幼なじみ  1/2

授業中、エースが校舎近くのウォータークーラーに行くのが見えた。

今は現代文の授業で、この授業に関しては先生がつらつらと黒板を使って説明していくだけなので興味のない時は特にぼーっとしてしまう。

そんな時よく窓から景色を見るんだけど、その時に下にいるエースと目が合った。

昨日のことが思い出されてすぐに視線を離した。
瞳がゆらゆら揺れるのがわかる。正直どこを見ればいいのかわからない。
さっきまで集中なんてしていなかったくせに途端に教科書の文章を追った。

こんな、あからさまに避けなくても良かったんじゃないか?と少し罪悪感が芽生える。
それに目が合ったのだって気のせいかもしれない。
ただ空を見ていただけかもしれない。うん、きっとそう。

ただ、やっぱり気になってまた下へ視線を移してみた。

あれ、いない。

さっき見えた場所にエースはいなくなってて、不思議に思って少し動いてみるとエースがしゃがみ込んでいるのが見えた。

もしかして調子悪い?

頭からタオルをかけて動かないその姿から視線を外せなくなってしまう。普段調子が悪くならない分自分の健康管理がなかなかできていないのがエースだったりする。
こっちから言ってあげないと無理するから…。
わたしが教えてあげないと…。

そう思った束の間、一人の女子生徒がエースに近づいた。

あ、あの子…。

すぐに隣のクラスのあの子だとわかる。わたしに一度話しに来ていた子だ。

その子がエースの正面に行って顔を覗き込むようにしてる。距離が近い。
エースもその子に笑いかけていて二人仲良く授業に戻って行く様子から目が離せなかった。
と同時に心の中にもやもやと何か違和感のような焦りのような感情が芽生えていることに気が付いた。

キリキリと心に切り傷でもできてしまったみたい。
もう一度二人に視線を戻す。と笑い合うだけでなくエースの手が彼女の頭に乗せられた。

嫌だ…。

自然と自分の中に生まれた感情に驚いた。エースが誰と何をしようが勝手なはずなのに。
エースの手が彼女に触れた瞬間いつもエースがわたしに触れてくれることを思い出した。
突然で驚くこともあるけれどいつも優しくて温かいエースの手や腕。
勝手にわたしにだけ与えられるものだと思ってしまっていた。
他の子にも同じように触れているのだとしたらわたしに触れることも同じで特に意味のないことなのかもしれない。
それを嫌だと思っている自分に驚いた。

それに、あの子とエースはお似合いだった。
背の高いエースにぴったりの高身長。顔立ちだって整ってるし、心配している姿はなんとも健気だった。

この間エースのことで来た時にはなんとも思わなかったのに。
エースと少し距離が出来てしまっている今、彼女の立場が羨ましいとさえ思ってしまう。





「あんた、やっぱりエースのこと好きじゃない!」


そのまで考えてなんで気づかないの?意味わかんない。
ノジコにそう切り捨てられた。

授業が終わって放課後、あまり乗り気ではないノジコを引っ張ってクレープ屋さんに来ていた。
ノジコはみかんクリーム、わたしはストロベリークリームを買って近くに設置されているテーブルで食べている。

そこでノジコにさっきエースを避けた理由を問いただされたのだ。

避けたというか、自分の中に生まれた感情の正体がわからない今エースに会うというのはなんだか怖かった。幼なじみとしての関係を守って来たエースをがっかりさせてしまうんじゃないかって。
そう思っていたことをノジコに話せばやっぱり同じ答えが返って来た。


「だからー、あんたは!エースのことが!すき!」


ものすごい剣幕で言ってくるノジコを見て、美人が怒るとこんなに怖いんだ。と頭の奥で考える。


「でも、ちょっと待って」


ノジコに怪訝そうな表情をされたけど、両手で頬を抑え、なんとか頭の中を整理しようとする。

エースのことが好き…。なんだとしたら、わたしこれからエースとどう会えばいいのだろう?こんな気持ち隠していける自信がない。
もし、わたしがこんな気持ちを持っているって知られたら幼なじみとして仲良くしてくれているエースに嫌な思いをさせてしまうかもしれない。

それに、会えば簡単に気持ちがバレてしまう。

目の前のノジコに縋る思いで見つめればギョッと目を見開かれた。


「わたしどうすればいいのかわからない…」
「名前って自覚した途端こうなるのね」
「だって今まで何とも…!!」


本当にただの大切な幼なじみだったんだもん。
エースだってきっとそう。


「とりあえず仲直りすれば」
「そう…だよね」


ノジコの言葉を聞き、クレープの最後の一口を口へ入れてこれから自分がとるべき行動を整理する。

まずは幼なじみとして仲直りだ。

自分の気持ちを伝えるにしろ伝えないにしろエースと長年築いてきた幼なじみという関係をこのまま終わらせるのは嫌だ。

幼なじみのエースに恋をしてしまうなんて今まで想像もしていなかったけれど、よくよく考えてみればここまで一緒にいたいと思えるのは今も昔もエースだけだ。

幼なじみとしてのエースも大切にしつつ、恋をしていきたい。


「わたし…頑張る!!」
「ん!相談なら乗るから」


パチンと綺麗なウインクをしてくれた親友にはこれからたくさん頼ることになるだろう。


「ま、エースはすでに胃袋掴まれてんだし、弁当でイチコロよ」


このアドバイスが有効だとは思えないけど…。


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