思惑  1/1

「名前ちゃん!今度はあれとってあげるよ!」
「あっ、うん」


彼に手を引かれ戸惑いながら目的のクレーンゲームの前までついていく。

エースのプレゼント選びに付き合うと約束していた土曜。
朝からその彼と合流し、人気のショッピングモールにやって来ていた。のだけど、彼に言われるがまま映画を観たりクレープを食べたりそして今もゲームセンターで遊んでしまっていて、エースのプレゼントは何も買えていない。
そろそろ声を掛けようとしたところで彼がちょっとトイレ行ってくると去ってしまった。


「はぁっ…」


近くにあったベンチに座ると途端にため息が出た。
なんだか疲れた。それに昨日のエースとのこともずっと気になっている。
まさかエースがあんなにも突っかかってくるなんて思ってなかった。

彼にはいつも助けてもらったし、とても良い人だと思う。エースとも仲が良いみたいだし安心できるし、付き合うならこんな人がいいんだろうなと漠然としたイメージにも当てはまる。こんな人と出掛けられるなんて嬉しいはずなのに、やっぱりもやもやが消えてくれなくて心から楽しめしない。

「ごめんごめんお待たせ!」
「あっ、ううん」

戻ってきた彼に慌てて笑顔を見せて立ち上がった。
そろそろエースへのプレゼント選びに行くだろうし、プレゼン選びが終わったら帰らせてもらおう。こんなもやもやした気持ちのままでは楽しませてくれる彼にも申し訳ない気がした。


行こう!とわたしの手を掴んだ彼は歩き出したのだけど、その時近くにいた男の人達のグループがぞろぞろと近づいて来た。


「さっきから見てたんだけど、お姉さんすっげーかわいいね」
「え?」


ニヤニヤと笑みを浮かべて顔を近付けてくる男の人との間に彼が護るように割って入ってくれた。


「お前らなんだよ?」
「は?お前に用はねぇから、なぁこっち来いよ」


彼の肩を押し除けた男の人によって、わたしは手首を掴まれてしまった。凄い力で引いても離れてはくれない。


「ちょっ、やめてくださ…」
「おい!彼女にさわ…「名前に触ってんじゃねぇよ」
「っは…!?」


耳慣れた声が聞こえたかと思うと手首の圧迫がなくなり肩を引かれた。すると大きな背中が目の前立ち、その人物がエースだと認識するのに時間はかからず、ただ、なぜここにエースがいるのかという不思議な気持ちで呆然としてしまった。


「いててててて!!」


エースが腕一本で牽制して見せると、男性はその腕を振り払い、舌打ちをした。そして彼の方を見た。


「おい!火拳が来るなんて聞いてねぇぞ!」
「…っおい!」


男の人の一言にわたしは驚いて彼を見つめる。
どういうこと…?知り合いなの?
一瞬で頭の中が混乱する。違うんだ!と言う彼に対しエースはへぇ。と小さく呟いた。


「お前らグルか」
「…チッ」
「えっ…」


彼の表情がさっきまでの優しいものではなく、焦りと苛立ちが混じったものに変わる。


「どうして…っ、エースのプレゼント選びだって…」
「はぁ?名前お前、それほんとに信じたのかよ」


おれの誕生日は1月だし、こんな時期にプレゼントもらうようなこと何もねぇだろ。
エースは冷静にそう言う。だけどそんなことはわかってた。でも友達だったら何か祝い事でもあったのかなって思ったんだ。それが何かは聞いていないけど…。


「エースを喜ばせてくれると思ったのに…」


「んでお前らは…」
「おっ、おれらはこいつに頼まれただけだよ!そこの女に絡めって!」
「お、おれらは悪くねぇよ!」


ポキッと拳を鳴らしたエースに怯えるように男の人たちは走って行った。

残ったのはエースとわたしと立ち竦む彼。


「つーかお前、こないだ教室で名前が可愛いだとか言ってたやつじゃねぇか。……なるほどな、なんとなく見えてきたぜ」


ふぅん。とエースに見られた彼は、チッと舌打ちをして話し始めた。


「きっかけに使ったんだよ、エースって名前出せば名前ちゃんは来てくるだろ」
「おれの名前使ってまんまと名前をおびき出せたわけか。お前、こんなことして…「エースを利用するなんて許せない…」


グッと拳を握った。
こんなにもエースのことを思ってくれてる友達がいるんだって嬉しかった。初めてエースに嘘までついた。
なのに…。自分自身の過去こんなにも人を睨んだことはないと思う。


「名前」
「…でも」
「もういいから、行くぞ」


睨み続けるわたしを見かねたエースに連れられ、わたしはその場を離れた。







「そんな涙目で睨んでも怖くねぇっつうの」
「そんなことっ…」
「あるよ」


わたしの手を引いて少し前を歩いていたエースが立ち止まる。わたしは下を向いているけど、エースがわたしの前に来たのがわかった。

ポンポン

頭に手が乗って軽く叩かれる。それが何度も何度も繰り返されて、最後にはぐしゃと軽く髪を掴まれた。
だけどわたしの怒りというか悔しさというのか、この感情はなかなか治らなくて、グッと拳を握った。


「そんなに腹立ってんのかよ…」
「だって…、エースのこと利用したんだよ…?それにまんまとひっかかった自分にも」
「お前は悪くねぇよ」
「でも…」
「いいから顔上げろって」


優しく髪を撫でられ、ゆっくり顔を上げた。バッチリ目があったエースの顔はとろけるように優しくて、急にぶわっと自分の体温が上がった。エースの頬も少しだけ赤くなってるように見える。


「むしろおれは、お前がおれのことそんなに大切に思ってくれてたって知れて、すげぇ嬉しいんだぞ」
「え?」
「おれにとっては最高のプレゼントだぜ」


エースは満足そうに笑ってわたしの頭に手を乗せると今度は「ほら」と手を出してきた。
なんの迷いもなくその手に重ねた。するとギュッと強く握ってくれる。
なんだろう。途端に心の中に温かいものが広がっていく。


「帰るぞ」
「…うん」


わたしが気を遣わないようにっていうエースの優しさだ。
この優しい手がわたしは好き。




「そういえばエースなんでここにいるの?」
「サッチとゲーセン行ってたら偶然見かけたんだよ」

あ…、サッチのこと置いてきちまった。


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