「腰が引けてる、そう、避ける時はなるべく姿勢は低くしろよい」
「はいっ…ッ!!」
甲板を歩いてれば、声が聞こえた。覗いてみれば、マルコと名前がいた。
それも二人で組手をしている。
その様子が衝撃で、思わず立ち止まった。
「なんで名前が……」
甲板では他の奴らの戦闘訓練をしていたところだ、おれもさっきまで参加してた。
いつの間にかマルコの姿がないとは思ってたけど、こんなところにいたと思ったら名前までいる。
理解が追いつかなくてその二人から視線を外せない。
まさか…、また戦い方を覚えようとしてるのか?
マルコの指摘通り、さっきよりも姿勢を下げた名前。
息も上がってるのに、一生懸命マルコに向かっていく。
なんでそこまで戦い方を覚えたいのかわからねぇ。
だけど、
あいつ、あんな動きできたのかよ…。
もしも、あの時名前の訓練を止めなかったら、もっと戦えるようになってたのか…。
いや、けど、あれ以上の怪我を負ってたかもしれねぇだろ…。
向かってきた名前をマルコは軽くいなす。
その時名前の動きが止まって手を押さえた。
「いたっ…」
そんな声に思わず足が動いて、すぐ踏みとどまる。
見てれば、手を止めたマルコが近づいてその手を取った。
「捻ったか」
「はい…、すみません」
「いや」
そのままマルコの手が青い炎に包まれる。もちろん名前の手も一緒に。
あいつ何してんだ…!!
思わず飛び出しそうになるが、特に慌てる様子もない名前を見て動きが止まった。
むしろ、目を輝かせてその炎に見惚れてる。
…あんなカオ初めて見た。
思わず視線を逸らしてその場を去る。
…そうか。名前はマルコを選んだのか。
ずっと同じ部屋にいて、何もないわけがねぇ。
爪が食い込むほど拳を握る。
やるせなくて、もうどうしようもないのに、自分から遠ざけたはずなのに。
名前が誰かのものになるってのが、こんなにも辛いなんて思わなかった。
「おー、エース!戦闘訓練は終わったのか?」
前から歩いてきたデュースが声を掛けてくる。
おれの顔を見てギョッと目を見開いた。
「なんだよ、そんな怖い顔して…」
「別に…」
「お、おい…」
すぐに横を通り抜けようとするおれにデュースは戸惑っているようだったが、おれの背に向け声をかける。
「名前知らねぇか?サッチ隊長に呼んでくるように…「知らねぇよ!!」
「なんだよ…、ってどこ行くんだよ」
「寝る!」
「おい…」
デュースがため息を吐くのが聞こえた。
そのまま進んで、はっ。と気づいて引き返す。
デュースの背を見つけてすぐに掴んで振り向かせた。
デュースは一体なんなんだと困惑を隠そうししない。
「名前が手怪我してるから、診てやってくれ!」
「はぁ?」
それだけを言ってデュースを置き去りにその場から離れた。
マルコの能力はよく知らねぇけど、万能ではないってのは聞いた。
ちゃんと手当は必要になるだろうからな。って…
「何がしてえんだよおれ…」
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