この船の航海士は人数が多い。
だから、常に全員が稼働しているわけではなく、交代で航海を続けている。
常に操舵室に人はいるけれど、緊急時以外に全員が揃うことはないのだと言われた。
だから、それ以外の時間はみんな海賊らしく飲んで食べたり、釣りを楽しんだりと過ごしているらしい。
わたしは空いた時間はナースさん達とお話ししたり、書庫で本を読むなどして自由に過ごさせてもらっている。
書庫から気になる本を数冊取って部屋に向かう途中甲板の方が騒がしくて外に出てみた。
やれー!いけー!などの声援と中心で戦っている人が見えて戦闘訓練中なのだとわかった。
その中にはマルコさんもいて、戦闘を見守るように腕を組んで立っていた。
周囲には武器を磨いている人や、自主トレーニングをしている人もいる。
そんな中に操舵室で見かける航海士さん達もその中にいるのに気がついた。
そっか。あの人たちも戦うんだ…。
そりゃあ、海賊なんだから、当然だよね。
なんとなく足が止まってその光景を見つめていると、以前訓練しようとした時の苦い記憶が蘇った。なんとなく居た堪れなくて、口をキュッと閉じて踵を返す。
わたしには向いてない…。
そのまま立ち去ろうとすれば背後から名前を呼ばれた。
突然のことに驚いて振り返ればマルコさんがこちらへ向かっている。
なぜ呼び止められたのか分からず見つめる。
何か頼み事かな。
マルコさんはわたしの前にくると、ちょうどよかったと話し始めたが、その言われた言葉にわたしは軽く目を見開く。
「護身術…?」
「あぁ」
マルコさんから言われたのは護身術を覚える気はないかということ。
突然すぎる話に驚いたけれど、マルコさんは続けて話してくれる。
ここの船の人たちは男の人がほとんどで、航海士さんたちも例外なく、みんなそれぞれ戦える。ナースさん達のような非戦闘員は戦闘時には安全なところに避難しているけれど、いつ何が起こるかはわからないから、ある程度の身を守れる術は持っているのだそうだ。
「常におれがそばにいるわけじゃないからねい、何かあった時のためにも覚えておいて損はないと思うんだよい」
「そう…、ですね…」
頭に浮かぶのは、先ほども思い出したあの時の記憶。
わたしの表情が変わったのがわかったのか、マルコさんが首を傾げた。
「やっぱり嫌かい?」
「そうじゃないです…!ただ…」
「ただ?」
「前にデュースさん達に教えてもらって訓練したことはあるんです…。でも怪我しちゃって、エースくんもやめろって…」
わたしの説明にマルコさんは少し難しい表情を浮かべた。
「エースにねぇ…」
何か思案するように腕を組んで視線を外す。
しばらくの沈黙に今度はわたしがマルコさんを覗き込む。
「マルコさん…?」
「あぁ、いや。ま、やるかやらないかは名前次第だ。やるならおれが教えるからよい。ま、少しくらいの怪我は覚悟しないといけねぇが」
マルコさんにそう言われて少し考える。
確かに、新世界の海で四皇の船の一員になったのだから、今までのように守ってもらうだけではダメなのかもしれない。それに、マルコさんが教えてくれるというのだから…。
「そうですね…」
思案するわたしをマルコさんは黙って待ってくれる。
マルコさんが教えてくれるのなら、大丈夫かもしれない。
「…お願いします」
「あぁ」
頭を下げればポンとマルコさんの手が優しく乗った。
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