真実  1/1

「話って…なに?」


体育の授業の前、ミネはおれの呼び出しに少し驚いた素振りを見せたが、期待に満ちた目でおれを見つめる。
ちょうどその時、始業のチャイムが鳴ったがおれ達はそのままグラウンドの隅にいた。


「お前、名前になんか言った?」
「…え」


みるみる強張っていくミネの表情。それを見ておれは溜息を吐く。
手を額に当てる。言ったな。これは。


「なんであいつに絡む」
「それは…」


ふとミネの視線が下げられて、次は力強く目を見られた。


「あの子の立場がズルいからだよ!!」
「は?」


涙目になって訴えるミネを冷静な目で見つめた。


「幼なじみだからってずっとエースくんのとなりにいて、お弁当まで作って。あたしがどう頑張ってもあの子がいる限りエースくんに近づけないじゃん!」
「……それは、違う」
「え…?」


ずっととなりに居ようとしてたのは名前よりもおれの方だ。あいつを手放したくなくて、幼なじみって立場を利用して、あいつの人間関係までも制限してきた。
名前は何も悪くない。おれを振った後でも幼なじみとして大事にしようとしてくれていただけだ。


「それってどういう…」
「おーい!!お前ら!!何サボってる!!」


グラウンドの中心から叫ぶ体育教師の声に我に返った。
声のした方を見ると、体育教師が怒りを露わにした顔で、クラスメイトたちはおれ達にひやかしの目を向けていた。

ミネと顔を合わせ、どちらも何も言うことはなく授業へ戻った。




放課後、一刻も早く名前と話したくて、あいつに誤解だと伝えたくて。焦る気持ちを抑えながら荷物をまとめて教室を出た。だが、すぐに後ろから呼び止められる。
立ち止まって振り返ると視線と眉を下げたミネが立っていた。


「ちょっとだけ、いいかな」


すぐにでも名前のところへ行きたいが、目の前のミネの反省している。という表情に自分の中に同情という感情がおこった。

少しくらいなら、いいか。

ミネについて中庭のベンチに向かい、並んで座った。
するとすぐにミネは顔を上げ、おれに向かいあうように身体をこちらへ向けた。


「あの…!!さっきのどういう意味?」
「ん…?」
「それは違うってエースくん言ってた」
「あぁ…」


さっきのことか。

伺うようにミネがおれを覗き込む。
風が吹いてで長い髪がその顔にかかった。

おれの曖昧な態度も名前を巻き込んで、傷付けてしまった要因の一つなのかもしれない。なら、はっきりさせとかねえとな。


「名前がじゃなくて、おれの方が名前に執着してるんだよ」


おれの言葉にミネは諦めたように笑った。なんだか最初からわかっていたような雰囲気だ。


「やっぱりそうだったんだ…」
「あぁ。だからあいつは何も悪くない」
「うん…ごめん」


視線を下げ軽くおれに頭を下げると、少し曖昧に笑ってミネは言った。


「エースくんを縛ってるのは名前ちゃんの方だって勝手に勘違いしてたみたい」


おれがずっと名前にくっついて来た関係も、周りからすればそう見えていたのかもしれない。今回のことでミネを責めるつもりはない。おれが名前に気持ちも伝えずはっきりさせていなかったことが一番の原因なんだ。それにおれは、名前には選ばれなかった。


「ま…。もうあいつには彼氏できたみたいだったけどな」
「え!?うそ!」
「ほんとほんと」


おれがそう言って両腕を上に伸ばしてのびをすれば、ミネは少し視線を下げ、考えごとをするときのように手を口元にもっていった。


「エースくんも結構鈍いところあるよね」
「はぁ!?」


ミネは、ニヤッと猫が笑うみたいに意地悪そうに笑う。
おれは言われた意味が分からずミネを覗き込むが彼女は笑っただけだった。


「だってあたしの好意にも全然気づいてなかったでしょ」
「はっ!?……そうなのか?」
「ふふ、うん」


なんだかすっきりしたような笑顔を向けるミネにおれは呆然と返す言葉が見つからなかった。


「名前ちゃん。エースくんのためにって買い物すごく楽しそうにしてたよ」
「あいつは料理すきだから」
「ほら。鈍い」


そう言われた瞬間、今まで隠されていた何かが見えたような感覚。
まるで、風が吹いて視界が開けたみたいだ。
ミネは少しだけしたり顔だ。


「おれもう行くわ」
「うん。また明日ね」
「おう」


ベンチから立ちあがる。
ミネは手を振っておれを見送ってくれた。

行先は決まってる。


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