こ、こりゃあ……!!
「だっ…誰か!!カメラ!カメラ持って来ーーーい!!!………ハッ!!」
つい思いっきり叫んでしまったが慌てて口を手で抑える。
しまった、起こしちまったー!
と思ったが、全く起きる気配のないそれらに、おれの心配は杞憂に終わった。
「ホッ…」
「どうしたんすか?サッチ隊長」
「なんかあったのか?」
「カメラなら備品庫にあった気が…」
おれの叫び声を聞きつけやって来た野郎共にしぃーッ!と口の前で指を立てると、全員が不思議そうに首を傾げた。
「あそこ見てみろ」
ちょいちょいと船縁の方を指差すと野郎共の視線がその先に移る。
「うわ…」
「まじか…」
「サッチ隊長がカメラ持って来いって言った意味分かる気がする…」
「だろっ?」
第一発見者のおれは少し得意気になってへへっと片眉を上げた。
船縁に背中を預けて眠るエースと名前、それにお互いに頭預けあってるし!!
このツーショットはやばいぜ!!
まさに癒しだ…!!
名前もかなりエースに心を許してるんだな。こんな風に眠るなんてよ。
1年もかからずにここまでこれるなんて、エースもなかなかやるなァ…。
この2人の睡眠姿にほわ〜んとだらしない顔のギャラリーも集まり始めた。
エースと名前、2人の肩が同じタイミングで上下し、エースは肉ぅ…。なんて寝言も呟きやがった。
「サッチ隊長!カメラ持って来ました!」
「でかした!!」
すぐさまこのツーショットをカメラに収めようとおれは少し2人に近付く。
「現像したらくださいねー!」
「おれも〜」
「おれもっす!」
分かってるって、と口で言う代わりに振り返って親指を立てた。すぐにわぁ〜!と沸き立つギャラリーども。
さてさて、おれは重大な任務を任された。2人が起きる前にさっさと撮っちまわねェと…
カメラを構え2人をカメラ越しに見る。そのとき
名前もそもそと動いてエースの指をギュッと掴み、それに反応したようにエースの手が名前握り直した。
「んふ…」
わ、笑った…!!何この子、本当に可愛い、天使、さすがおれの妹。
あぁ、やばい。つい見惚れちまった。
邪魔が入らねェうちにさっさと撮らねェと…。
「邪魔って?」
「そりゃ、マルコとかマルコとかマルコとか…」
ひぃっ………
後ろから殺気がして、カタカタと身体が震え始め、ゆっくり振り返る…。
逆光で顔は見えねェけど明らかにお怒りのマルコさんが立ちはだかっていた。
「何してんだい」
「え、いや、2人の寝顔を撮ろうかと…、き、記念に…」
「へェ……」
あんなにたくさんいたギャラリー達も、自分は無関係みたいな顔して離れていく
くそー!薄情な奴らめ!!
目の前に視線を戻すと無表情のマルコが、ん。と掌を向けて来る。
「え?」
「貸せ」
「え?カメラ?」
「ん」
いつものマルコに戻っていたため、なんだ。とおれの緊張も解けすぐに、ほい。とカメラをマルコの掌に乗せた。
マルコも写真撮っときたいんじゃんか!やっぱそうだよな、この2人はおれらの天…
ポイッ
「あぁーーーーー!!!!」
投げやがった投げやがった!!海に!!カメラ!!投げやがった!!
これには思わず知らんぷりしていたギャラリー達も驚いたようで全員で目を見張っていた。
「何すんだよォ!」
「あ?」
「…すみません」
思わずマルコの眼力に怯んでしまった。
マルコはすぐに名前とエースに近付くと、名前だけを抱え上げた。
エースは支えがなくなってズルッと滑り落ち床でゴンッと頭を打ちつけ、その衝撃で目を覚ました。
「んぁ…?」
マルコ…非道。
マルコは名前を抱き直すと、おれに鋭い眼光を放った。
「もし…、こういう写真が出回ったらどうすんだ。」
「出回るって…。この船のやつらにしか渡さねェし、他の奴らになんて見せねェよ」
「だから、そこに絶対って自信はあんのかい」
「……」
それには思わず押し黙ってしまった。確かに…、この船以外の奴等が見ないって保証はない。
「エースと写った写真なんて、名前の存在を敵にバラしてるようなもんだよい」
「悪かった…」
確かに、名前はただの女の子だ。おれらみてぇに強いわけじゃねェから敵からすれば恰好のまとだ…。
「確かに、マルコの言う通りだ…おれが悪かった。もうしねェ」
「あぁ」
もう良いよい。と名前を抱えたマルコはさっさと船内に戻って行ってしまった。
「なーサッチ!晩飯なんだ?」
「あ、あぁ。そうだな、調達行ったばっかだし肉にすっか」
「よっしゃーー!!!」
こんな時、エースが空気の読めない馬鹿で良かったと思う。マルコに正論言われて、ちょこっと落ち込んでいたおれの心はあっという間に元の状態に戻された。
「よっし、じゃあエースも手伝え!」
「えー!おれは食う専門家だ!」
「お前な…」
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