キスの意味  1/1

「ねぇノジコ…、好きじゃない人とキスって出来る?」
「はっ!?あんたあの男とそこまでいったの!?」

3限目が終わった休憩時間、ずっと考えていたことを溜息まじりで問いかけたのだが、ノジコの反応により自分が言葉足らずだったことに気が付いた。慌てて手を振って否定する。

「いや!あの人とは何も!」
「ふーん。ていうか土曜どうだったのよ?日曜も連絡ないし、ずっと気になってたんだから」

反応はイマイチだけど、とりあえず理解はしてもらえたよう。そういえば、日曜日はずっとエースに捕まっていたし、土曜のことなんてすっかり頭から消え去ってしまっていた。昨日のエースは子どもみたいに甘えてきたし、逆に甘やかされたりもして…ときどき顔が赤くなるようなこともあったし…って!

「名前?なんで赤くなってるの?」
「あああ!ううん!なんでもない!」

思い出したら恥ずかしくなってきてしまった。両手で頬を軽く叩いて冷ます。というか、日曜日のエースのせいで土曜日のことをすっかり忘れていた。
で?と彼女が送ってくるジト目を見て、話せってことなんだろうと理解したわたしは忘れかけていた土曜日のことを包み隠さず一部始終を話した。

「あの男、アホなのかバカなのかわかんないわね」
「うん…。ノジコ、なんか使い方違わない?」
「細かいことは気にしなくていいのよ。でもやっぱりあんたのヒーローはエースじゃない」
「え、いや、偶然居合わせただけだよ」
「あんたたちの絆が生んだ偶然でしょ」

なんか上手いこと言えたと口角を上げたノジコに苦笑いを送った。

「で、さっきのキスの話は何なの?」
「あ、いやそれはただ純粋に気になっただけで、好きじゃない人とキス。ノジコなら出来る?」

さすがに、付き合ってもいないエースとキスをしたなんて話せなくて、少し嘘をついてしまった。
ノジコはうーん。と顎に手を添えて考えるそぶりをみせた。

「まぁ、出来るんじゃない?」
「あー…、そうなんだぁ」
「何よその目、誰でも良いわけじゃないわよ」
「じゃあ誰となら出来るの?」
「はぁ?そんなのいちいち考えてないわよ〜」
「そーだよねぇ…」

キスひとつに関しても人それぞれだってことなのかな。エースにとってキスは特に意味のないものなのかもしれない。ペットとスキンシップみたいな…?え、エースにとってわたしってペットなの?いや、それは違う。これは1人で考えれば考えるほど違う方向に行ってしまう気がする、だからと言ってノジコに相談というのも間違えたかもしれない。
勝手に相談しておいて失礼な考えに至ったわたしはこの話はもう終わることにした。

「ところで名前、今日は暇?ナミと買い物行こうって話してたんだけど、名前もどう?」
「あ…、ごめん今日は」
「なんか用あった?」

その言葉に先ほどのことが思い出され顔が少し歪んだ。わたしの表情にノジコは伺うようにこちらを見た。

「この間のトラファルガーさんにお返しに行くんだけど…」
「あぁ、あのコンビニのね、なんでそんなに嫌そうなの?」

返しに行くって自分から言ったんでしょ?とノジコは不思議そうな顔を向けるが、わたしは、そうなんだけど…。と自分の腕に顔を乗せて眉を寄せた。

先ほど、貰った名刺の裏に書かれていた電話番号に電話をしたところ、トラファルガーさんは出てくれたのだけど…

『はい』
「あ、わたしこの間コンビニでお金を借りた…『あぁ、あの女子高生か、なんだ?』
「はい、えっと今日学校が終わってから返しに行きたいと思っ『ほんとに来るのかよ…あー、わかった、何時頃だ?』
「16時半とかにな…『わかった、病院の正面玄関で待ってろ』
「あっ、はいわかりまし……」
ツーッ ツーッ ツーッ



「全部食い気味に返事されたし、すごい迷惑そうだったし、声の後ろも騒がしくて…、なんか…返しに行くのが申し訳なく思えてきちゃって…」
「まぁねぇ、医者って忙しいっていうからねぇ…」
「んーー……」
「ま、大丈夫よ。もう会うこともないんだから、お金のことはきっちり精算しておきなさい」
「うん、そうだね」

不安な表情を浮かべるわたしを安心させようとしてくれたのかノジコは優しい笑みを浮かべて軽く頭をポンポンと叩いてくれた。


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