「すごーい!!」
「次!うさぎが見てみたいー!」
「うん、待ってね」
いくつもの瞳の先が集まる中、ふわん。と手を動かし胸の前にある水を操れば、みるみる形が変形し、長い耳が特徴的なうさぎの形に変化した。
どうだっ!と見せれば、きらきらきらと効果音が付きそうなほどに目を輝かせる子供たち、それにわたしもふふふっと笑みが溢れた。
この魚人島に住む子供たちは地上に上がったことのない子がほとんど。地上ではまだ魚人族と人魚族の差別の名残りもあるし、人攫いなんかもいるから、上がっちゃいけないっていう教えをみんなきちんと守っている。それに、この島に来る人間は海賊っていう悪い人間ばかりで、この子達がここで見るのはそういう人間。
だからみんな人間は悪いやつらなんだって思い込んでしまってる。
オヤジがこの島を守っているから、白ひげ海賊団は別だって言ってくれてるけど…。
地上にもたくさん良い人はいるし、この子達にも地上の良いところや楽しいところ、たくさん知ってほしいな。
それに、みんなそれぞれ憧れはあるみたいで、誰に教えてもらったのか、いろんな動物や植物の話をよく聞いてきて、わたしが地上(と言ってもあたしも海上生活だけど)での話をしてあげると、みんなふくふくと頭の中で想像を膨らませて、うわぁっ。ときらきらした表情になっていって、もっともっと!ってどんどん話を急かしてくる。
いつの間にか人数も増えていって、今ではわたしの周りには10人ほどの子供たちが集まってしまった。
噴水の側にわたしが座って、わたしを囲むように子供たちが座る。なんだか自分が先生になった気分で、はいはい!と次々に上げられる手を順番に当てていった。
「くだものって何ー?」
「くだものっていうのは、木になる実のことでね、果物にもいろんな種類があるの、リンゴや…」
「リンゴって!?」
「リンゴはね、赤くってこんな形してるの」
水をリンゴの形にして見せると、ほぉ〜!!なんておじさんのような声を出す子や、それをスケッチしている子もいる。
本物を見せてあげたいな…。そうだ、サッチに聞いてみよう、もしかすると船にあるかもしれない。
そうだよ、見せられるものは見せてあげなくちゃ。もっともっと、わたしたちの世界を知ってもらわないと…。
パァン!パァン!パァン!
突然響いた銃声に子供たちの肩がびくん!と反応しガチリと肩が強張った。わたしも驚いてその音のした方を慌てて見た。
「へっへっへーっ!!ここが魚人島か、いいところじゃねェの」
「人魚も魚人も攫い放題だせ」
「お前らぁ!!奪えるもんは全部奪って、攫えるやつらは全部攫ってこい!!」
船長らしき男が叫び、周りの人魚さんや、魚人の人たちがどよどよと淀めく。子供たちの中にも目に涙を溢れさせている子達もいて、わたしは子供たちを庇うように少し前へ出た。
「この島を出ればついに新世界だ!!おれは四皇にもビビらねェ…!!まずはこの魚人島を襲って、白ひげに宣戦布告だ!!」
「「「おぉっす!!船長!!」」」
変な掛け声だな。なんて思って見ていたけど、実力はあるみたいで奴らを止めようとやって来たネプチューン軍の兵士達をを次々に倒していく。
ギュウッと服の裾を掴まれ、後ろにいる子どもたちに目を向けると、カタカタと身体を震わせてその様子を見ている子がいて、思わずその子の身体を抱きしめた。
「ごめんね…。地上には良い人もたくさんいるの。でも、ここに来る人間はあんなのばっかりで…、ごめんね」
「おねっ……ちゃん…」
「将来、大人になったら地上の世界ちゃんと見てね、あなた達が見てるのは一部なの。まだ人間が怖いって決め付けないで…」
「うっ……うん!!」
顔を上げて力強く言ったその子の頭を軽く撫でて、もう一度海賊達を見る。
この子達はわたしが護らないと…!!まだ距離があるし噴水の後ろに移動したからバレてはいないと思うけど…、魚人や人魚の子どもはオークションで高く売れるらしいから、絶対この子達が狙われる、なるべく戦いやすいように噴水の傍でいよう。
「いやぁぁっ!離して!!」
「水中じゃ世界最速でも、水中じゃなきゃ大したことねェな、人魚もよぉ!」
悲鳴が響き、出迎えにも来てくれていた人魚の女の人が海賊に捕まってしまっているのが見えた。
今、攻撃したら今度はこちらが狙われる、子どもたちが見つかったらマズイ…、でも…!!
「やめんか!!」
攻撃しようと噴水の上に手をかざした時、シュンッ!と何かがその人魚さんを捕らえる海賊に向けて飛んで行き、それを受けた海賊はぐわぁっ!と声を上げて倒れてしまった。
「な、なんだ…!?」
突然のことに慌て出す海賊たち、そしてわたしは視界に映った人物を見てホッと安心の息を吐いた。
「この島には何もさせん」
「こいつっ!七武海のジンベエか…!!」
「怯むな!!ただの政府の狗だろ、こいつを倒せば今度はおれが七武海だよな」
嬉しそうにへっへっへ。と笑った海賊は持っていた剣を構えた。政府の狗なんて言っておいて、自分だってなりたいんじゃない。ジンベエは顔色一つ変えず、さっきと同じように手を振った。
「撃水!!」
「うわぁっ!!」
「ぐぁっ!」
「ぐえっ!」
周りにいた船員達が倒れて船長であろう男はやっと狼狽え始める。
子供たちも、凄い…。と驚きの表情でその様子を見ていた。わたしが視線を戻すとぶわぁぁっ。と青い炎が舞い降り、炎が消えるとそこには人の姿に戻ったマルコが現れた。
「白ひげ海賊団ならここにいるよい」
「今すぐ相手してやろっか?」
いつの間にかサッチも現れ二本のサーベルでその船長の顎を突きながら言い、その船長は足が動かないようでカタカタと震え、す、すんませんしたァッ!!と叫んで仲間達を放って逃げて行ってしまった。
「仲間放って逃げるたぁ、最悪の船長だな」
「全くだよい」
「あいつらはネプチューン軍に引き取ってもらうとしようかの」
「ま、それがいい。あいつらも、まさかここにおれたちがいるなんて思ってなかったんだろうな」
「前半の海を越えて来て、過信してたんだろうよい」
「もうちょっと骨のあるやつらだと思ったんだけどなー」
「被害がなくて良かったわい」
「名前大丈夫だったかい」
「あ…、う、うん」
3人並んでこちらへ歩いて来ていたのだけど、3人共カッコ良すぎでつい見惚れちゃってた。
子どもたちもジンベエ親分ー!なんてジンベエに飛び付いてっちゃって、サッチにもお兄ちゃんカッコ良かった〜!と声が掛かり、それにサッチも得意気にだろ〜?なんて返していた。
「子どもたちも無事だし、何ともないよ」
「それは良かった、今晩は竜宮城で宴だとよい」
「そっか!あれ、エースは?」
「先に出された飯食い始めてたよい、名前ももう行くか?」
「ううん、わたしは一度船に戻ろうと思ってる」
「そうか、サッチも一度戻るらしいから、一緒に行ったらどうだ」
なんでもサッチは宴に人魚のお姉さん達が来ることを聞いて、髪のセットをし直したいんだそうだ。それにはクスッと笑って、わたしも一緒に戻ることをマルコに伝えた。
「あぁ、気を付けろよい」
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