すれ違う  2/2

「その後エースとはどう?」


休み明けの月曜日。2時間目が移動教室だったため準備していると、すでに次の時間の荷物を持ったノジコがやって来た。


「やっと気持ちに気づいたんだし、もう付き合ったりとか?」
「…まさか」


ニヤリ。と大きな瞳を細めている彼女を見てわたしは苦笑いを返した。
そんなわたしを見て彼女は不思議そうに表情を戻した。


この休み何もなかった。
本当に何もなかったのだ。
いつもの休みならわたしが家にいる日は必ずと言っていいほどうちに来ていたのに。
この休みは2日ともエースから音沙汰なかった。と言うか仲直りしてからというものエースは一度も我が家に夕飯を食べに来ていない。こんなこと今までなかった。

もしかして、あの時わたしが拒否したから…?
エースに頬を撫でてもらったりキスされたり、エースを好きな身としてはもちろん嬉しい。だけど、エースは?エースはどういう想いでわたしにキスしてるんだろうって、あの時考えてしまった。

エースは昔から女の子に人気者で、わたしに彼女が出来たって報告してきたことはないけど、キスとか、そういうことをする女の人はいくらでもいたはず。わたしもそんな大多数の相手と同じように扱われているのかもしれないと思うと途端に嫌になった。

だけど、それを拒否したことでわたしに会いに来なくなるなら、わたしはもう用無しだってことなのかな…。

途端に寂しさと不安感に襲われた。


休み中、もしかしたら来るんじゃないかと何度も扉を確認した。だけどいくら待ってもエースはやって来なかった。


「偶然じゃない?あいつにも予定くらいあるでしょ」
「そうなんだけど…、いつもなら誰とどこに行く。言ってくれてたんだもん」
「え、そんなことまで報告し合ってんの?やっぱあんた達の関係って異常」


ちょっと引くわ。ノジコは顔をひきつらせた。

誰と遊びに行ったかの報告は求めてたわけじゃないけど、エースはだいたい教えてくれていた。わたしも聞かれれば正直に答えてたし。
そう言えばこの間のエースのクラスメイトの件とトラファルガーさんの件は言わなかったらすごく怒ってた。
もしかしてエースも不安に思ってくれてたりして…、って違うか、エースはわたしを心配してくれているだけだ。

だからなんだろう。仲直りしたはずなのに前よりも距離を感じる。
朝の登校の時にも会話がないわけじゃないけど、あまりに当たり障りのない会話ばかりで、なんだか赤の他人に接するみたいな笑顔だった。
前ならもっと距離が近かったし…。ここまで考えて自分ってかなりエースのこと好きだったんだと気付かされる。そんなことまで気にしていたなんて…。

わたしの表情が曇っていくのに気が付いたのだろう。ノジコがポンと肩を叩いた。


「わたし達も移動しましょ」


みんなもう行っちゃったわ。という声に周囲を見渡せば、確かにクラスメイト達はみんな移動してしまったようで、教室にはわたし達しか残っていなかった。


「そうだね」


視聴覚室へ向かう途中、D組の教室の前から見えてしまったのはエースとあの可愛い女の子の話している姿だった。何人かのグループで固まっているみたいだったけど二人で話しているみたい。最近見ていなかったエースの満面の笑みが見えた。
ズキン。と胸の奥が痛む。

それを感じて咄嗟に視線を外した。


「なんだかエースを遠くに感じる…」


落ち込むわたしにノジコは何言ってるの。と少し笑って言った。


「10年以上一緒にいたんでしょ。気持ちが変わることはあってもそんなに簡単に関係は終わらないわよ。もっと自信持ちなさい。名前が出来ることをしてればいいのよ」


当然のようにそんなことを言うノジコを横から見つめる。
何も返さないわたしを不思議に思ったのかノジコがこちらをみて何?と言う。


「ノジコって…ほんとに同い年?」
「なにそれ、老けてるって言いたいわけ?」
「違う違う!考え方が大人すぎてそう思ったの!」
「あんたが子どもすぎるだけよ」


クスッと笑うこの同級生の余裕のある笑みは、やはりどう考えても同い年には思えない。


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