「ガーゼ持ってきてくれる?」
「包帯も必要かしら?」
「イデデデデッ、もうちょっと優しく!!」
「あら、これでも優しくしてるわよ」
なにやら騒がしい音や声で目が覚める。
視界に広がった天井は全く見覚えのないもの
少し体を動かしてみれば一人の男性が座っているのが見えた。
机に向かって何か書いている。
この部屋にはわたしとこの人しかおらず、騒がしい話し声や音は隣の部屋からしているのだとわかった。
少し体を起こせば、机に向かっていた男がこちらを見る。
そして、起きたか。と驚くでもなく、ただそう言った。
「あの…、わたしは一体…」
わたしの質問にその人は眉を寄せてはぁっと一度ため息を吐いた。
そして、近くまで来ると、手に持っていた紙を見ながら少し気怠そうに口を開いた。
「栄養失調、寝不足、貧血…、心当たりは?」
「あ、あります…」
「それに熱もある。栄養不足で免疫も下がってたんだろうな」
海上での感染症の怖さ舐めてんのかよい?
紙を下され、その人と目が合う。
その人の顔は知らないはずのない人のもの。
白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコ
かの四皇白ひげの右腕と謳われる男だった。
ということはここは白ひげ海賊団の船なのかと頭の中で理解する。
独特の雰囲気を持っている人だった。
威圧されているわけではないのに、彼のオーラというか持つ空気感に緊張する。
マルコさんが右手を胸の前に持ってくると、突然その手に青い炎が纏われた。
それに驚いて目を見開く。
この人も…悪魔の実の能力者なんだ…。
炎を見て思い出すのは当然エースくんのこと。
だけど、この人の炎はこんなに近くにいるのに熱さを感じなかった。
「おれの治癒の力は回復力を増進させるだけだ。あとはしっかり療養しろい」
「はい…」
一番隊隊長のマルコさんはわたしから視線を外すと踵を返し、また机への上にある資料のような用紙に目を通す。
「あ、あの、エースくんは…!」
ずっと気になっていたことをようやく口にすることができた。
わたしが口を開いたことで彼はこちらを向いて、何かに気づいたように片眉を上げた。
「へぇ。捕虜かとも思ったが、やっぱり仲間かい」
またこちらへとやって来て、まじまじと物珍しそうにわたしを見下ろす。
その時、
「ぎゃー!いてぇー!!」
「ちょっと!暴れたら治療できないわ」
隣の部屋から聞こえた声に、彼もわたしも隣室へとつながるのであろう扉を見た。
声が止んで、マルコさんが再びこちらを見た。
「火拳は無事だよい。この船に乗ってる。他のやつらもな」
呆れたように隣室を指さした。
一瞬その意味を理解しかねたが、さっきから聞こえていたのはスペードの誰かが治療してもらっている声だということに気がついて、ほっと息を吐く。
次いで名前は?と聞かれ、躊躇しながらも名乗る。
「雑用か何かか?」
「いえ、…一応、航海士を…」
「ほぉ」
少し興味深そうな反応を見せた彼は少し距離を詰めた。
眉だけを動かし、捲し立てるように質問を続ける。
「誰に教わった?」
「独学なので…、たいしたことは…」
「独学で新世界の航海を?」
「…は、はい」
目を見開いて驚いたと思ったら、黙って何かを思案している。
一体どうしてそんなこと聞くんだろう。何か思惑があるのか不安になる。
見上げれば少し口角を上げた彼と目が合った。
そして、ポンと手のひらが乗せられその重みで頭が少し沈む。
「ま、まだ休んでろい」
そんな優しい言葉をかけられ、彼は先ほど見ていた扉を開き部屋から出て行った。
自分の置かれている状況はわかったのだけど、不思議なのがさっきの彼の態度だ。
わたしは敵に捕まったのだ。捕虜として、奴隷のような扱いを受けるのではと不安に思った。
なのに、ベッドに寝かせて休んでろなんて。
どう考えても捕虜への扱いではない。
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