「なー、名前知ってるか?」
「んー?」
「ローグタウンに新しいアイスクリーム屋出来たんだって!」
「そうなんだ」
「3日に行こうぜ!」
「うん、いいよー」
「……」



今はHR。だけど担任の青雉は寝ちゃってるから各自自習に励んでいる。前の席のエースが勉強するわけもなく、椅子に反対向きに座ってわたしの髪で遊んでいて、わたしは地理の教科書を読みながら相手をしていた。


えーっと…、偉大なる航路の後半のことは……



「……名前!!」
「わ!なに!?」



急に大きな声を出すものだから驚いて咄嗟に顔を上げると、口を尖らせたエースがジトッとわたしを見ていた。



「な、なに?」
「お前、俺の話聞いてたかよ?」
「えーっと…」



やばい…。何も聞いてなかった…。
どもるわたしにエースの顔はどんどん険しくなっていく。



「ルフィが…」
「あ、そう!ルフィくんが…!えーっ…」
「ワニに…」
「そう!ワニッ!」
「食われた…」
「そうだそうだ。食べられたんだ!……ってえぇ!?そうなの!?」
「全然違ェよ!!」



スパン!と額にチョップを食らい、いたッ…!とそこを抑えた。



「おれの話全然聞いてなかったろ」
「はい、すみません…」



話を聞いてなかったのは事実。素直に謝るわたしにエースはジト目を送りつつ、さっきから何読んでんだ?と地理の教科書を覗き込んで来た。



「え?これ1年の時の教科書じゃねぇか」
「一昨日の授業わたし寝てたでしょ?赤犬にテストするって言われて…50点取れなかったら一学期成績なしだ。って…」
「ご…ごじゅ…」



50点という数字に驚いているエース。そりゃあそうだよ。一年間の範囲で50点なんて…、しかも赤犬のテストで…!無理!無理!

しかし、わたしには頼りがいるのだ!!



キーンコーンカーンコーン



タイミング良くなったチャイム。青雉を見ればアイマスクを少しズラし、もう帰っていいぞー。とかったるそうに言い放った。

そう、さっきは6限目だったので、もう授業はない!みんなそれぞれ帰宅準備を始めるなか、わたしも慌てて荷物をまとめ急いで立ち上がった。また明日。とエースに声を掛ければ不思議そうな声が返って来た。



「そんなに急いでどこ行くんだ?」
「マルコ先輩に地理教えてもらうの!」



わたしの返答を聞いて目をパチクリさせたエースはえっ!?と大きな声を出した。



「あのマルコが!?おれには教えてくれたことねェのに…!!」
「そうなの?」
「お前、どんな手使ったんだ?」
「どんな手も何も、マルコ先輩から言ってくれたし…」
「はぁ!?」



うそだ。あり得ない。を繰り返すエースを置いてわたしは教室を出た。目指すは3A!
3年生の教室は一階だから、階段を降りなければならない。

マルコ先輩を待たせてはいけないと自然と足の速度が速くなり、階段を駆け下りた。


ドタドタと足音を響かせ駆け下りていると、突然白いものに視界が包まれ、わたしは顔面に強い衝撃を覚えた。


「うぶっ!」


だけど、あんなに激しくぶつかったのに顔が全く痛くない…。
なんだか、とても柔らかい何かに顔を埋めた様な感覚だった。でも、後ろに転んでしまい尻餅はバッチリついてしまったので、お尻に痛みが走った。



「いったー!」
「あ、すみません。ほんっと、すみません…」



上から聞こえた声にわたしはゆっくり顔を上げた。



「え?」



目の前には白い大きな人…というか熊…!?白熊さんはわたしに手を伸ばしてくれて起き上がらせてくれた。

こ、こんな人いたっけ…。



「大丈夫?ほんと、すみません…」
「こ、こちらこそすみません」



階段の上と下。可笑しな状態で頭を下げ合う。その時近くで低い声がした。



「おいベポ、早くしろ」
「アイアイ〜!」



傍にいた隈のひどい男の子に大きな声で返事をする白熊君もといベポ君。すれ違いざま、隈の子と目が合い、ニヤリ。と不適に笑われた…。



「な、なんだろう…」



自然と口に出ていて二人をボーッと見送った。


って、わたしも急がないと!


今度は落ち着いて階段を下り、一階に到着した。A組は一番端っこだからG組から順番に前を通らないといけない。少し緊張するけど、もうチャイムも鳴ってかなり経ってるし、みんな帰ってしまっただろうな。そう思い廊下を歩き始めた。

順調にA組に近づいていた頃、C組の前にさしかかった時、突然名前を呼ばれた。



「おーっ!名前」
「あ、シャンクス先輩のところの…」
「ヤソップだ」
「名前肉食うか?」



わたしに気付いてくれた、ヤソップさんルゥさんが窓から顔を覗かせた。教室の中にも赤髪のメンバーが何人かいるみたいで、中入れよ!とみなさんが誘ってくれたのだけど、今日は用事があるからと断らせてもらった。


「そっかー!また来いよ〜」
「はい!」


残念そうに、でも無理に引き止めることはせずに笑顔で見送ってくれたみなさんにわたしも笑顔を返して別れた。




そして次にB組の前を通ると、ちょうど教室から出てきたサッチ先輩と鉢合わせた。


「あれ?どうした?」
「あ、サッチ先輩!実はマルコ先輩に勉強教えてもらうことになってA組に向かうところです」
「マジか!?あのマルコが勉強を!?おれが頼んでも教えてくれねェのに!」



エースと同じ反応をするサッチ先輩にクスッと笑いが零れた。



「エースも同じこと言ってましたよ」
「だってほんとあり得ねェもん、マルコが勉強教えるなんてよ」



マルコ先輩…、そんなに勉強教えるの嫌なのかな?わたしのを引き受けてくれたのはもしかしてレア中のレアなのかも!赤犬にビビるわたしに同情してくれたのかな。



「まー、頑張れよ!!」
「はいっ!ありがとうございます」



バシバシとわたしの背中を叩いたサッチ先輩と別れ、わたしも顔が広くなったなぁ。なんて思いながら脚を進めると、ついに3Aに到着。扉に手を掛けようとした瞬間、扉がガラッと一人でに開いた。

あれ…?



「お!名前!!どした?おれに会いに来たのか?」
「シャンクス先輩…!?」



目の前に立っていたのは昨日会ったばかりのシャンクス先輩。
なんで先輩がここに…?



「おれA組だぞ?言ってなかったか?」



あれ?言ってたっけ…?
頭の中で考えてみるが、そんな記憶は全くない。うん、言われていないな。



「じゃあ行くかッ」
「え?…わっ」



先輩がわたしの手を取り歩き出し、引きずられるように数歩進んだ。が、その時反対の右腕を掴まれた。



「名前、さっさと始めるよい」
「なんだよマルコー」
「てめぇこそ邪魔すんなよい」



明らかに嫌悪を顔に出しているマルコ先輩と少し余裕気なシャンクス先輩が睨み合う。
お互いにわたしの腕を掴む力が強くなった気がした。


「すっ!すみません!」
「「え?」」


2人の不思議そうな視線がわたしに向いた。


「2人とも痛いです…」


わたしの言葉にマルコ先輩は悪いよい!とすぐに腕を離してくれ、シャンクス先輩も少し力を緩めてくれたが、離してはくれなかった。

シャンクス先輩には悪いけど今日は勉強教えてもらわないと本当にまずい…。


「わたし、今日はマルコ先輩に勉強教えてもらう約束してたんです!」
「勉強?んなもんおれが教えてやるよ」
「お前いつも点数悪いだろい」
「なっ!」


なぜそれを!?と驚くシャンクス先輩に対し、マルコ先輩はフンと鼻を鳴らした。


「テスト中終始寝てるやつの点数なんて予想がつくよい」
「み、見てたのかよ…!ちぇー。今日だけだぞ!」


少し納得がいかなさそうだったけれどシャンクス先輩はやっとわたしの腕を離してくれ、そのまま去って行ってしまった。

ふぅ。とひと息ついたわたしをマルコ先輩は教室に入るように促してくれた。



「めんどくせぇのに捕まったな」
「あ、はは」
「ま、始めるか」
「はい!」
「自分でも少しはやってみたか?」
「少し…、でもあんまり理解してないです」



ただの言い訳だけど、いろいろあってする暇なかったんだよねー…。1年の時の教科書を読んでみたものの記憶にないものばかり。
難しい顔をしたわたしにマルコ先輩は苦笑いを零すと、鞄からそれほど分厚くはない問題集のようなものを一冊取り出した。



「これ一通り解けたら一年の地理は大丈夫だろい」
「こんな量だけで良いんですか?」


教科書と比べて見ても5分の1にも満たないくらいの太さ。答えは書き込まれていないけど、メモがしてあったり結構使い込んである感じがした。本当に良いのか?とその問題集をジロジロ見ていると、要点だけならそんなもんだ。とマルコ先輩はフッと笑った。



「おれが1年の頃使ってたやつだ。それが一番良かったから名前にやるよい」
「わ、ありがとうございます!」



マルコ先輩って努力家なんだろうな、こんなに使い込んである問題集初めて見た。わたしなんて買った当初はやる気だったけどほぼ新品の状態のものがいくつも本棚に入ってるくらいなのに。改めてマルコ先輩がカッコ良く見えた。それにしても、教科書を丸暗記しようとしていたわたし、すんごい無謀だったな。



「それ解いてって分からないところがあったら言えよい」
「はい!」



席に座ったマルコ先輩に元気良く返事をし、わたしも隣の席に座った。

先輩も勉強道具を持って来ていたようで、隣で数学の問題を解き始めた。


なんでそんなにスラスラと…!
それに、その真剣な横顔、めちゃくちゃカッコいい…。はっ、だめだめ、自分のに集中しないと!


わたしもシャーペンを持ち、先輩に頂いた問題集を開いた。最初は基礎からで一問一答式になっている。


えーっと…。

魚人島、海の森にあるポーネグリフに書かれていることとは何か?


なんだっけ?確か、魚人島のは何か他とは違ったような……?
無理、思い出せない。



「あー…!」



思わず机に伏せると、おいおい。と肩を掴まれて起こされた。



「どこだい?」
「ここです……」



最初の問題から分からないなんて…。わたし本当に大丈夫なの…?



「これは知識の問題だからな、知らないと解るわけないよい」
「知識無くてすみません…」
「まぁしょうがねェ、知識はこれから増やせばいい」



こんな初っ端から躓くわたしを馬鹿にするわけもなく、マルコ先輩は丁寧に教えてくれた。



「この答えは謝罪文だ」
「謝罪文かぁ…」



答えを聞くとそんな気がして来た。確かに1年の頃、赤犬が言ってたような…!気がする。



「魚人島は行ったことはあるかい?」
「ないです…」
「なら一度行ってみるべきだな、良いところだ」
「先輩行ったことあるんですか?」
「おう、オヤジとな。海の森ってところがあってよい…」



マルコ先輩は、ただ知識を詰め込むだけじゃなく自分で行って見てみるのも良いことだ。って自分の行ったことあるところの話なんかもたくさんしてくれた。わたしも、いろんな話を聞けて、初めて地理が面白いと感じることが出来た気がする。



「わたし、今日でかなり賢くなった気がする…!」
「その調子だよい、楽しいと思えるようになったら勝ちだ」
「はい!」


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