「お前ら何やってたんだい!こんな雨の中!」



頭にバスタオルを掛けた状態のままマルコに怒鳴りつけられ、ごめんなさいと2人で謝る。



「で、そいつはなんなんだ…」



相変わらずわたしの腕に収まりきれていないワンちゃんを見て、マルコが言った。



「お前ら…子供作っ……ドベブッ!」



マルコの裏拳が顔面にヒットしたサッチに苦笑いを送って、またマルコを見た。



「木から降りられなくなってるところを助けたんだけど…」
「こいつがまた名前から離れねェんだよ」

ワンワンワンッ!ワンッ!



無理やり引き剥がそうとしたエースに吠えまくりのワンちゃんはさらにわたしにしがみ付いた。



「なんでおれが触ると吠えんだよォ!このっ!」

ワンッ!



あんまり暴れないで…、そろそろわたしの腕も限界…!!



「っくしゅ!」



そう思ったと同時、くしゃみが出てブルッと身体が震え寒気がする。バスタオルを肩に回しキュッと裾を掴んだ。



「取り敢えず風呂入らねェとお前が風邪引くよい」
「うん…、じゃあついでにこの子も一緒に入れてくる」
「ハァッ!?だめだろ!」



あわあわと口を動かしているエースに不思議に思って首を傾げると、片目がひどいことになっているサッチが出て来て、エースの肩を掴んだ。



「まぁエース、こいつは犬なんだからよ」
「犬だからってなぁ…!!」
「ほら、よく見りゃ可愛い顔してるじゃねェか」


ガブッ



「いでででで!噛みやがった!」

フッ



またわたしの鎖骨辺りに顔を擦り寄せ勝ち誇ったような顔をするワンちゃんにサッチとエースはキィキィと反撃を始めた。



「今こいつ笑った!」
「馬鹿にしてんだろ!」
「このエロ犬!!」
「サッチ!こいつ食おう!」
「よし任せろ!どう料理してやろうか…」

「ちょっ…2人とも……」



手をポキポキ鳴らしながら近付いて来る2人に思わず後ずされば、ゴンッ!と綺麗な音がして目の前の2人がへなっと崩れ落ちた。



「名前、早く行って来いよい」
「う、うん…!」

















「じゃあシャンプーしよっか」



ワンッ



軽くシャワーのお湯を掛けてからシャンプーを手につけ、ワンちゃんの背中から順に泡立てていった。

犬用とかじゃないけど大丈夫だよね?

少し不安を感じつつもそのままわしゃわしゃと汚れを落としていってあげる。ワンちゃんも気持ちよさそうに喉を鳴らした。



「痒いとこはない?」

ワンッ!

「そっか」


ちゃんと言葉を理解してくれてるのかな、何か言うと元気よく返してくれる。



ジャーー



「よしっ、終わり。」



シャンプーを流し終えると、さっきまでは薄汚れていた毛が真っ白になり、ワンちゃんもすっきりしたようで身体をブルブルと振って水気を飛ばした。



「あ、タオル取って来るから待っててね」

ワン!

「わっ」


立ち上がった時、情けなくも足を滑らせてしまった。


このまま床に頭を打ち付けてしまうと思った時、目の前がさっきまで見ていた白でいっぱいになった。



ワン!



転んだわたしの下に入り込んで支えてくれていたワンちゃんのなんとも頼もしい背中に手をついて起き上がる。



「ありがとう…!大丈夫?」

ワンッ!



大型犬じゃないのにわたしのことを軽々と支えて、凄い力だな…、まぁあんなに高い木に登るくらいの脚力があるんだから当然と言えば当然なのかな。

今度こそタオルを取ってきてワンちゃんの身体を拭き始める。



「そういえば…名前決めてないね」

ワン

「もしかして、もうあるの?」

くぅ〜ん



今のは否定ととっていいんだよね、てことはまだ名無しさんか…



「何がいいかな…」



やっぱり無難にポチ?あ、でもそれってエースの昔住んでた所で飼ってた犬の名前だ…。
それにこの子はポチって顔じゃないしな…。


ワンちゃんの身体を拭き終わり、わたしの部屋にいるように言って今度はわたしがシャワーを浴びることにした。



「うーん…」



やっぱり名前って一生ついて回るものだし、良いのを付けてあげたい…。名前をつけるなんてこと初めてのことだし、悩むなぁ…

取り敢えず、あの子もお腹が空いているかもしれない、あまり長風呂はせず、シャワー室から出た。



「出たよ〜」

ワンッ!



シャワー室から出ると、すぐにわたしの元にやって来たワンちゃんはフリフリとしっぽを振り回していた。すると、ワンちゃんは口に何かを咥ええていて、それを床に置くとワン!とひと鳴き。



「本…?」



ワンちゃんが持ってきたのはとある本、どうやったのかわたしの部屋の本棚から取り出したみたいだ。不思議に思ってそのタイトルを見てみた。


“ステファンの冒険”


あぁ…。


この話は白い大きな犬があちこちを冒険するお話、わたしが小さい頃はマルコによく読んでくれた絵本だ。自分もすごく好きだったのを覚えている。



「もしかして、この名前気に入ったの?」

ワンッ!

「そっか、じゃあ君はこれからステファンね」



頭を撫でると嬉しそうにくるくる回る、ふふ、可愛い。



ドンドンドンッ!



「名前〜、もう出たか〜?」
「あ、うん」



ガチャと扉が開けられエースが中に入ってきた。きっと彼もシャワーを浴びたのだろう、いつも被っている帽子は後ろに落とされていて、髪も少しペタンとしていた。



「マルコが、そいつオヤジんとこ連れてけって」
「あ、うん」



そっか、まだオヤジに言ってなかった。もう完全にこの子を飼う気になっていた自分に少し笑った。



「行こっか」



名前を呼べば嬉しそうに後ろをついて来るステファンにエースは少し眉を寄せた。



「ステファンってこいつの名前?」
「そう、ステファンが自分で選んだんだよね」

ワンッ



「(完全に飼う気じゃねェか…)」

























「そいつかぁ?名前が拾って来た犬ってのは」

ワンッ!



オヤジそっくりの犬、ついにオヤジと対面。

おれはなオヤジ大好きだけどな、あの犬は嫌いだ。おれの指を噛みやがった…!

包帯の巻かれた自分の指を優しく撫でる、まだピリピリするぜ…。



「どっか身寄りはあんのか?」

くぅ〜ん

「ないって」



え!?通訳!?

なんで名前、あいつの言ってること分かってんの…!?



「ここが気に入ったのか?」

ワンッ!



しっぽをフリフリ、嬉しそうにに振る姿に少し可愛いと思ってしまった。

ダメだ…!あいつは、おれの指を…!!


エースを見てみれば、そいつもポッと頬を緩めていたが、ブルブルと顔を振ってキッとあの犬を睨み直した。


あの犬は、名前の足元にスリスリ顔をくっ付けて、くぅ〜ん。なんて声を出してやがる…!!



「オヤジ…」
「お前が飼いたいなら、おれは構わねェよ」
「「オヤジィ!!」」



おれとエースの声が重なった。それでもオヤジは気にせず名前を見て続けた。



「ただ、世話を投げ出すようなことはするなよ、最後まで責任を持て」
「はい、分かってます…!」



親に捨てられるのが辛いってことは名前はよく分かってる、決して捨てるようなことはしないだろう…。

だけど…!!


「良かったね、ステファン!」

ワンッ



もう名前が決まっていたらしいことにもおれは落胆、まじかよ。まじかよ…!!



「またステファンの小屋建ててもらおっか、それまでわたしの部屋にいていいよ」

ワン!

「あああぁぁぁ!!ダメだ!名前!おれの部屋に来い!こんな犬、何されるかわかんねェぞ!」
「お前の方が何かしそうだよい」



マルコの突っ込みにはその場にいた全員がぷっと吹き出した。



「ステファン可愛いね〜、ぼくと遊ぼっか」

ワンッ!

「おれも犬に触るのは久しぶりだな」

ワンッ!



てっきり、名前にしか懐かねェのかと思ったが、隊長連中に触られても楽しそうにワンワン鳴いてやがる…

なんで、おれとエースだけ…!?
また腹立って来た…!!



「サッチ!ステファンのご飯何がいいかな?やっぱりミルク?」
「あー、また考えねェとな」
「肉はやらねェぞ!」


まぁ家族が増えるってのは悪いことじゃねェか…。


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