同じ具  1/2

ピンポーン ピーンポーン

「んんん……」

名前ー?寝てんのかー?


…入るぞー

遠くで音がして足音が近づいてくるのがわかった。それさえも今のわたしにとっては騒音でしかなくて、寝返りついでに布団をかぶり直した。

「おい名前ッ!」
「うわあぁっ!」

バサッ!という音と共にわたしの上に被さっていた布団ははぎとられ、驚きに目を開けるとそこには仁王立ちでわたしを見下ろすエースがいた。
途端に昨日のことが思い出されて顔が熱くなる。

「名前が寝坊なんて珍しいじゃねぇか」
「え…、寝坊…?」

枕元に置いてあったスマホの画面を開くと表示された現時刻。それに思わず発狂した。

「ああああっ!う、うそでしょ!?ていうかエースも急がないと!」
「まあおれは遅刻なんて何回もしてるし今さら…」
「なおさらダメ!早く行って!あ、お弁当は今日は作れないからコンビニで何か買ってってね!」

今にもわたしの部屋で寛ごうとしていたエースを引っ張って部屋から押し出した。

「えっ、おい」
「いいから先行ってて!」

バタンとドアを閉める。というかだいたいエースが出てくれないとわたし着替えることもできないじゃない。
何度か反論は聞こえたけれど、離れていく足音を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

「……ていうか、誰のせいだと…思ってんのよ…」

昨日わたしが戻る頃には、もうすでにエースは帰っていて部屋に姿はなかった。だけど、あんなことをされたからなのか、なかなか寝付けなかったのだ。

「はぁ」

エースにはあんなことを言っておいて、わたしはどうせ遅刻だしと特に急ぐこともせず、準備をして家を出た。

学校近くのコンビニに入り、お弁当の代わりにおにぎりを二つ手に取った。

さっき思ったけど、なんでエースはあんなにも普通なの…?ていうかなんであんなこと…?
今まで全く意識していなかったエースの男の人としての部分を見た気がしてドクリと心が脈打った。

「合計2点で、216円でーす」
「あ、はい」

レジのお兄さんの声に呼び戻され、慌てて鞄の中から財布を取り出す。
…はずだったのに、財布がない。

「お客さん?」
「あっと、あれ?す、すみません」

鞄の中を探しても財布らしきものが見つからない。教科書の間にも入っておらず、これ以上待たせるのは迷惑だと諦めることにしたわたしはカウンターに置いたおにぎりを手に取ろうとした。

「1000円ですね、お預かりしまーす」
「…え?」

なぜか1000円札が出されていてわたしは咄嗟に後ろを振り返った。
斜め後ろに背の高い男の人がいて、わたしの横からお釣りを受け取っていた。


「本当にありがとうございました!助かりました」
「別に構わねぇよ」

コンビニを出てさっきの人を捕まえ頭を下げた。その人はとても面倒臭そうにいいからとすぐに去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!お金、返しに行きますから、連絡先教えてもらっていいですか?」
「はぁ?別に女子高生の飯代くらい返してもらったところでどうもねぇよ」
「わたしが良くないので!お願いします!」

腕をガッチリ掴み頭を下げると、暫くの沈黙の後、上からはぁ。とため息が聞こえた。

「めんどくせぇな…、ほら」

ポケットから財布のようなものを出しそこから小さな紙を取り出してペンで何かを書き、渡してくれた。受け取って見てみるとそれはどうやら名刺のようだった。

「トッ、トラフォル……?」
「トラファルガー」
「…なんで英語なんですか?」
「海外でも使えるようにしてるからだ。これくらい読めるだろガキが」

フンと腰に手をあててわたしを見下ろす姿に少しカチンとくるが、あくまで恩人だ。耐えろわたし。

「で、一体どこに行けば…」
「北町のドンキホーテ病院はわかるか」
「あ、はい」
「普段おれはそこにいる、来るときに裏に書いた番号に連絡しろ」
「あ、わかりました」

名刺を裏返せば確かに走り書きした電話番号があって頷いた。じゃあな。とすぐに去って行ったその大きな後ろ姿を見送り、わたしも学校へ向かった。


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