「いつまでそこにいるんだよエース」
「……名前が帰って来るまで」
船縁に腕を乗せて島の入口を見つめる。ずっとここにいるけど名前とキトは朝に出掛けたきり帰って来ていない。
「キトが名前を誘ったとき、丁度寝てたもんなお前」
「っるせぇ…」
おれと同じように隣に並んだサッチはそう思っているけど、本当は起きてたぜ、あの時。
わざと飯の中に顔を突っ込むのはなかなか勇気のいる行動だったと自分で感心してる。
あのキトの表情見てたらなんとも言えなくなった。自分もキトと同じような経験してきたし、気持ちが分からなくもなかった。
名前がキトを諭した時からあいつは絶対に名前を誘うと思った、いつもならおれも!って無理にでも入るけど、やっぱキトにも島に悔いとか残して欲しくないし、おれ行ったら絶対邪魔だし…。
だからっておれが空気読むってのもなんだか気恥ずかしくて、自分のあの寝癖を利用したまでだ。
まぁあの2人も別れの挨拶やら済ませたらすぐ帰って来ると思ってたんだけどよ…、今何時だよ!早く帰って来いよ…!!
「もしかして泊まってくんじゃね?」
「なぁッ!?」
「ハハッ、まぁ可能性としちゃゼロではねェだろ」
それは…まずい、ダメだ絶対にダメだ…!!
「あ、おい!エース!どこ行くんだよ!」
「名前迎えに行って来る!!」
「まだ6時にもなってねェのに、あいつバカだろ」
少し石の多いこの道、2人分の足音がザク、ザク、とはっきりと聞こえる。
大将に会って、それからたくさんの人達に会って来た。
みんなキトくんが島を出ると聞くと、涙を流したり、寂しいと抱き締めたり、最後に行ったパン屋さんの小さな娘さんは行かないで!と泣き喚いていた。
もうモビーに向けて歩いているのだけど、キトくんは一言も話さないし、足元を見て何か考えているみたいだった。
「おれ……」
ピタリとキトくんが立ち止まり、2人の足音が止んだ。
「やっぱり……、この島にいたいです…」
「キトくん……」
「自分勝手なのは分かってます。でもおれ……この島の人達に何も返せていない、今までたくさんお世話になったのに……!!恩返しがしたい……」
「ふふ、うん。それもいいと思う」
立っているとキトくんのほうが背が高いから少し背伸びをして頭を撫でてあげる。
「大丈夫だよ、オヤジなら分かってくれる」
「……名前さん…」
また涙が溢れそうになっているキトくんに笑いかけると、ガシッと手首ごと手を掴まれた。
「ん…?」
「おれ、名前さんに伝えたいことがあります…!!」
「どうしたの?」
キトくんはわたしの手を持ったまま腕を降ろすとその繋いでいる手を見つめ呟いた。
「好きです」
「えっ!?」
その時、2人の間をヒュルリと風が通り抜けた。
キトくんを見ればさっきまで伏せていたはずの顔があげられていてわたしをジッと見つめていた。
「おれと、この島に残りませんか…?」
「えっ……と…」
「無理を言ってるのは分かってます!でも、好きなんです!ずっと一緒にいたいんです!」
キッと睨みつけるほどに強い目で見つめられてわたしもたじろいだ。
というかわたし自身、こんな状況は初めてなのだ。
繋がれている手を離そうとしても
更に強く握られそれは叶わなかった。
「えっ…、そのっ…」
わたしがモビーディック号を降りて島で暮らすなんて…、考えたこともなかった…。
「名前ーー!!」
突然エースの声がしてその方を見ると、港の方から息を切らして走って来るエースがいた。
「やっと見つけた!!」
「エース…!どうしたの?」
わたしたちの前まで来ると、手を膝に乗せてフゥ。と一息ついたエースはわたしとキトくんの繋がっている手を見て素早くチョップをいれた。
「キト…てめェ…名前に何してんだよ…!!」
「何もしてませんよ、名前さんさっきの話、明日の朝には返事聞かせてください」
「あっ…うん」
スタスタと港への道を歩き出したキトくんはわたしたちより先に船に帰って行ってしまった。
「名前…、なんか言われたのか?」
「え…と…。う、ううん、何もないよ」
「…?そか」
帰るか。と歩き始めたエースに並んで、わたし達の家、モビーディック号を目指した。
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