動く  1/2

少し大きめの箱を両手で持ち階段を上がる。途中、中のものがぶつかる音がして割れるのではと少しスピードを落とした。


「悪いんだけど日直の人、これ教材室に運んでおいてもらっていい?」


この日最後の授業の先生がそんなことを言い、日直だったわたしは教材室へ運ぶこととなったのだ。日直のペアの子はいたけれどバイトがあるらしく、量もそこまで多くなさそうだし大丈夫かと1人で引き受けた。

…のだけど、やはり重い。誰かに手伝ってもらえばよかったなと思い始めていたころ「大丈夫?」と下から声を掛けられた。

見ると1人の男の子がいて、わたしの持つ箱を見て少し眉を寄せると「手伝うよ」と言って箱を奪った。あまりに自然な行動にわたしはすぐに反応出来なかった。


「あっ、えっ、大丈夫!悪いよ!」
「おれは大丈夫だよ、こんなの女の子1人じゃ大変でしょ」
「でも…!」
「どこに運ぶの?」
「…教材室」
「じゃあもう少しじゃん、行くよ」


優しいけど強引、でも嫌な気は全くしなくて、その彼について階段を上がった。



「ここでいいかな?」
「うん、大丈夫だと思う」


教材室に着き、棚に空いている箇所を見つけると、彼はそこに箱を置いた。
「本当にありがとう」と頭を下げれば、また「大丈夫だから」とやんわり肩を持って上げさせられた。


「じゃあおれは行くね」
「うん、ほんとに助かった」
「いいって、じゃあね!」


軽く手を挙げて部屋を出て行った彼にわたしも手を振った。





「へぇー、そんなことが」

昨日の出来事をノジコに話せば、さも興味なさそうな返事をされた。自分的にはとてもときめいた出来事だったのに…。


「で?そいつの名前は?」
「……あ」
「聞くの忘れたのね」
「あ、はは、…うん」


まったく…。と呆れるノジコには返す言葉がなかった。助けてもらったのに名前も聞かずに別れちゃうなんてわたしはなんて失礼なやつなんだ。
自分の至らない点に落ち込んでいると教室の外にこちらを見る人がいることに気がついた。


「うわ、また名前のこと見てるわよ」
「え?今日はエース来てないのにね」


その人物は、この間エースを迎えに来ていたD組の女の子だった。
わたしたちが気がついたことがわかったのか、彼女は教室に入りこちらへと向かって来た。あからさまに嫌な顔をするノジコに苦笑いを浮かべたところでその子がわたしの横に立った。


「ねぇ」
「…はい?」


彼女は眉を寄せ、嫌なものを見る目でわたしを見下した。
背も高いし顔だって整っている、髪もきちんと手入れされているのがわかるし、この間も思った通りとても綺麗な子だ。なのになぜこんな顔をするのだろう?


「あたし、あなたに負けないから」
「…え?」
「エースくんのことあんたに渡さないって言ってるの」


わたしは今何を言われているんだろう。
彼女の行動がほぼ理解できず少し遅れて「うん」と言った。


「あたし告白するから」
「う、うん、がんばれ…?」


わたしがこう言うと彼女はさらにキッと眉を寄せた。


「何よ、余裕ってわけ?すぐにそんな余裕なくしてやるんだから」


そう吐き捨てると、彼女は足音を立てて教室を出て行った。
呆然とその後ろ姿を見送る。わたしの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっていた。

エースはモテるし、エースを好きな一部の子達がわたしの存在をよく思っていないなんて
今までにもたくさんあった。だけど、わたしにこんなことを言う子は初めてで意図が全く掴めない。


「どうしてわたしに宣言したんだろう…」
「凄い子ね」


片方の口の端を上げたノジコは、なんだかいろいろとわかってるみたいだった。だけど、それをわたしに教えてくれるわけではなさそうだ。


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