距離  2/2

午後の授業の一つが体育だった。
まだ春の涼しさが残る気候だが走ったり動いたりすればすぐに身体は熱くなる。
水分を求めて校舎近くのウォータークーラーへ行った。

渇ききったのどに水分を流し込み満足したところで顔を上げると、ちょうど2年の教室の窓が見えた。
体育で誰もいないおれらの教室のとなり。

あ、いた。
そういえば窓際の席だったな。

2階の窓から見えたのは昨日ぶりに見た幼なじみの横顔。
こちらに気づく気配はなくて肩肘をついてボーッと授業を聞いてるみたいだった。

あぁ。キスしてぇ。触れてぇ。

今までの名前はおれのしてる行為を戸惑いながらも受け入れてくれてた。

そんなんじゃ名前は流されれば誰にでも許すんじゃないかって不安になるくせに、自分を受け入れてくれることが嬉しくて彼氏でもないのにスキンシップがエスカレートしてたのもわかってるし、自分でもあんな関係ずっと続けていいなんて思ってなかった。

だけどおれだけが名前に触れられるんだって思うと止められなかった。
さすがに昨日のアレはやり過ぎた。

名前がこちらを向いた。
その目は間違いなくおれを見つめた。だけどすぐに逸らされ、視線はすぐに下げられる。
手元の教科書でも見ているんだろう。

グランドと2階の教室。姿は見えるのに触れられない。
今のこの距離は、まるでおれたちの今の関係そのものを表してるみたいだった。


やべ、辛ェ……。


持っていたタオルを頭にかけてしゃがみこめば、目の前に来た地面に髪から水滴が落ちて染みが出来た。

名前を失いたくない。幼なじみとしてでもいい。となりにいたい。


「エースくん大丈夫?」
「…ん?」


上から声がしたのに反射的に顔を上げれば心配してきてくれたのかミネが立っていた。
ミネはすぐにおれの前に来て視線の高さを合わせると「しんどくなった?」と、心配そうに顔を覗いてくる。
腕に触れられた手がひんやりしていて気持ちがいい。


「あ、いや、大丈夫だ。悪い」
「そう…?無理しないでね」
「あぁ、ありがとな」
「あっ、ううん。たまたまこっち来るの見えただけで」


少し赤くなって照れているらしいミネに笑いかけておれは立ち上がった。


「心配かけたな、戻るか」
「うん」


未だグランドで走り高跳びをしているらしい授業に戻る。


「元気ないのエースくんらしくないよ」


歩き始めたときミネがボソッと呟いたのが聞こえた。


「ははっ、そうだな」


ありがとう。の意味を込めてミネの頭に手を乗せる。
髪型が崩れちゃう!と言うが、体育なんだしさっきからボサボサだと伝えれば絶望的な顔をしたミネに自然と笑いがこみ上げた。

決めた。今日名前と話す。ちゃんとおれの気持ち伝えて、もしそれでフラれても幼なじみって関係に戻るだけだ。





一日の授業が終わりおれは意を決してC組の教室へ向かった。


まだ授業が終わったばっかりで生徒たちはほとんど残っているようで、前のドアから名前が見えて、名前もまた残っていたことに安心する。だけど荷物をまとめていてすぐにでも出て行ってしまいそうだ。

中に入ってそちらへ向かうとおれに気づいた名前がびくり。と身体を固めて目を見開く。するとすぐに目を逸らされた。


「名前、あのさ…」
「あ、ノ、ノジコ!今日クレープ食べに行こう!」
「えー?この間行ったばっかじゃん」
「いいじゃん行こう!」


声をかけた瞬間おれをすり抜けるように後ろにいたノジコのところへ行った。
顔をあげたノジコがおれのことに気づいたらしく「あれ」と呟いた。


「エース来てるけどいいの?」
「…いいの、行こう」


ノジコがそう言うも名前はおれと目を合わせようとはせず「早く行こう」とせかすようにノジコの背中を押す。
おれがここに存在していないような態度に我慢できなくなってその腕に手を伸ばした。


「おい名前ッ……」


避けられた。
伸ばした左手が空気を掴む。


「ごめん、今日は無理だから…」


視線だけををこちらへ向けてそう言ってそのまままた歩きだす。
おれたちを見ていたノジコが「ほんとにいいの?」と不思議そうに言いながら名前に押されながら去って行った。

教室の注目が残されたおれに集まる。
だけど周りのことなんかどうでもよくて空ぶった手から目が離せなかった。

拒否、された……。


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