止まらない  1/2

「おーエース、愛妻弁当はどうした?」


教室に入った途端サッチのうるさい声でクラスの注目が集まる。
「ついに愛想つかされたか」笑いながら放たれたその一言に、弁当がなくて空いていた左手で顔面を殴って黙らせた。


「こっちが聞きたいっつんだよ」


乱暴に鞄を置いて席に座る。


元々おれが名前に近付こうとして曖昧だった関係。それはおれが振られて終わって、それでも、弁当だけは作り続けてくれていた。それは幼なじみの関係を続けてもいいってことなんだと思ってた。なのに、それすらももう終わらせたいってことなのかよ?

だけど、名前が何も言わずにそんなことするとは思えない。何か他に原因があるのか?



同じ学校に来ていれば当然顔を合わせる機会はあるものだ。移動教室で廊下を歩いてた時、体育着を着た名前のクラスの女子が前から歩いて来た、もちろんその中に名前はいて、おれに気づいた瞬間視線を彷徨わせ、結局視線は合わされないまますれ違った。

体育にも参加して調子が悪いわけではなさそうだ。それには少し安心する。
だが、弁当が作られなかった原因が体調不良だということでもないということだ。
てことはやっぱり…。どんどん最悪の可能性に近づいてく。


このことは早く修復しておかないといけない気がした。昼休み、サッチに声を掛けられたけど無視して名前のクラスへ向かう。名前は窓際の席で一人で弁当を広げていた。

そう言えば今日はノジコ来てないのか。さっきもいなかった。
せめて平静を装って声を掛けようと教室に入り名前のいる窓側へ向かう。


「名前」


ビクッ。名前が肩を揺らした。
恐る恐るというようにゆっくり振り返ってこちらを見る。目が合ったと思ったらすぐに逸らして弁当へ視線をやった。


「おれの分の弁当ねえの?」
「……」
「今日は母さんのパンもねえんだけど」
「それは…」



きっと下げられた視線の先は定まらずにウロウロとさせているんだろう。
おれは決して困らせたいわけじゃねぇ。この変になっちまったこの関係の原因がおれにあるのも、このままにしていいわけないのもわかってるからこそ、焦ってでもすぐに名前と話したかった。


「なあ名前」


名前は昔から目立つのが嫌いだ。おれがここにきてクラスの奴らが注目し始めてるのにもきっと気づいてる。
だけど、頼む。頼むから、おれから離れないでくれ……。

もう一度ちゃんと話をしよう。そう言いかけたところで突然後ろから名前を呼ばれる。


「エースくん!」


その甲高い声にクラス中の視線も集まった。おれが声の方をみると、教室の後ろの扉からニコニコと手を振るミネの姿があった。


「あたしお弁当作ってきたから一緒に食べよ!」
「いや、今は…」
「その子とはいつでも食べられるでしょー?」
「そういう話じゃねえんだよ」


名前の方へ視線を戻すと、当然名前もミネのことを見ていた。
その表情はおれが見たことないもので。
だけど、その表情はすぐに自信のないものに変わった。


「よかったね」
「は?」


おれを見上げる名前は眉を下げて小さく笑っていて、その笑顔に胸が締め付けられる。


「わたしのはもういらないよね」
「なに言ってんだよ…」


意味が分からねぇし、おれはきちんと話したいのに。
こんなに近くにいるのに、遠くにいるみたいで。もう二度とこいつには触れられないような、そんな気がした。


「ごめん、先生に呼ばれてるの忘れてた」
「おい、名前…!」


すぐに席を立っておれの横を通りすぎていくその手を掴むことは出来なかった。


「エースくんはやくー!お昼終わっちゃうよ〜!」
「あぁ…」




チャイムが鳴り、最後の授業が終わる。
クラスの奴らは退屈な授業が終わったことに喜びの声を上げているが、今のおれにはそんなことどうでもよかった。

だけどその時廊下が何か騒がしいことに気が付いた。
廊下の窓が人で埋め尽くされていて外が見えねぇ。

女子たちの声でイケメンだなどと聞こえておれにはなんの興味も沸かないことだったため無視していた。


「えっあの子って、E組の名前って子じゃない?」


名前の名前が聞こえて思わず人だかりを押しのけてその光景を目に入れた。
誰かが騒いでいた通り、長身の男が学校の正門前にいてそいつに向かって行くのは紛れもなく名前だった。


「ハッ…、そういうことかよ…」


注目されるのは嫌いなはずのあいつが、その男の前に走って行くのが見える。
おれよりも好きなやつができたならそう言えば良いじゃねぇか。
そう思いながらも腹ん中では抑えられない何かが上がってきておれはあいつらのもとへと向かっていた。


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