距離  1/2

今日の寝覚めは最悪だった。


当然だが、となりの部屋へ迎えに行ってももうすでに名前は出た後、昨日の返事もいまだ着ていない。てかたぶんもう返ってこない。


「あー…」


机に突っ伏して腕を伸ばす。

昨日の自分の行動が悔やんでも悔やみ切れない。


「一瞬の過ちが一生の後悔」
「うるせぇ」


ちらと前を見ればパンを加えたサッチがからかうようにおれを見ていた。
おれは痴漢犯じゃねぇ。と言い返そうとしたけどやめた。

それ以上のことをしてしまった気がする。

何かを言おうとして黙ったおれを不思議そうに見てサッチはまた口を開いた。


「なんだよエース今日機嫌悪いな」
「うるせぇ…」


名前の怯えた目、あんなの初めて見た。

名前がおれのことをただの幼なじみとしか見てないのはわかってたし、十年以上一緒にいるおれの気持ちに気づかねぇくらい鈍感で無自覚なやつだってのもわかってる。

だからこそおれは今までとなりで守ってきたんだ。そのことを面倒だとか思ったことないしこれからだって守るつもりだ。

だけど最近の名前は知り合ったばっかの男と出かけたり、トラファルガーってやつのとこにも一人で行ったり、あまりの危機感のなさにどうにも腹が立った。

掌を見れば昨日の感覚が戻ってくるみたいだ。

細かった…。
簡単に折れそうなくらい。
守るべきはずの手をおれは…。


「それによおエース、今日愛妻弁当はどうしたよ?」
「今はパンが大量にあるからだ。明日からはまた…」


作ってくれるのか…、わからねぇけど…。
中学に上がった頃から名前が体調を崩した時とか今日みたいにパンの日以外は欠かさずに名前が弁当を用意してくれてた。

たとえ喧嘩してても弁当だけは毎日作ってくれた。

だけど今回はほんとに関係が崩れてしまったような焦燥感が抑えられない。
全部おれのせいなんだけどな…。


「なんだ、夫婦喧嘩でもしたのかと思ったぜ」


つまんねーの。サッチが口を尖らせて言うが、下を見て黙ったままのおれをみてサッチは「まじで?」と目を丸くした。


「…うるせぇ」
「お前今日それしか言えねぇのかよ」


サッチが呆れたようにパンを口へ運んだところでこちらへ近づいて来る気配がした。
するとすぐに後ろから肩に手をのせられる。


「なんかエースくん今日元気ないね?」
「ミネちゃーん!!」


後ろから覗き込んできたのはクラスメイトのミネでサッチのお気に入りの女だ。
おれも今年からクラスメイトで何度か一緒に遊んだことがある。
まあクラスメイトの中では仲は良いほうだと思う。
「何かあったの?」と首を傾げるミネにサッチは嬉しそうに話した。


「こいつ幼なじみと喧嘩して落ち込んでんの」
「うるっせえ!」


サッチの話を聞いたミネは「あ、あの子かぁ」と顔を歪ませた。


「それは落ち込むね…、あたしなら女目線の意見言えるし相談のるからいつでも言ってね」
「あぁ、ありがとな」


クラスメイトの頼もしい言葉に少し元気が出た。


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