「こんな時間に呼び出して一体なんなんだ…」
「まーまー座れって。はい、これお前のな」



今にも床に就こうとしていた時、マルコ隊長から呼び出された。
一体何事だと慌てて来てみれば、そこにはサッチ隊長の姿もある。

この人がいるってことは、仕事の話ではないだろう。

丸テーブルの上には酒瓶と少々のツマミ
すでにマルコ隊長は席に座ってグラスに口をつけながら手を挙げた。
サッチ隊長はおれにも酒の入ったグラスを渡すと、もう一つツマミの入った皿を持ってきて席についた。

促されるまま席につき、三人でテーブルを囲う。


一体なんなんだ…。

二人の隊長に挟まれ、まるで尋問でも始まるのかという雰囲気すらあるが、サッチ隊長はなんだか楽しそうだ。
マルコ隊長はサッチ隊長ほど興味はなさそうだが、それでもおれをここに呼び出すために自分の名前を使ったのだから、何かしら目的はあるんだろう。

二人の目的がわからないまま不安に感じつつ受け取った酒を一口飲んだ。



「今日来てもらったは他でもない、エースと名前のことだ」
「は?」



サッチ隊長の楽しげな言葉に反しておれから出たのはその一言だった。
呆けた返事をするおれにサッチ隊長は「だから!」と続けた。



「幼馴染って話だけど、なんっか変じゃね?お互いから話聞いたことないし」
「あんたら、それを聞くためにわざわざ呼び出したのかよ…」



こんな最近入った新入りの関係性なんて気になるもんか?
ほんとに四皇の隊長達なのか疑わしい。
おれの引き気味の視線に気づいたのかマルコ隊長は「おれは名前のことが気になってよい」と弁明するように言った。



「護身術覚えるように言ったんだが、昔エースにやめろって言われたとかで、なんとなく前向きじゃないんだよい」
「あー、それは…、そうだな…」



思い当たる節がありすぎて思わず言葉を詰まらせる。
サッチ隊長は「なんだなんだ!?」と前のめりに顔を突き出した。

あの二人のこと、おれが話してもいいのか…。
少しの罪悪感はあるが、この二人に逆らうこともできずおれは口を割った。



「エースは名前が傷つくのを極端に嫌がるんだ。一度、名前が連れ去られたことがあって、あの時から特に。前に名前が戦い方を覚えたいっておれらに言ってきたことは確かにあったが、おそらくエースが手を回したのかやめさせてる」
「…傷つけたくないなら、それこそ護身術覚えるべきだろい」
「まぁ、普通はそうなんだが。エースは自分が守るって考えてるんですよ。戦場にすら出したくないって」
「過保護だなぁ」
「戦場に出したくないって気持ちはわかるが、何かあった時のためだろい」



マルコ隊長はそう言うが、あの時はおれたちもいろいろ頑張ったんだ。隠れてこそこそ特訓して。まぁ、結局エースにバレてたし、その上名前は怪我しちまうし。
今思えば、あれから名前が戦えるようになりたいって言うことはなくなったなぁ。



「おれも戦場にまで出す気はねぇが、この海では何が起こるかわからねぇからな…。それに、あいつにはセンスがあるよい」
「へぇ…!」



マルコ隊長からの意外な言葉におれの眉が上がる。
あの時おれが見てた時はまだまだ動きが鈍かったし、戦えるようになるにはまだまだだろうと思ってたんだが、この人にはそう見えるのか。

きっとこの船でもいろんなやつの訓練を見てきてるはずだから、おれなんかの感覚よりもきっと合ってるハズだ。もしかすると、名前も自分の身を守れるようになれるかもしれないな。

マルコ隊長を見れば、おれが驚いたのがわかったのか、手に持っていた酒を一旦置いて話し始める。



「まだまだ動きは鈍いが、器用さがある。一度言ったことは修正できるし、理解も早い」


最初に銃を教えたのは正解だったな。戦い方としては名前にぴったりだ。


そんな風に言われると、なんだか嬉しくなる。
名前の非力さや小柄さを考えると、持ち歩くにも技術を獲得するにも一番だと先生達と相談したのを思い出す。



「名前は力が弱いが、器用で要領もいい。今までもいろんなことを頭を使って乗り越えてきた。身を守る術を身につけることは、あいつにとってもきっと自信に繋がるはずだ。よろしく頼むよ」
「もちろんだよい」



少し頭を下げれば頼もしい返事が返ってきた。
顔を上げれば口角を上げたマルコ隊長と目が合う。

きっとこの人なら、名前の良いところを引き出して伸ばしてくれるだろう。



「それで?エースと名前は何、付き合ってたとか?エースは名前のこと好きだよな?」



今まで黙って聞いていたサッチ隊長は、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに核心をつくようなことを言ってきた。思わずその言葉におれははぁ。とため息を吐く。
マルコ隊長は驚いたように少し目を見開いているから、どうやら気づいていなかったらしい。

エースのことも気にかけてはくれているが、どちらかといえば名前の世話役だからな。



「エースの気持ちはスペードの奴らは全員気づいてますよ。……名前以外」
「やっぱそうだよな!あんだけ気にしてりゃ誰だって気づく」



サッチ隊長のその言葉にマルコ隊長はわかりやすく咳払いをした。



「それで?エースの片想いってだけかよい」
「いやー…、もうあの二人は、おれらじゃ手に負えないくらい拗らせてて…」



エースの気持ちはもう引くぐらいには名前に向いてる。だけど、どうにも本人を前にすると素直になれねぇらしい。不器用すぎるエースの態度から気持ちが名前に伝わるはずもなくここまできてしまった。



「じゃあずっとあんな感じなのか…」
「いや、それがそうでもない」



おれの言葉にサッチ隊長は頭を傾ける。


初めてあの二人と会った時にエースの気持ちはすぐにわかった。この子を離したくないんだろうって。

だけど、名前の方は、なんというかエースに怯えてるような、逆らえない。そんな感じがした。それからの航海中もその通りで名前がエースに逆らうことはなかったし、いつも従順。
自分はエースの決めたルールの中で生活してるのに、自由なエースに文句の一つも言わない。
だから、名前にとってエースは主人、みたいなもので、好意だとかそういうものはないのだと思っていた。

だけど、よくよく考えればエースのために戦闘を覚えたいと言ったり、エースが囮になると言った時も一番にエースの考えを理解してた。逆らえないんじゃなくて、名前が一番エースを信頼してるんだってことに気がついた。

あの二人には主従関係じゃなくて、信頼関係が築かれてるんだって。

二人ともそこを理解してないのが厄介だけどな…。


今までのあいつらを見てきた身としては、どちらかと言うと、ちょうどこの船に喧嘩を売る前くらいが、今までで一番限りなく近づいていた。うん、多分、物理的にも。



「エースは、この船に喧嘩を売る前、名前を一人船に残してたんだよ。絶対戻るって約束してな」
「それが親父に負けてあの状態になったとか?」
「戻るって約束を守れなかったことに引け目を感じてるらしいんだよ」
「はー。エースってそういうこと気にするタイプなんだな」



意外そうにサッチ隊長が笑う。
マルコ隊長は聞きたかった名前の戦闘のことを聞いて満足したのか。もうすっかり聞き手に回っている。



「たぶん、他のやつらならそんなこと気にしないが、エースにとって名前は特別なんだよ」



おれもエース本人からそこまで詳しくは聞いたことがないから、あいつが何考えてるのかわからねぇけど。
でも、今のエースは名前に対して何か今までとは違う考えがあるんだろう。

この船に来て名前も環境が変わって、なんというか、楽しそうだ。
おれたちのこと信頼してなかったわけでは決してないと思う。
ただ、おれたちが名前の良いところを引き出しきれていなかった。

それを引き出したのがマルコ隊長。
そのことにエースも気づいてる。だから、無理矢理にでも自分の元に戻すってことができないんだ。
自分だと、また名前の良いところを押しつぶしてしまう。とでも思ってんのか。
エースといる時の名前が決して自分を殺してたわけじゃないと思うんだがな。


サッチ隊長もなるほどなぁ。と腕を組んだ。
マルコ隊長も興味なさそうな表情をしているものの、しっかり会話は聞いているようで、何か考えてるみたいだ。



「もうどうしたらいいのか…」
「あー、けどそれってさ」



サッチ隊長は一口酒を含んでツマミを手に取った。



「今までスペードのやつらって、エースの気持ちをわかってて見守ってきたんだろ?それにエースも甘えてたところがあるんじゃねぇのか?」



その言葉におれの頭には疑問が浮かぶ。
確かにおれ達はあいつらを見守ってきたが、エース自身はおれ達が気持ちを知ってることすら気づいてなかったんだ。

不思議がるおれにマルコ隊長が補足するように続けた。



「今までと違って、この船にはエースの気持ちを知ってるどころか、名前を狙ってる奴が多いってことだろい。今までなら、何もしなくても名前を誰かに取られる心配なんてなかったが、これからは、名前を狙ってるやつらがいる以上、エースも何かしら行動しねぇといつ名前を奪われてもおかしくはないってことだろい」
「そういうことか…」



マルコ隊長の言葉におれが納得すると、サッチ隊長はそれが言いたかった!とツマミでマルコ隊長を指す。



「少なからず、いろいろ声をかけられてる名前を気にしてそうだったぜ」



どうやら名前は頻繁にいろんな奴らから声をかけられているらしい。名前は自分を気にかけてくれていると思ってるらしいが、側から見れば下心が丸見えなやつらばかりだと。



「そういうのが、良い方に作用してくれりゃいんだがなぁ…」



おれの言葉に二人とも苦笑いを浮かべる。
あの二人の拗れようは普通じゃないが、ずっと見守ってきたおれとしてはやっぱりあの二人には上手くいってほしいと思う。

[ 72/114 ]

[*prev] [next#]


もくじ




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -