議に思ったのかエースは、ん?と声を出した。



「どうした?早く食えよ」
「あ、うん」


パクッ


「おいしい!やっぱバニラは王道だね!」
「だろ?おれはバニラ一筋だぞ!」



美味しい美味しいアイスクリームは、あっと言う間にわたし達のお腹に消えていってしまった。
もっと食べていたいと思うけど、この量だからこそのこの美味しさだよね。なんて思って自分を納得させる。



「美味しかった!ありがとエース」
「やっぱここ来て正解だったろ?」
「うん!ごちそうさまです」
「いいっていいって」



テーブルに向かって頭を下げれば笑顔で頭を撫でられる。

ほんとエースのこういう所好きだなぁ。


「なぁ」
「ん?」
「名前ってなんか最近忙しそうだよな」
「え、そう?」



なぜかぶすっと口を尖らせているエースを不思議に思い首を傾げた。



「今まではおれがいつ誘っても暇だったのにさ…、最近、マルコやシャンクスと一緒にいるの多くねェか?」
「そうかな?シャンクス先輩とは一回しか遊んだ事ないし、マルコ先輩には勉強教えてもらってただけだよ?」
「ほんとにそれだけ?」
「え?うん」



なんでそんなに不安そうな顔するんだろう。どっちかっていうとエースのが女の子達に人気じゃないか…。

というか、わたし達付き合ってる訳じゃないのに一体何を気にしてるんだろう…!でもわたしの言葉を聞いたエースは安心したように笑った。



「何回も断られるからさ…、その、どっちかと付き合ってんのかとか考えちまってさ」
「そ、そんなことあるわけないじゃん!それに素でいられるのはエースといる時だよ」



そう言うとへへっと嬉しそうに笑うものだから、わたしも微笑み返す。
エースのその笑顔好きだなぁ。


「よし!じゃ、そろそろ行くか!」
「そうだね」



エースは立ち上がるとさっきと同じようにわたしの手を取って歩き始める。その表情はなんだか嬉しそうで足取りも軽く感じた。



「あ、ルフィのプレゼント買いてェんだけどいいか?」
「もちろん!何にするか決めてるの?」
「それがまだなんだよなー」



片手で頭を掻くような仕草をして目線を斜め上にするエースは、ずっと考えてるんだけどなー。と困ったように言った。まさかここまでエースが困っているとは、わたしだってルフィくんの友達だし、彼を喜ばせてあげたいなぁ。


「ルフィくんの好きなものって?」
「肉だな…」
「肉か…」
「でも、肉はジジィが奮発するって言ってたんだよな」
「あー。そっか。うーん…何がいいだろう…」
「とりあえずいろんな店回っていいか?何か見つかるかもしんねぇし」
「うん、そうしよっか」


確かに、ただ歩いて考えるだけじゃなくて、お店にある商品で良いものが見つかるかもしれない。わたしたちは近くにあったお店を順番に見て回ったのだけど、ピンとくるものがなかった。



「ないねぇ…」
「ねぇなぁ…」


いろいろなお店を回ってさすがのエースも疲れてきたみたいで、肩を落として舌を出していた。少し休もうということになり、近くにあったベンチにエースを座らせ、わたしはジュースを買ってくるために近くの自動販売機へ向かった。すかさずエースがおれが!と言ってくれたけれど、さっきのアイスのお礼だと言えば大人しく折れてくれた。

自分にはオレンジジュース、エースには炭酸ジュースを買ってさっきのベンチへ戻ったのだけど、そこにエースの姿はなかった。


「エース?」


近くを見回してみるとそれらしい後ろ姿を発見し、名前を呼んで近づいた。
エースはというと、マネキンが飾られているショーケースのガラスに張りついて何かを見ているようだった。


「なぁ、あのTシャツ、ルフィにぴったりじゃね!?」
「え、このマネキンの…?」
「おう!」
「ど、どうかな…」



エースがいう麦わら帽子を被ってるマネキンが着ているTシャツっていうのが…、正面にデカデカと“船長”って書いてあるもので、これを町中で着るのはなかなか勇気のいる行動なんじゃないだろうか…。このマネキンの麦わら帽子を被っているという点ではルフィくんと類似する部分もあるんだけど…。
わたしがそんなことを考えているうちにエースは、これしかねぇ!!ともう決定したようだった。


「名前!おれこれ買ってくる!」
「ほ、ほんとに?」
「ん?おう!このTシャツはルフィにしか似合わねぇ!」
「おぉ……」


ここまで言われてしまえばなんだかそう思えてきてしまったのだから不思議だ…。エースの選んだこの服を着たルフィくんが想像できてしまった。


「うん!そうだね!きっとルフィくんも喜ぶよ!」
「おう!すぐ済ませるからベンチで待っててくれ」
「あ、わたしちょっとお手洗い行って来るね」
「おう、わかった!」


エースは店内へ、わたしはお手洗いのマークの方向を探して逆方向へ歩き出す。
だけど、近くに見当たらなくて、近くにいた店員さんにトイレのある場所を聞けばここから少し離れた所にあるらしかった。

まぁすぐに帰ってくるし大丈夫かな。
















トイレを済ませ少し化粧直しもして、わたしは少し早歩きで元いた場所を目指した。ここのトイレ、入り組んだ場所にあって人通りが少なく、少し不安だ。


「きみきみ!」
「え?」



振り返れば人の良さそうな男の人が5人。でもなんだか嫌な予感がしてわたしは一歩後ずさった。



「なんでしょうか…?」
「おれら行きたいところあるんだけど迷っちゃってさ、教えてほしいんだよね」



なんだ、悪い人じゃないのかな。どこですか?と返せば突然腰に手を回されてガッチリ捕まってしまった。



「ちょっ…離して下さい!」
「いいじゃん、ちょっと付き合ってよ」
「君可愛いしさ、このままおれたちと遊ばない?」
「け、結構です!」



逃れようと身体を捩るが反対側からも腕を掴まれて逃げられない。それでもこの人達は人の良い笑顔を浮かべている。

何この人たち…!赤髪グループとは真逆だよ…。赤髪のみんなは人相悪そうだけど良い人達ばっかりなのに!!

そういう思いも込めて思いっきり睨んでやると、ドカッと壁に押し付けられた。



「いっ…」
「なんだよその目?おれらが来いっつってんだから大人しくついて来いよ!」
「怯えてる?かーわい」
「ひっ…」



首元をペロリと舐められた。顔を歪めると今度は髪を鷲掴みにされて、わたしの口元にその唇が近付いて来る。

嫌だ!…嫌ッ…!エース!!



「お前ら女1人に何人たかってんだよ」
「あ?」



突然聞こえた声に全員の視線がそちらへ向く。わたしもその人物を見て驚いた。



「誰だてめェ」
「ただのガキじゃねェか」
「なんで…」



あの時、階段ですれ違った隈の男の子だ。



「なんだよてめェ?おれたちとやるってのか?」
「気分じゃねェけど必要なら」
「お前1人で勝てると思ってんのかよ?」
「まあな」



ケラケラと笑い声が響く、わたしを押さえつけていた手は離れて男達はその男の子の方へ向かった。



「ふざけんなよ…?オラァ!」


ドカァッ!



1人の男が殴りかかった瞬間、わたしは咄嗟に目を閉じてしまった。



「ぐおッ!」



聞こえた呻き声におそるおそる目を開けると殴りかかったはずの男が倒れていて、隈の男の子は立ったまま倒れた男を見下ろしていた。すると男達の顔はみるみる引きつっていき、それを見た隈の子は余裕そうにフッと笑った。



「お前ら程度…、能力使わなくても余裕だな」
「てめェ…!」
「オラァッ!!」



また残りの男達が殴りかかろうとしたその時…



「名前ーー!!」


通路の向こうから聞こえた声にその場にいた人たちの視線が向いた。


「エース!!」
「エースだと!?」


エースの顔を見た途端、安心感で涙が溢れて来た。わたしのもとへ走って来てくれたエースは近くにいる男たちを見て表情を変えた。



「何してんだ、てめェら…?」

「…今エース…っつったか…?」
「まさか…あの火拳か…!?」
「や、やべェぞ!早く逃げろ!」



男達は、隈男くんにやられた仲間も連れて一目散逃げて行ってしまった。残ったのはわたしとエースと隈の子。座り込むわたしにエースは駆け寄って来てくれ、怪我ねェか?とあちこち見てくれた。


「エ、エース…!!怖かった…」
「名前…何があった?」



思わずエースにしがみついて泣けばエースは背中をポンポンと叩いてくれた。



「あの男達に絡まれてたようだ」
「うん…この人が助けてくれた…」
「そうか…そりゃ助かった。ってお前は何者だよ?」
「……。トラファルガー・ローだ」
「そっか、トラ男ありがとな」
「いや…じゃあおれは行く」



そう言って背を向けてしまった。あわててローくん!と呼び止めるとピタリと止まってくれた。



「助けてくれて、ありがとう…」



何も言わず、でもカッコ良く、ローくんは背を向けて行ってしまった。



「ごめんな名前…おれがついて行ってれば…」
「ううん、気にしないで、わたしが勝手に来たんだから」
「ほんとに…すまねェ…」



またエースがわたしの顔を胸に押し付けて来て、わたしもその背中に手を回す。ぎゅーッと最後にキツく抱きしめられた後、体が離れた。



「あいつなんだったんだろうな?つーかなんか見たことある気が……」
「わたしもこの間学校であったよ」
「え!あいつ同じ学校かよ!?」
「あ、うん」
「だからか、ま、助かったな」
「うん!エースもありがとう!」


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