やっぱり帰ろうかな……。
わたしは今エースの自宅の前に突っ立っている。
その経緯は数時間前に遡ることになるんだけど……
「どうして避けるんだろう……」
「どうしたの名前、最近やけに火拳のこと見てるのね」
ボーッとエースを見ながら考えていると、隣の席のノジコにこう言われた。
今この授業もエースは机に伏せて眠っていて、ヒナ先生は完全無視で授業を進めてる。
「マルコと付き合えたっていうのに、あまり幸せそうに見えないけど」
「マルコ先輩はいい人だし、幸せだよ、ただ……」
「ただ?」
「最近エースと話してないし…なんだか避けられてる気がして」
「へぇ?」
わたしの言ったことに面白そうに眉をあげたノジコは形の良い唇の端をにやりと吊り上げた。
「だったら家にでも押し掛けたらいいんじゃない?」
「え、えーっ!」
あの後はヒナ先生に怒られてしまったから会話はそこで終わってしまって、授業後にもこの話をすることはなかった。
ノジコは冗談で言ったのかもしれないけど、わたしはエースのことが気になってたし、意を決して家に行くことに決めたのだ。
誰かいるかな…。
コクリと喉を鳴らし、震える指をインターホンに押し付けた。
ピーンポーン
軽快な音が鳴り響き、家の中から声が聞こえた。
「わしゃ今忙しいんじゃ、お前出てこい!」
「せんべい食ってるだけじゃねぇか!」
そんな会話の後に、扉は開いた。
「誰だァ?」
声ですぐにわかったけれど、扉が開いて出てきたのはエース。
わたしは第一声に、あっ。と声が出ただけで次の言葉を考えていなかった。
でも、これで話せる、そう思ったのも束の間、エースはわたしを見ると目を見開き、すぐに扉を閉めようとした。
わたしはすかさず手を出し、そうはさせるかと扉を両手で掴んだ。
「ッ!手ェはなせ!危ねェだろ!」
「じゃあ閉めないでよ!」
「おい!いいからはなせって!」
「はなさない!」
絶対はなしてやるもんか……!!
扉を必死で閉めようとしてるエースにわたしはねぇ!と声を上げた。
「どうし避けてるの!?わたし何かした?」
「……」
わたしの言葉に何かを考えるように動きを止めたエース、そのせいで扉からてがはなれ、扉を開けようとしていたわたしが後ろへ転びそうになってしまった。
しかし、すぐさまエースが腕を引っ張ってくれて転ぶことはなかった。
「あ、ありがと」
「……」
それでも口を開こうとしないエース、わたしは折角のチャンスを逃すものかと話し続けた。
「もう…、わたしと話すの嫌になっちゃった?何かしたなら謝るから……」
「別に……、今までだってクラスが同じだっただけじゃん。わざわざ家来られても困る。帰れよ」
「っえ……」
エースは冷めた目でわたしを見て言い放つと、パタンと扉を閉めてしまった。わたしはゆっくり閉まる扉を止めることもできずにただ突っ立っていた。
視界が歪む。
あ…
やばい
泣きそう…
って、もう涙出てきてるじゃん……。
自室へ戻り、ベッドの端に勢いよく座るとベッドが変な音で鳴いた。
右手で髪をグシャリと掴む。
クソ…なんで家にまで来るんだよ…!
マルコと付き合ってんだからおれに構うなよ……!!
せっかく、顔合わせねェように頑張ってたってのに…
わかれよ!名前はなんも悪くねェ、おれが勝手に避けてるだけだ。
まだ慣れねぇんだ。名前とマルコが付き合ってるって事実に。
もう名前と出かけたり、くだらねぇことできねえんだって思ったら、名前と顔合わせんのが辛い。
だから、その事実を受け入れて、二人を祝福できるようになるまで名前と距離を置くつもりだった。
なのに、おれのためにここまで来てくれて、必死で話そうしてくれて、名前もおれと話せないのが辛いみたいな顔してくれて……、気持ち揺らぐじゃねぇか……!!
「エース…」
「……」
声がして部屋の扉を見ると、ルフィがすごく心配そうな表情で部屋を覗いていた。
おれは、弟になんて顔をさせてるんだろうと思う。
「さっき、帰りに泣いてる名前とすれ違ったぞ」
「……泣いてたのか?」
「おれが声かけても気付いてくれなかった」
「まじかよ……」
自分の膝を見つめて顔を歪めた。
なんで…おれなんかのために泣くんだよ…。
視線の先にルフィの足が映った。
顔をあげると少し睨みつけるようなルフィの目とぶつかった。
「おれ!姉ちゃんは名前じゃなきゃ嫌だからな!!」
「ルフィ……」
茫然と見上げるおれをよそに言い切ったルフィはフンッ!と鼻から息を出した。
「名前が他の奴と夫婦になるなんてぜぇーったい!!認めねェ!」
また鼻からフンッ!!と息を吐くと、ドシドシと音を立てながらおれの部屋を出ていった。
また静寂の訪れたことにより頭が冷静になる。
「つってもどうすりゃいいんだよ…」
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