同じ具  2/2

「名前が遅刻なんて珍しいわね」
「あ、はは…、ちょっと寝過ごしちゃって」

お昼休みになり、ノジコのところへ行き、ビニール袋から今朝買った…というか買ってもらったおにぎりを2つ取り出した。

「同じ具2つなんて変わってるわね」
「あれ、ほんとだ」

おにぎりを見てみればおかかが2つだった。ボーッとしてたから具なんて見てなかったな。

「あ、そうだノジコ、これなんて読むかわかる?」

わたしはさっきトラファルガーさんにもらった名刺をノジコに見せた。

「トラファルガー・ロー」
「あ…、読めるんだ」
「当然よ」

なんだか少しショック。筆記体だったし読めないのはわたしだけじゃないと信じたかった。
ガクンと肩を落としたわたしにノジコは「で?」と話の続きを促した。

「誰の名刺よ、それ」
「あ、うん、実は今朝ねコンビニ行ったんだけど財布忘れちゃって…」
「えっ、じゃあそれどうやっ…」
「盗んでないよ!?」

手を口元にあてて「まさか!」なんて言ってわたしを見るノジコにすぐに否定すれば「わかってるわよ」とからかうように笑われた。

「でも、じゃあどうしたの?」
「後ろに並んでた人が代わりに払ってくれて」
「それがこいつってわけね」
「うん」

それはラッキーだったわねなんて言って卵焼きを口に入れたノジコに苦笑いが零れる。
わたしは今朝のトラファルガーさんの態度を思い出していた。

「当然返すんだけど、ちょっと迷惑そうだったんだよね…」
「まぁ、この程度の小銭じゃあね、あっちがケチみたいになるもの」
「そうだよね…」
「何かお礼持ってったら?」
「それいいかも!何かお礼になるもの…」

ノジコの提案に思わず顔を上げた。それだ、それしかない。
菓子折りとか…?いや、でもあの人ブラックコーヒーを買ってた。もしかすると甘いものはあまり好きじゃないのかもなぁ…。
と、真剣に悩んでいると「おい名前〜」と名前を呼ばれ顔を上げた。

「昼飯買っといてやったぞー…って、なんだ買ってきてたのかよ」
「エ、エース!」

いつのまにかエースがわたしの横にまで来ていてビニール袋を前で振って見せた。

「ほら、おにぎりとお茶」
「うそ、ありがと」
「で、ついでにお前にもみかんジャムパン」
「あら、気が効くわね」

エースはパンパンに膨らんだビニール袋からわたしとノジコにそれぞれおにぎりとパンを手渡してくれた。エースの選んでくれた具もおかかだった。
エースは近くの椅子を引き寄せてわたしたちの近くに座った。

「えっ…」
「え、あんたここで食べるの?」

わたしの気持ちを代弁してくれたかのようなノジコの言葉にエースは「悪いか」と返した。
わたしは正直、今はいてほしくない気持ちの方が強い、昨日のことが思い出されてどんな風に接したら良いのかわからないし、それに混乱してるというのを隠せる自信もない。

「えー、せっかく名前と恋バナしようと思ってたのにー」
「えっ」
「はっ!?」

わたしとエースの反応は同時だった。なんて爆弾を入れてくるのノジコ…!
エースは「なんだよそれ」とわたしを睨みつけてくる。

「い、いや、わたし知らな…」
「エース!!やーっぱりここにいたか!お前なぁ!おれにぼっち飯させる気かよ!」

わたしの言葉が遮られ、わたしもエースも教室の扉の付近を見た。そこには茶髪のリーゼントの男の子が大きく手を振りながらエースを呼んでいた。

「知るかよ、マルコと食えばいいだろ」
「あいつ今日は学校来てねえんだもんよ。ほら、いいから行くぞーって、おお!もしかして名前ちゃん!?」
「へっ!?」

教室に入ってきてエースの腕を掴んで連れて行こうとしていた彼が突然目の前に現れ、思わず身体が逸れた。

「おれサッチ!B組だ、よろしくなー!」
「あっ、う、うん、こちらこそ」
「ちょっ、お前近いんだよ…!」

身を乗り出して満面の笑みを向けてくれるサッチくんの肩をエースが掴んでわたしから離そうとしているけどサッチくんはビクとも動かない。
エースの力で動かない人なんて初めて見た…。

はい握手。と手を出され、わたしも出そうと手を持ってきたところでエースにガシリと掴まれた。

「名前もこんなの相手にしなくていいって、おら行くぞ!」
「えー!握手くらいさせろよー!」
「ぼっち飯は嫌なんだろうが」
「それも嫌だけどさー、名前ちゃーん!」

引きずられるようにサッチくんは連れられ、そのまま2人とも教室を出て行った。
その光景を呆然と見送った後、エースに掴まれてから固まっていた手を降ろして、ほっと息を吐いた。

「エースと何があったの?」
「へっ!?」

突然のノジコの言葉に大きく反応してしまった。ノジコの質問は何かあったことを確信している聞き方だったからだ。

「名前が寝坊なんて珍しいし、同じ具2つ買うし、エースが来た時もすぐに顔赤くしてたし、これで何もないわけないでしょ」
「おぉ……」

さすがというかなんというか、ノジコには敵わないなぁなんて思った。だけど…昨日のあれは…、言えないなぁ…。

「…特に…何もないんだけど…」
「だけど?」
「ちょっとだけ、エースにドキッてしたかなぁ…」
「へぇ?」

ニヤリ。と口角を上げてこちらを見るノジコに居た堪れなくなって、視線を逸らした。


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