オレンジ色になった空の下、バス停から自宅までの長くない距離をわたしは、一人ゆっくりと歩いていた。

明日は文化祭。
昨日も今日も、マルコ先輩は文化祭の準備で遅くまで残ってるらしく一緒に帰れていない。

わたしは、なんだかマルコ先輩に会うのが申し訳ない気がしていたから、合わなくても良いというのに失礼ながらもホッとしてしまった。

わたし…ほんと、最低だ…。


「ヴァナータ、何か悩んでいるようね?」
「へっ?」


突然声をかけられ、驚きで変な声が出てしまった。
声のした方へ視線を向けると、道の端に“占”と書いてある机とその椅子に座っている女の人…いや、男??


「ヴァターシは生まれ変わった新人類!ヒ〜ハ〜!」


大きな体ですんごいつけまつげ、それに突然変なことを叫ぶものだから、その怪しさにわたしは身構えた。


「だ…、誰ですか…」

「ヴァターシはただの占い師よ。エンポリオ・イワンコフ。イワさんでいいわよ」
「イ、イワさん…?」


呼び方の指定までしてくるとは少し驚きであるが、次の言葉を聞いてわたしは驚きで固まってしまった。


「ヴァナタ、さっきからあからさまに負のオーラが出てたから、おもわず声をかけてしまったッチャブルけど……学生ね…。いいわ、今回は無料で話聞いてあげる、そこ座りな」


座れって…?
なんだかよく分からないけど、強制的に話を聞いてもらう感じになっているようだ…。

喉をゴクリと鳴らしながらも向かい側に座ると、ジッと顔を見られ、おもわず強張る。


「なるほどね…」
「……!!」
「ヴァナータには最近一つ歳上の彼氏ができたのに、それまで仲が良かった男の事が好きかも知れない。と気が付いた…」
「えっ…!!?」


どっ、どうしてわかるの…!!??


「そして、自分がどうすればいいのかわからない…。違う?」
「合ってます……」


何この人…!
ただの怪しい占い師かと思ったら、わたしの今の状況完璧に言い当ててる…。


「ようするにヴァナータはその先輩彼氏を悲しませたくないのね、自分がフれば、彼はそりゃあ悲しむでしょうから」
「うん…」


マルコ先輩はいつもわたしのこと考えてくれていて、大切にしてくれている。そんな優しい人をわたしの勝手な理由で傷付けたくない。


「でも、そういう中途半端な態度も彼を苦しませるわ、自分の彼女が他の男を好きかも知れないなんて辛すぎるもの。それをヴァナータが隠し切れるならいいけど、今でこそこの状態。まぁすぐにバレるわね、もしくはもうバレてるかも」


そんなことを言われドキリとした。確かに最近はマルコ先輩を避けるような態度をとってしまっていた。それは決して先輩を嫌いになったとかではなくて、ある可能性に気が付いてしまったから…。
でも、イワさんの言う通り、こんな中途半端な気持ちのまま付き合われてもマルコ先輩だって嫌だよね…。


「あの!わたし…どうすれば…」
「自分の気持ちに正直になることね!!ヴァタシ達のように!ヒ〜ハ〜ッ!」


こ、この人、個性的すぎる…!!


「ヴァナタの気持ちは、まだ“かもしれない”なんでしょ?もし本当に好きだって確信が持てたら、その時はその気持ちに素直になりなさい。きっと彼もわかってくれるわ」


自分の気持ちに素直に……。


「わかりました、ありがとうございました!イワさん!」
「いいのよ、悩める子羊達を導くのがヴァターシの役目!ヒーハー!」


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