止まらない  2/2

トイレから戻って自分の席に誰もないことを確認して、席に座った。

つい、ウソついて逃げちゃった。
さっきエースに言った先生に呼ばれてたなんて嘘だ。あの空気に耐えられなくなってついてしまったけど、心の中では罪悪感が広がった。


「はぁ」


とても食事をする気分にはなれないけど、お箸を持って途中になっていた昼食を再開する。

まさか、エースが来てくれるとは思わなかったな。


さっきのは、自分の気持ちとは正反対の行動になってしまったけど、これでよかったんだ…。きっとエースは今頃彼女と…。


「はぁ…」


言い聞かせたくてもやはり、溜息が止まらない自分に情けなくなる。
わたしがもっとあの子よりも早く気持ちに気づいていたら何か変わったかもしれないのに…。


ブブッ

そんな時ケータイが震えてメッセージの着信を知らせた。
そのまま画面を開いていくとそれは意外な人物からだった。


“今日学校が終わったら病院へ来い”


「トラファルガーさん…?」


たったこれだけの文章では彼の意図は全くつかめない。
この間ので二度と会うことはないだろうと思っていただけにかなり驚いている。

一体何の用だろう…?

自分が何かしでかしたのか。いやでもあの数分で特に問題はなかったはず。
あ、もしかして梅が苦手だったこと?でもそれでわざわざ呼び出すような人じゃ…。
うーん。わからない。考えても考えてもトラファルガーさんの呼び出しの意図が掴めない。とりあえずなんの用ですか?と返信する。



ブブッ

すぐにメッセージの受信を知らる音が鳴り、開くとトラファルガーさんから。

“見せたいものがある”


絵文字もなにもない質素な文面、彼らしいといえばそうなのだけど、見せたいところ…?って一体何?
この人メッセージの相手間違えてないかな?


“このメッセージ、わたし宛てであってますか?”

“お前、おれをバカにしてるのか?”


すぐに返って来た返信にあってるんだ…。と心の中で驚く。
にしても一体なんなんだろう?


そんな風に考えながら過ごしていたせいか、一日があっという間に過ぎていき、たった今最後の授業のチャイムが鳴った。

トラファルガーさんには、とりあえず了承を返したのだけど、このおかげでエースのことを考えずに過ごせた気がする。

授業が終わったことでみんなが帰る準備を始めてわたしも荷物を鞄にまとめた。
またもケータイが着信を知らせたので開いてみるとトラファルガーさんから返事が来たみたいだった。


“校門で待ってる”

「え?」


彼からの返事の意味がわからず理解が出来ずにいると、どこからか「きゃー!!」と悲鳴が聞こえた。


「ちょっと!!」
「何あのイケメン!!」
「あのブランドの車乗ってる人初めてみた…!!」


クラスメイトが教室を飛び出して校門が見える廊下の窓に張り付く。
わたしも追って見てみれば他のクラスの子達も視線は同じ。

戸惑いながらその様子を見ていれば、そこでまたケータイが鳴る。


“遅い”


そんなメッセージがきて、おそるおそる窓から下を覗き見ると、校門前に高級車を止め、壁にもたれかかっている長身のトラファルガーさんがいた。こちらを見上げわたしを探しているようだった。

にしても、この廊下にいる生徒だけでなく、下校中の生徒たち、近くを通った事務員さんさえもみんなが彼に注目していた。

あそこに行かなきゃいけないと思うと泣きそうだ。
だけどあんなに注目を浴びている彼をこれ以上待たせるわけにはいかない。
わたしはすぐに1階へ行き、靴を履き替えトラファルガーさんの待つ校門へ向かった。

少し人だかりになりつつある彼のもとへなんとか辿りつくと「遅い」と盛大な舌打ちをしてくれた。


「すみませんっ、まさか学校に来るなんて思ってなくて」
「まぁいい、行くぞ」


待たされたことと注目を浴びたことで苛立ちを隠そうともしないトラファルガーさんがわたしの腕を掴んだ。そのことで周囲が大きくざわつく。


「名前!!」


名前を呼ばれて、振り返る。

人の波が避けて行き、中心に声の主であるエースの姿があり、隣に立つトラファルガーさんを見たエースは諦めたように声を出した。


「お前…、そういうことかよ」
「な、なに…?」
「彼氏ができたんならそう言えば良かっただろ」


エースが盛大に勘違いしている気がしてならない。
それは間違いなくトラファルガーさんとわたしを見てのことだろう。
咄嗟に「違う!」と大きく声を上げてしまう。エースにはトラファルガーさんとの関係を誤解されたくない。もう、エースのことは諦めようと思っていたはずなのに、そんな風に考えてしまう。
チラと横に立つトラファルガーさんを見やれば、それにすら苛立ったようにエースは舌打ちをした。


「学校にまで連れてきて、自慢でもしたかったのか?自分には彼氏がいるって」
「本当に違うから。やめてエース」
「じゃあなんでだよ?」


エースが近づいて来る。
すごい剣幕だ。正直怖いし泣きそう。
だけど、逃げたいと思うも足も動かなかった。
エースが目の前に来て見下ろされる。
エースはわたしの返事を急かすように次々と言葉を投げてくる。


「じゃあなんで突然弁当作るのやめたんだよ!?」
「それは…っ」


これを言ってしまっていいものか。エースから視線を逸らせず、頭の中では昨日のことが思い出される。わたしと同じようにエースも言っていい言葉を選んでいるように感じる。
お互いに一線を越えないよう言葉を探っているみたい。


「エ、エースだって!彼女がいるならそう言えば良かったでしょ」
「は?なんのことだよ」
「もう隠さなくていいよ。エースに彼女がいるんなら、わたしはもうお弁当作りたくない」
「ちょっと待て、さっきから何言って…!!」
「それに、前から思ってた、幼なじみだからって一緒にいすぎたんだよ。エースには彼女がいるんだし、そろそろわたし達、離れるべきだと思う」
「はぁ!?」


前から思ってたなんて嘘。わたしだってエースとはずっと一緒にいるものだと思ってた。
だけど、エースとあの子のためには、わたしはエースと離れるべきなんだ。
エースは意味がわからない。と、焦っているような表情を浮かべる。


「今更何言ってんだよ!今までずっと一緒だったじゃねぇか!」
「だから!今回をきっかけに距離を置こうって言ってるの!」
「嫌に決まってんだろ!」
「どうしてっ!!」
「好きだからだよ!」


グッと息をのむ。
もちろんエースがわたしを幼なじみとして好きだって言ってくれることは嬉しいに決まってる。けど、そんなエースの勘違いさせるような態度に、あの子だって不安になってるんだ。わたしはエースがすきだけど、エースとあの子の幸せの邪魔はしたくない。


「ごめん、だから、そう言うのがダメなんだってば」
「は?」
「もう…行くね」
「待てよ名前!」


背を向けて歩こうとしたわたしの手首をエースが掴む。その力強さにあの日のことが蘇った。エースを怖いと思ったあの時のこと。


「やだっ!!」


咄嗟に手を引いてその拘束から逃れる。


「あ、わりッ……」


エースが申し訳なさそうに眉を寄せて手を引っ込めた。
視線を下げ、何も言わないエースから視線を逸らしてトラファルガーさんを引っ張った。


「行きましょう!」


自分が振り返らないよう、トラファルガーさんの腕をグイグイと引っ張り校門から出る。
そのころにはトラファルガーさんは隣を歩いてくれていたて、車の助手席へと誘導してくれた。トラファルガーさんが運転席につくと、最後の確認のように言葉が発せられる。


「いいのか」
「いいんです。すみません変なところお見せして」
「いや」


トラファルガーさんはわたしの頭にポンと手を乗せると「こういう時はお互い頭を冷やした方がいい」と言ってくれた。
なんだか大人な意見に妙に納得した。


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