「マルコ……いる?」
「あぁ、どうした?」



なんだか久しぶりに訪れたマルコの部屋。マルコは本を読んでいたようで、わたしが部屋に入ると、本を閉じこちらを向いて座り直した。



「キトのことは聞いたよい、乗船はしないんだってねい」
「うん…、島の人達に恩返ししたいんだって」
「そうかい」
「うん…」



と、訪れた沈黙。


どうしよう…、なんて言えば…。

今日、帰って来てからずっと部屋でキトくんに言われたことを考えていた。


だ、だって…、初めて言われたんだもん、好きです。なんて…

キトくんの事は好きだけど、そういう意味でじゃなくって…、家族として、弟として、好きなだけ…、それだけ…。


でもだからって真剣に言ってくれたキトくんの気持ちを無下には出来ない。
でも、どんな風に断れば良いのか分からなくて…。
そういう相談ならナースさん達の方が良いのかもしれないけど、なんだかからかわれそうで、恥ずかしかった。

マルコなら誰にも言わないだろうし、からかったりもしない。そう思ってさっき、就寝の直前に部屋を飛び出したんだ。


マルコは椅子に座ったまま、どうした?と言うような視線を投げかけて来る。わたしはそんなマルコを見つめ、静かに口を開いた。



「さっきね…」
「……ん?」
「キトくんに…すっ…す…好きです。って…言われちゃった…」



何も言葉は発さないけど、マルコは目を見開いてほんの一瞬固まった。
ゴホンッ。と一つ咳払いをすると、で?と言うと、机に向き直って書類にペンを走らせ始める。



「それだけじゃねェだろい?」
「あ、えっと、島に残らないか?って言われた…」



少しだけ驚いているみたいだけど、それ以外特に何も反応がない。
どうして何も反応してくれないんだろう…。

そんな風に思ったわたしは自分でも思っていないことを口にしていた。



「それで…わたし、島で暮らそうと思って…」



バキッ



マルコが使っていたペンが折れ、書類と机にじわりとインクが滲み出した。
顔は相変わらずの無表情だけど、マルコが動揺していることにクスッと心の中で笑った。
これで満足だった。マルコが少なからず動揺してくれている。それがわかったから、嘘だよ。そう言おうとした。



「…そうかい」
「え…?」



それだけ?止めないの?島で暮らすってことはもう二度と会えないかもしれないんだよ?

近くにあった雑巾で、机に零れたインクを拭きながらマルコは言った。



「お前が決めたことならおれは止めねェよい。この島気に入ってたもんな、キトと幸せに暮ら…「う、嘘だよッ…!」



思わず叫んでいた。マルコの手が止まり、顔がこちらを向いた。



「わたし、キトくんは好きだけど、そういう意味でじゃなくって、島では暮らさないよ…!わたしの家はここでしょ?」



マルコは視線を戻し、少し安心したように笑った。



「そうかい…」
「なんで…止めないの?」
「さっきも言ったろい、お前が決めたことならおれは止めねェよい」
「でも…」



止めてほしかった…。行くなって言ってほしかった…。さっき、島の人達がキトくんに言ったように…、言ってくれると思ってた…。



「用は済んだかい?明日は出航だ、もう寝ろい」



頭にポンッと乗せられた手に、いつものように嬉しさは感じなかった。


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