動く  2/2

買いすぎたかな…。

久しぶりにスーパーに行くとあれもこれもといろいろな物を買ってしまい、おかげで大きな袋2つ分にまでなってしまった。
両手でそれぞれ持って歩くけどなかなかの重さ、先ほどから先に進んでいる気がしない。


「名前ちゃん!」
「…?」


突然後ろから名前を呼ばれ振り返る。そこには昨日助けてもらった男の子が手を振ってこちらにやって来た。


「あ、昨日はありがとう」
「あぁ、気にしないで!名前ちゃん家この辺りなんだ…って、またこんなに持ってる!貸して」
「えぇ!だ、大丈夫だよ!」


昨日に引き続き今日も荷物を持ってもらうなんてさすがに申し訳ないと取り返そうとするが、じゃあせめて1つだけとわたしの届かない方へ持ってかれてしまった。


「家はこっち?」
「あ…、うん」
「じゃあ行こう」
「うん」


やっぱりこの人強引だなぁ。
わたしも取り返すのはもう諦めて、隣を並んで歩いた。


「あっ…!」
「どうしたの?」
「あ、ううん」


名前、聞けていないことを今思い出した。でもどのタイミングで聞けばいいのか…、だって、今更な気がしてならない…。
あれ?彼はどうしてわたしの名前を知っていたんだろう。昨日以前に会ったことあったかな…?


「あの」
「ん?」
「わたしの名前どうして知ってるの?」
「あ…、あぁ。名前ちゃんエースの幼なじみだろ?おれエースと同じクラスだからさ、仲良いんだよ」
「あ、そうなんだ…!」


なんだ、エースの友達だったんだ。それだけでなんだか少し安心感が生まれた。こう思うと少し強引なところとかエースに似てるかも。少し頬が緩んだところで自宅マンションが目に入った。


「あ、家あそこなの、もう大丈夫」
「あのマンションなんだ、まだちょっとあるしもう少し行くよ」
「あ、ありがとう」


彼の厚意は無理に断らず素直に受け取る方がいいのだろうとわたしは何も言わず彼に付いて行った。


「あ!そうだ、今度さ買い物付き合ってくれない?」
「え?」
「エースにプレゼント買いたいんだけど何がいいかわかんなくてさ、名前ちゃんいると助かる」
「え、わたし…?」
「うん!昨日と今日のお礼ってことでさ!お願い!」


昨日と今日のお礼だって言われたら断れない。片方の手を顔の前で立てている彼に「わかった」と頷いた。

もうマンションは目の前に差し迫った。その時、隣にいた彼が突然歩みを止めた。


「あっ、ご、ごめん!」
「え?」
「ちょっと用思い出した!ごめんね!」
「あ、うん、そっか、ありがとう」
「あ、あのことエースには秘密でお願い!」
「うん!わかった」


サプライズ的なのかな?
慌ただしくも去って行った彼に手を振ってわたしは2つの荷物を持ち上げた。家までもう少し、彼が手伝ってくれたおかげでかなり楽になったし、頑張ろう。


「おい名前」
「うぇっ…!?」


突然かけられた低いめの声に驚いて振り返ると、斜め上にエースがいて「さっきから何回も呼んでんのに」と少し不貞腐れた表情で言った。


「えっ、うそ、ごめん」
「いや…、てかあいつ何だよ」
「さっき偶然会って…、袋持つの手伝ってもらったの」
「…ふーん」


彼が去って行った方を見てるってことは少し前からわたしたちのこと見えていたのかな。エースはその方向から身体を動かさず固まったように見続けていた。


「エース?エース!」
「っ!ん?」
「どうしたの?」
「いや、…別に」


エースはわたしの手から2つの袋を奪うとそれを片手で持ち、もう片方の手でわたしの左手を握った。


「帰るぞ」
「うん」


なんかちょっと不機嫌…?






ガサッと音を立てた買い物袋をキッチンの入り口に置いたエースは手は離さずそのままわたしの身体を引っ張った。
突然の行動にわたしは抵抗もできずそのまま連れられる。


「えっ、エース?」


声をかけても反応はない。そのままリビングに連れられ、グイッと引っ張られる。すると、ボフッと音がしてエースの腕に包まれた。


「え…?」


わたしの首筋に顔を埋めて、スッと息を吸い込んだのがわかった。そしてさらにギュウときつく抱きしめられる。まるでなにかを確かめるみたいに。


「エース、どうしたの…」
「…っはぁ」


小さくため息をついたかと思うと少し拗ねたような声を出した。


「今日の晩飯何」
「え、…もやし炒め」
「肉がいい」
「あー、うん、わかった、肉もやし炒めね」
「ん」


どうやら今晩はうちで食べていくつもりらしい。


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