半分に割られた竹が長く長く繋がれ、甲板中に伸びる。その周りを箸と椀を持って立つ厳つい男達。とてもシュールだと思う。
ぼくは厳つくなんかない。



「おれ、素麺流しなんて初めてだ!」
「エース、流し素麺だよ」
「素麺流すんだろ?一緒じゃねぇか」
「やー、でもなんか、ね?」



竹を挟んで向かい側、こんな会話が聞こえてきて、ぼくも、隣にいるイゾウも、顔を合わせて笑った。




「そうこうしているうちに、始まるみてぇだぞ」



そんなイゾウの声にぼくも含め周囲の奴らがハッとすると、サッチの奴がこの竹の一番端、一番高い位置へ登っていた。

わくわくと期待で満ちた目でサッチを見るエース、それに名前もなんだか楽しそうだ。
すると、サッチはスゥッと息を吸い、大きく声を張った。



「よっし!野郎共!!第一回素麺流し、行くぜぇっ!!」


おぉぉーー!!!



流し素麺だ。イゾウの声が聞こえたけど、みんなの歓声に掻き消されてサッチには届かなかったみたい。



「ほら名前ッ、素麺流しだってよ!」
「ほ、ほんとだ…!」



ほらみろ、なんて顔をするエースに、驚いている名前。間違ってるのはエースなのにね。こんな2人を見るのも、なんだか見慣れてきちゃったな…。
あ、素麺が流れてきたみたい。

川を下るよう、流れてくる素麺に途中箸がブスブス刺されるんだけど、誰にも掬いあげられることなく、ぼくたちの前にやって来た。



「あれっ?」
「おわっ?」
「くわっ?」


や、エースだけ声おかしいから。

ぼくたちの箸をすり抜けた素麺が辿りついたのはイゾウの箸だった。



「いただくかねぇ」



スルッと掬い上げ左手に持っているつゆに浸け、ズルズルッと一気に吸い込む。



「うん、美味い」



ニヤリ。笑ったイゾウに全員が悔しそうな顔を見せた。
そりゃあね。イゾウはワノ国出身だもん、箸に慣れてるからなぁ。
ぼく」もいつまでたってもこの2本の棒を上手く使いこなすことが出来ない。サッチも2本のサーベルなら得意なのにね。



「よーし、どんどん行くぞー」



そんなサッチの声の後、どんどん流れてくる素麺にみんな大奮闘。



「よしっ!一本ゲット!!」
「あれっ、また逃げた…!!」



いいおっさん達が素麺一本で自慢し合う始末。まぁ…、ぼくはまだ一本も取れてないんだけど。



「うわぁっ!まただ…!」
「難しいね…」
「おれも食いてェー」



飽くまで自分のペースで食べ進めるイゾウを羨ましそうに、箸を咥えながら見るエース。それ、名前だったら分けてくれたんじゃない?



「そうだ!」
「ん?」
「ちょっと待ってて」



名前はニッと悪戯を思いついたように笑うと、箸と碗を置いて、どこかへ向かつて行ってしまった。どうしたんだろ?


すぐに帰って来たかと思うと、じゃん!とエース前にフォークを出して、ひひ、なんて笑った。



「おぉ!頭良いな名前!」
「エッヘン!」



楽しそうに2人同時に水の中へフォークを突っ込む、すると…



「うっわ!めちゃくちゃ取れるじゃねぇか!」




フォークに引っかかった素麺を意気揚々とつゆに浸けズルズルズルッ!と音を立てて吸い込む。そして今ぼくたちの頭上で燦々とと光る太陽よりも眩しい笑顔で笑った。もちろん名前に向けて。

ねぇちょっと、なんでおっさん達が顔赤くしてんのさ。



「ワノ国の食べ物美味しいよね!」



エースに負けないくらいの笑顔で返す名前に、何人か倒れた。馬鹿でしょ。



「ちょ、エース大丈夫!?」
「うん、今ちょっとくらっとした。」



あぁ、こっちもか…。
少し座る?と心配そうに覗き込む名前にまた顔を赤くしてるエースに、さらに苦笑いが漏れた。
少し離れたところにいるマルコを見れば、そいつも少し頬が赤くなっていて、それにはさすがのぼくも立ちくらみがしそうだった。


エースも名前も、常に一緒にいて、時々お互い顔を赤くして、なのになんの感情もないなんてことはないよね。
エースなんてそろそろ気付いてそうなんだけどなぁ。
名前は…うん…。なんて言うか、他の人のことには色々気付く子なのに、自分のことになると鈍感って感じ。エースもうちょっと頑張らないとね〜。




「本当に大丈夫?」
「おぅ!お、また来たぜ!」
「あ、ほんと…だ…?」
「え、トマト?」
「だけじゃないよ、キュウリも!」
「ちょっと待ってよ、魚泳いでるんだけど。」




バカサッチ、今度は何やってんの。


「何でも流しスタートォッ!!」


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