ポツ…ポツ…
「雨…?」
ポツポツ……ザァーーー
「やべ!急に降ってきたな!名前!船戻るぞ!」
「うん!」
さっき買い物して来たばかりの荷物を抱え直して、降り出した雨の中エースと共に愛しの我が家に向け走り始めた。
街から離れるに連れて道もただの土になり、雨のせいでびちゃびちゃと踏み込む度に泥が跳ねた。それでも走り続けるのは、もう雨宿りするような場所もないということ。
「名前大丈夫か?」
「うん…!」
さっきよりも激しさの増した雨のせいでエースの言葉も聞こえ辛い。そんな中
ワンッ
「え…?」
「どうした?」
足が止まってしまった。
でも今確かに…
ワンッワンッ
「犬…?」
「え?何も聞こえねェぞ」
顔を動かして鳴き声の方向を探すも周りは木ばかりで犬の姿は全く見えない。
ワンッ
「こっちからっ…」
「あ、おい名前!」
船への道から外れて、森の中のけもの道を進むとだんだんとさっき聞こえた犬の鳴き声が大きくなってきた。
ワンッワンッワンッ
「はぁっ…、いた…」
「あんなとこに…」
どうやって登ったんだろうか…、手を延ばしただけでは届かないくらいの高い木の枝の上にそのワンちゃんはいた。
雨のせいでよく見えないけど、白くて少し大きめ、中型犬くらいだということは分かった。
ワンワンワンッ
「自分で降りられなくなっちゃったのかな…」
「よし!おれが行ってくる!」
「大丈夫?」
「あぁ。おれは昔山で暮らしてたからな、木登りくらい出来るぜ」
エースはさっき買った荷物を木の側に置くと、その大きな木にガバリとしがみ付いた。と思ったら…
ズリッ
「うわっ…!」
ズッデン!!
「いってェー!!」
「ぷっ…」
「あー!笑ったな!」
「ふふ、だって…」
あんな大見得を切っておいて滑り落ちるなんて、ふふっ。おかしいっ。
わたしが笑うのにエースは唇を尖らせて次は落ちねェ!とまた木に足を掛けた。
「くっ……おりゃっ…」
「もう少し…!」
「ほら、こっちだ!こっち来い!」
エースが登って来ることに逆に恐怖しているのか、全く動こうとしないワンちゃん。
「ちょっ…早くしろって…おれもやべェんだぞ…」
雨のせいで木も滑りやすくなってるみたいでエースも必死にしがみ付きながらワンちゃんに手を延ばす。
「大丈夫だよ、ゆっくり…!」
ワンッ
「うげっ!」
「わっ」
ワンちゃんは意を決したように踏み込むと、エースの顔を踏み台にし、ジャンプするとわたしの胸に飛び込んで来た。
決して小型犬ではないので突然のことに支え切れずわたしはよろけてお尻から転んでしまった。
あー。ここ土だから泥だらけだ…。
その飛び込んで来たワンちゃんはわたしの顔にスリスリと顔を擦り付けペロッと頬を舐めた。
「名前大丈夫か?こんの馬鹿犬!」
名前になんてことすんだ!とエースはそのワンちゃんの首の裏を掴み上げ、わたしに手を差し出す。ありがとうとその手を借りて立ち上がり乱れた服を軽く整えた。
「うわ、暴れんな!」
エースに掴まれたワンちゃんはバタバタと暴れだし、エースの手を振り切るとまたわたしの方へ飛んで来た。
ワンッ!
今度は何とか受け止め切れた。
赤ん坊よりは大きいけど3歳児を抱っこしてる気分だ。
「ふふ…可愛いね」
くぅ〜ん…
頭を撫でてあげると嬉しそうにわたしの肩に頭を置いて眠ってしまった。
「こいつ…絶対おれのことなめてる…」
「まぁまぁ、相手は犬だから…」
「にしても…オヤジみてェな犬だな…」
「ほんとだ」
よく見るとその子の鼻の下には顔からはみ出すほどの白い髭、確かにオヤジのとそっくりだ
「名前、取り敢えず戻ろうぜ、このままじゃ2人とも風邪ひいちまう」
「うん、そうだね」
「そいつ重たくねェ?」
「うん。少しなら大丈夫」
じゃあ荷物持つぜ、と手を出してくれたエースに荷物を渡してワンちゃんを抱え直した。
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