キュッ



「おっし」



洗い物を終えて蛇口を捻った。






「むー…」
「がんばれがんばれっ」



その時、こんな声が聞こえて来た。



「ぬ!」



暫くの沈黙のあと、2人分のあぁー。と言う声が聞こえ。一体何事だと厨房から食堂へ顔を覗かせれば名前とエース、2人が向かい合って座っていて、あははっと渇いた声も聞こえた。

なになに、なに楽しそうなことやってんの?


洗い物も終わったことだし、手を拭きながら2人に近づく。



「ははっ」
「なーにやってんの?」
「「サッチ」」



ガバッて振り返ったエースと名前の声。なんて言うか、最近ハモること多くなって来たよな。うん、お兄ちゃん嬉しいぞ!…じゃなくて、



「何やってんだ?」
「ふふ、マシュマロ炙ってたんだー」
「エースで?」
「おれで」



よく見りゃ、名前の手にはフォークとその先に刺さっているマシュマロ…ってちょっと焦げてるじゃねぇか



「これすっげぇ難しいんだぜ、すぐ火が移ってぶわぁって燃えちまう!」



しかも食ったら苦げぇの。って差し出された皿の上には真っ黒焦げで原型もわからない物体たち、元マシュマロ…だな。

そういや、昔名前に食べさせてやったことあったな…



「上手くいったら、外が少し固くなって中からトロッて甘いのが口に広がるんだよ」
「くそーおれも食いてぇー!!」



もう一回!とマシュマロを差し出したエースから受け取り名前は笑ってフォークに刺した。



「よっし!」
「だんだん上手くなってきてるし次はいけるよ!」



エースが人差し指を立てて名前がそこにマシュマロを近付ける。ボゥとエースの指先から火が出てマシュマロの表面が炙られていく。

名前はフォークをくるくる回してエースは汗までかきそうな表情で火の加減を調節してる。

うわー、なんか初めての共同作業って感じだな。なんとも微笑ましい光景に周囲の奴らも頬を緩めてる。そっちは全然微笑ましくねぇから見ないようにして…と。



「すごいすごい!」



ぶわぁっ…



「あー…」



ゴン



声も出さずにそのまま横のテーブルに額をぶつけたエース。そんなエースに名前もからから笑ってる。しょうがねぇな、ここはサッチさんの出番かね。



「名前、貸してみ」
「うん!」
「おらエース、とっとと火出せ」
「おれもうダメだぁー…」



何ネガティブになってんだ!お前のテンション、マシュマロに左右されすぎだろ!



「お前は火一定に出してりゃいいからよ。マシュマロ食いてぇだろ?あとはおれ様に任せろってんだ」
「おー…」



渋々といった感じで体制を戻し指の先から火を出したエース。
おい、なんか小せえぞ…。まぁいいけど。


ゆっくり火の先にマシュマロくんを近付ける、火がつかない程度に離してくるくる回す。そしたらあっという間よ。
焦げない程度に焼き目がついたら…



「ほい、いっちょ上がり!」
「うわー!すげぇー!!」
「すごーい!!」



なーんか、この2人に褒められると嬉しいぜ…!素直だからかな。



「ほれ、食えよ」
「お、おう…!」



ドキドキ、そんな音が聞こえて来そうなくらいゆっくりとした動作でおれからフォークと取ったエースは、じろじろマシュマロを見てからパクリと口に入れた。



「う…、うめぇ…!!」
「そりゃ当たり前だろっ」
「あははっ、良かったね!」



なんだこれ、こんなの初めてだ!サッチもう一回!おれに尊敬の眼差しを送るエースにあたしにも教えて!と名前。
あはん、おれモテモテ。



エースにもう一度火を出すように言って名前に説明しながらもう一度。



「うーん…、なんとなくわかったかも、やってみる!」



そんなこと言ってたが、さすが名前だ、吸収が早ェ。
あっという間にマスターしちまいやがった。それにいいなー。とエース。



「いつでもマシュマロ炙り放題じゃねェか…」



悔しそうな表情のエースに名前は、あははと笑った。



「そんなことないよ、エースがいないと火がないし、楽しくないし。だから、これからも一緒にしようね」



名前の言葉に目を丸くしたエースは照れたように頭を掻きながらおぅ。と呟いた。



「じゃあもう一回しようぜ!」
「うん!」



ハルタが心配そうにしてたけど、この2人はいつになったらくっ付くのやら…。


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