月曜日の放課後、赤犬の部屋にやって来たわたしは一つだけある机の前に座らされ目の前に紙を置かれた。
ふぅっと深呼吸をすれば赤犬が始めるぞと時計を見た。
「お願いします!」
「50分間しっかりやるようにな…始め」
赤犬のその声と共に紙を裏返した。
忘れないうちに、忘れないうちに…!!
「わ…!」
「ん?」
「いえ…」
ムフフフフ…
分かる…!分かるよ…!!
に、にやけが止まらん…!!
初めてテスト中にこんなにペンを動かし続けた気がする…
それくらい今のわたしには余裕で解ける問題ばかりだった。
赤犬に見られていることなど忘れ、わたしは無我夢中でペンを動かし続けた。
「やめ」
「ふぅ…」
終始わたしのにやけ顔は収まることはなく、赤犬の声をと共にペンを置いた。紙はすぐに赤犬に回収され、目の前で採点が始まった。
シュッ
シュッ
シュッ
固唾を飲みながら赤犬の手の動きを見つめた。採点が終わったらしい赤犬はゴホン。と咳払いを一つ、そしてわたしに回答用紙を向けた。
「うっそ…!」
すぐに目に入ったのは92とデカデカと書かれた文字。結果は100点満点中92点。いくら定期テストじゃないにしろ、こんな点数初めてです!!
か、家宝にする…!!
「ま…、お前にしちゃあ、ようやった」
「あ、ありがとうございます!」
赤犬が褒めたよ、わたしのこと褒めたよ!!
たくさんの感動を胸に顔を綻ばせているとまた赤犬が口を開いた。
「これなら、次の中間テストも期待して良さそうじゃのう」
「え…」
中間テストも…?
今回だけじゃなく…?
「次の中間、期待しちょるけぇのぉ」
「も、もちろんでございます!」
「じゃあもう帰ってええぞ」
「はい!し、失礼しましたぁー!」
ガラガラガラッと赤犬の部屋の扉を閉めハァ。とため息を一つこぼした。
中間テストもこんな点数取らなきゃいけないのか…。大丈夫かなわたし…。
「ハァ…」
時計を確認すればもう5時を回っていて、外も少し薄暗かった。
なんだか、1人で帰るの久しぶりだ…。あの3日間は毎日先輩と帰ってたし。少し寂しいな。なんて思いながら、わたしは靴を履き替え校門に出た。
「名前」
「へ…?」
声を掛けられ、視線を向ければ、校門の端に腕を組んで凭れているマルコ先輩がいた。
「なんで…?」
「1人で帰るのは危ないだろい?だから」
「まさか待ってくれてたんですか?」
「さっきまでサッチ達がいたから少しの間だけな」
優しい…マルコ先輩のこういう所好きだな…。
「帰るか」
「はいっ」
マルコ先輩の優しさか嬉しくて、足取り軽く隣に並んだ。
「で、赤犬の方はどうだったんだい?」
暫く歩いて先輩から発せられた言葉にわたしはさっきのテスト用紙を出して、ジャン!と突き出した。
「おぉ!よく頑張ったねい…!」
「でしょ!これ家宝にします!」
そうしろい。と少し可笑しそうに先輩の手がわたしの頭をポンポン叩く。
「全部先輩のおかげです!本当にありがとうございました!」
「名前の頑張りだよい」
「いえいえ!またなんかお礼させて下さい!」
「いいよい、お礼なんて」
「ダメです!絶対します!」
先輩に掴みかかる勢いでそう言うとじゃあ考えとく。と苦笑いで言われた。マルコ先輩ってほんと大人だなぁ。
「あ、中間テストも期待しちょるけぇのぉ。って言われました…」
「今の名前なら大丈夫だろい」
「無理ですよ!」
「フッ、じゃあまた教えてやるよい」
「ほんとですか!?」
よろしくお願いします!と頭を下げれば、こちらこそと頭を撫でられた。これで中間テストも安心だ…!
「ちなみに先輩って学年何位くらいなんですか?」
「さぁねぇ…」
「え、知らないんですか?」
「知ってることは知ってるが、言うほどじゃねェよい」
わたしに教えるのもすごく上手だし、悪いなんてことはないと思うんだけどなぁ。今度サッチ先輩にでも聞いてみようかな。
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