シャカッシャカッシャカッ
「こんな感じかな?」
「そうそう、まとまってきたら手で形整えてな」
「うん!」
シャカッシャカッシャカッ
また泡立て器を動かす音が聞こえてぼくもチラと厨房の方を見る。
「ふふっ」
「どうしたハルタ?」
「あれ」
「あぁ…。はは」
ぼくの指差した場所を見て新聞に目を通していたイゾウも少し笑った。
先程からサッチと何かを作っているらしい名前と、その様子をカウンターから覗き見ている1人と一匹。
ステファンのやつもテーブルの上に前足をついてしっぽをふりふり。
「なぁ〜、何作ってんだ?」
「さぁ、なんでしょう?」
「パンケーキ!」
「残念はずれ」
「ヒント!」
「んー、丸いもの?」
んー…!!??と頭を傾けて考えるエースとステファン
ステファンもすっかりこの船に馴染んじゃって…。
あいつ結構頭良いみたいで、エースやサッチには反抗するのに、マルコやオヤジの言うことならすんなり聞くんだ。それもエースは気に食わないみたいだけど、なんだかんだ名前にくっ付いて一緒にいる二人なんだよね。
たこ焼き!
残念、お菓子だよ
ワン!
えっ、わかんないよ〜
そんなやり取りを聞いて、イゾウと顔を合わせて笑った。
犬相手でもきちんと対応する名前が本当に可愛い。
マルコが親で、なんでこんなに良い子が育ったのか、白ひげ海賊団の七不思議の一つだよ。
「サッチ、こんな感じかな?」
「おういいぞ、油の準備はしとくからよ」
「ありがとう」
油か……うん、ぼく分かったかも、きっとあれだ。
「ドーナツ!」
そうそれ。
エースが元気良く発した言葉にふふっと名前は笑った。
「正解、もうちょっとだから待ってね」
「おぅ!」
ワンッ!
ステファンの返事にエースがハァ!?と声を出した。
お前も食うのかよ!?
ワン!
犬のくせに
ガルル…
イテッ!いきなり噛むなよ!
ちなみに、ステファンが噛み付くのは基本エースとサッチだけ、だけど避けないところをみると結局面白がってるんだ。
「真ん中に箸入れてくるくる回すんだ、そしたら綺麗に丸が出来るから」
「わかった!」
ジュージューと音が聞こえて、エースのはらはらしたような声も聞こえて来た。
「ああぁ!油はねた!火傷すんなよ!?」
「あはは、エース大げさ」
「んなことねェって!痕にかかったらどうすんだよ…!ほらまた!」
「お前そんなん言ってっと名前のドーナツ食えねェぞ」
「それは…食いてェ……!」
なら黙ってろ。とサッチに言われエースは上がっていた腰をゆっくりと椅子に落ち着けた。すると、だんだんとドーナツの良い香りが食堂に広がって来た。
「うまそうな匂いだな」
「だね、ぼくにもくれるかな」
「お前もまだまだ子どもだねぇ…」
「うっさい」
イゾウはすぐそうやってぼくを子ども扱いする。まぁぼくだってその他のおっさん達に比べたらイゾウといる方が良いけどさ、もう出会って何年経ってると思ってんの。
それになんだかんだ言ったってイゾウも食べたいんだ名前のドーナツ。
カラカラと音が聞こえ、名前のできた!なんて声も聞こえた。どうやらドーナツが揚がったらしい。
「よし!こんな感じかな」
「お、良い感じ良い感じ!」
エースとステファンはきちんと椅子に座り直しドーナツが運ばれて来るのを待ってるみたい、そこへ二つのお皿を持った名前が厨房から出てきてエースとステファンの前にそれらを置いた。
「はい、どうぞ」
「うんまっそ〜!!」
くぅ〜ん
ステファンが前足で名前を突つき、それに名前は苦笑いを返した。
「ステファンは少しだけね、あまり身体に良くないと思うから…」
ワン…
「代わりにホットミルク作ってあげるから、ちょっと待ってね」
ワン!
名前とステファン、見事に会話が成立してるし…!ステファンも単純なやつ…
また厨房へ戻って行った名前を見ながらエースはドーナツをパクリ。
「うめェ!!」
「そっか、良かった」
今度はミルクを火に掛けたらしくまた甘い香りが漂って来た。ぐぅ。と少しお腹が鳴ってイゾウに笑われた。
「正確な腹時計だ」
「ほんとだ」
イゾウが指差した時計を見ればちょうど午後3時、おやつの時間だ。
最近また冬島の気候に入ったらしくて甲板にいると風邪をひきそうなくらい寒い。だから今日は一日船の中にいたもんだから、時間の経過をすっかり忘れていた。
「出来たよホットミルク、エースにはココアね」
ワン!
「ありがとな!」
名前も外が寒いってこと分かっててホットミルクにしてあげたんだろうな、あぁ、なんだかぼくも飲みたくなって来た…
「イゾウ、ハルタ、はいどうぞ」
ふと顔をあげるとニッコリ笑った名前の顔、不思議に見ていると名前は手に持っていたトレーの上のお皿とカップをそれぞれ僕とイゾウの前に置いた。
「ドーナツ、味見してみて」
「りょうかい」
そう言ってドーナツを手に取ろうとした時、カップの中身が見えて驚いた。
ホットミルクだ…!
イゾウのカップを覗いてみればコーヒー
凄いや、なんで分かったんだろう
ぼくがホットミルク飲みたかったこと。
驚くぼくを他所にイゾウはありがとな。とすぐに一口パクリ。
「うん、甘さもちょうどいい、きっとミラノも気に入るぜ」
「ほんと?良かった!!ってよく分かったね、ミラノさんにあげること」
不思議そうにイゾウを見る名前に、イゾウはふっと笑った
「まぁな、滅多に菓子作りなんてしねぇのに不思議に思ってよ、よく考えたら今日は母の日ってやつかい」
そう言うと、さっきまで読んでいた新聞をこちらに見せてある所をトントンと指で叩いた。
そこは日付欄、その下に小さくだけど“母の日”と書かれていた。
「ほんとだ」
「ふふ。そう、母の日。だけど母の日なんて言ったらミラノさん素直に受け取ってくれなそうなんだもん、だからみんなに渡せばミラノさんも受け取ってくれるかななんて」
えへへ、と笑う名前に僕も笑顔になる。
そっか、名前にとってミラノは母親同然の人だもんね。ミラノに言ったらきっと、失礼ね!そんなに歳上じゃないわよ!とか言いそうだけど…。
よく考えればドーナツもミラノの好物だ。甘すぎず穴は大きい方がいい。
前にそう熱弁してたな。
「さすがイゾウだね、でも良かったミラノさんの好みの味になってて」
「まあな、それより早く持ってかねぇと、あいつに全部食われちまうぞ」
イゾウの指差した先、カウンター席を見れば、エースがもう一個もらうなー!と厨房の中へ手を延ばしていた。それに名前は慌てて走って行ってしまった。
「わー!ま、待って!全部食べちゃダメ!」
ワン!
「うわ!噛むなって!!」
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