となり  1/1

おれにはとなりに住む幼なじみがいた。

勉強はそこそこで、運動は苦手。

小せえ頃は泣き虫で、おれの後ろをついてばかりで、守ってやらねぇとって思わせるようなやつだった。
だけど、いつからかおれの後ろに隠れることなくとなりを歩き、おれが困れば手を差し伸べてくれるまでになっていた。もちろん名前が困ればおれが手を差し伸べる。おれたちはずっと一緒。自分の気持ちも伝えていないころから、おれはそれを当然のように思っていた。


「名前」
「ん?」


となりを歩く名前を呼べばこちらに向けられる顔。
そのまま腕を伸ばして肩を掴み自分の方へ引き寄せる。
名前のすぐ横を5、6人の小学生が行くぞー!と叫びながら走って行った。先頭のやつなんかどこで拾ったのか木の枝まで持ってやがる。


「わ、ありがとエース」


少し驚いたようだったけど、名前が柔らかい笑顔をおれに向けたので、「気にすんな」と笑い返した。


「枝なんか持ってあぶねぇガキだな」
「エースも昔は鉄パイプ振り回してたじゃん」
「あ…」


おれの表情がおかしかったのか、ふふ。と笑うと「行こっか」とまた通学路を歩き始めた。

楽しそうに隣を歩く彼女は「エースも危ないなんて言葉覚えたんだねぇ」とおれをからかうように言い、おれの反応を楽しんでいるようだ。
近くにいた男子生徒が楽しそうな名前を見て頬を染めたのかわかり思わず睨みつける。

こういう時、名前本人が全く気が付いていないのが質が悪い。

これまでも名前に近付く奴を何度も牽制してきた。
さっきからこちらを見ている男子生徒を睨みつけながら、見せつけるように名前の手を握った。相変わらず小さい手。
おれが手を握ったことで途端に名前が狼狽えだす。

ここは通学路、登校時間である今、近くには登校中の生徒たちが大勢いる。だがおれにとっては好都合だ。いろんな奴に見せておけば今後名前を狙う輩もいなくなるだろう。

この間の校門前の出来事からまだ日は浅い。
公の場で言い争いをしていたおれと名前が手を繋いで登校していることに多くの奴らが注目しているようだった。


「エース?今はそれは…」
「名前が危なっかしいから」
「えぇ!?わたし?」


意味を理解していないらしい名前の手を引き、肩があたるくらいまで引き寄せた。男子生徒が悔しそうに肩を落とすのを見ておれは満足した表情を浮かべる。名前は不思議そうな顔をしたけど、離れることはしなかった。















エースがわたしの手を引いたことで肩がぶつかる。
近くを通っていた女子生徒がそれを見て悔しそうに表情を歪めたのがわかった。

昔からそうだった、エースはいつも人気者で、わたしなんて幼なじみじゃなかったらとなりにいられない。そう思ってた。

だけど、今は違う。もう他の人にエースをとられるのは嫌だ。
エースと気持ちが通じ合ったことでわたしも少し貪欲になってしまったのかもしれない。

握られていた手を強く握り返した。


「なんだよ」
「ううん、もう離したくないなって思っちゃった」
「名前が離したくても離してやんねーよ」


勝ち誇ったような表情を向けるエースの言葉で顔に熱が集まるのが分かった。
周囲の目もあってわたしが視線を下げると、手が伸びて来て顎を掴まれて顔を上げさせられた。


「お前はもうおれの彼女なんだから、堂々としてろよ」


やっぱりエースには敵わない。ニッて笑われるともう自分が今まで気にしていたことなんてどうでもよくなってくる。

ずっとこの笑顔が好きだった。わたしを守ってくれる手も優しい声も全部。

気付くのに何年かかったのって話だけど、今なら心から思える。

わたしはずっと、この人のとなりにいたい。


-fin-
2019/04


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