「いいって!ちょっと可愛いなって思っただけだから!」
「少しでも気に入ったんだろ?手に入れとかねェと後悔すんぞ」
「だからってエースに買ってもらわなくて大丈夫だよ…」
「いいじゃねェか、これくらい買ってやるって」
レジに進もうとするおれの腕を名前が必死になって掴み止める。だが、そんな弱い力じゃなんの妨げにもならねェ。
今、おれが買おうとしているのはこれ、オレンジのグラデーションがかったシュシュ。さっき名前がぼーっと眺めてたんだ。そこまで深くは思ってなかったんだろうけど、きっと気に入ったんだろうな、と思ったおれはすぐに買ってやる!って言った。だが、名前はなかなか素直に喜ばねェ。
「わたし!そんなの似合わないし…」
最終的にはこんなことを言い出す…。
「似合ってると思うぞ?ほら、この間ミラノにやってもらってた…、あー…ほら、なんだっけ!」
「…編み込み?」
「それだ!絶対似合うから!安心しろって」
そう言って頭を撫でると、少し顔を赤くして俯いた。
あ、可愛い…。
いつもお世話になってるし、なんかお礼させてくれよ。と言えば渋りながらも頷いてくれた。
「ほら」
「ありがとう…」
おれが差し出した袋を受け取った名前はすぐにシュシュを取り出し、顔を緩めた。
「かわいい…!」
「やっぱり気に入ってんじゃねェか」
「えへへ」
最初からそうやって素直に喜べばいいんだ。欲しいなら欲しいって言えばいいのに。
そうやって喜んでる顔見る方がおれは好きだ。
袋から取り出したそれで髪をサイドでまとめた名前はどう?とおれを見た。
そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だってのに…。
名前の頭に手を乗せ、似合ってる!と言えば嬉しそうに顔を綻ばせた。
「エース、ありがとう…!」
「いいって」
もう辺りは薄暗い、まだ2人でいたい気もするが、今日は一日名前と楽しめたし、プレゼントなんてのも出来て俺も気分が良い。
そろそろ帰るか、と言えばそうだね。と2人でモビーへの道を歩き始めた。
街の大通りから外れ、もう街灯もないような道を2人で歩いていた。
おれの視線の先は名前の右手。そーっとそっと、自分の左手を近付ける。
暗くなってきたし、危ねェし、手が冷たくなってるかもって思っただけだ!だけ!
もう少しで名前の手との距離がゼロになる…そのとき
「名前さん!」
突然前方からした声におれと名前の歩みは止まり、おれは手を慌てて引っ込めた。
「キトくん…?」
「良かった!まだ帰ってなかったんですね!」
名前がキトと呼んだ男はおれたちの前までやって来るとおれをチラリと見たあとすぐに名前に向き直りニコニコと嬉しそうな表情を見せた。
誰だ?こいつ…?
「あ、昨日はありがとうございました」
「あれくらい、気にしないで下さい」
昨日ってことは、名前が荷物運んでくれたって言ってたやつか?こいつだったのか…。
「今日はどうかしたんですか?」
「あっ!…そうなんです!実は…!」
昨日から停泊してるっていう海賊があの白ひげ海賊団だったんですよ…!!
キトという男の言うことにおれと名前はギクリとする。名前は、そ、それで?と少し慌てたように返していた。
「名前さんの家って港の方向ですよね?1人は危ないから送ろうかと思って、家どちらですか?」
「えぇと…」
キトは少し横目でおれを見た。今は暗いし、それに今日はちゃんとシャツを羽織ってる、だからかおれがその白ひげ海賊団の一員だとは気付いてないらしい。
「そちらは…昨日言ってたお兄さんですか?」
「あ、えっと…そ、そうです…」
「おれキトです。よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ…」
お兄さんと言う言葉に疑問を感じたが、軽く会釈したキトにおれも軽く返す。
「あの、どこかで会ったことありましたか?」
「いや、初対面だが」
「ですよね…」
おそらく手配書だろうな、おれはお前なんかにゃ会ったことはねェが、お前はおれの顔見たことあんだろ。
おれに名前も聞かず、じゃあ行きましょうか。と名前の手をとって歩き出すキトにおれの中の何かが切れた。
なんなんだこいつ、さっきからおれを無視して名前に馴れ馴れしく…!
キトに引っ張られるように歩き出した名前のもう片方の手を掴んだ。
「その必要はねェよ、キト」
「はい?」
「エース…」
振り返ったキトはおれを怪し気に見た。
「なぜならおれたちがその白ひげ海賊団だからだ」
「!!?」
あからさまに驚いた顔をしたキトの手が緩んだのを見計らっておれはすぐに名前を引き寄せた。
「おれたちって…、名前さんも…?」
「あ……はい…黙っててすみません…」
「名前は2番隊の隊長補佐、おれの部下だ」
申し訳なさそうに頭を下げる名前の手をとって、じゃあな。と固まったままのキトの横を通り過ぎた。
「あの!」
また後ろから叫んだキトにおれは足を止める。
「…さっきエースって言ってましたけど…もしかして、火拳のエース…さんですか?」
「あぁ」
振り返ってキトを見ると、目の前までキトがやって来ておれの手を掴んだ。
「おれ!ずっと憧れてたんだ!おれを弟子にしてくれ!」
「はぁっ!!?」
「えっ!!?」
驚くおれと名前を他所にキトは続ける。
「おれ、ずっと1人でこの島でいたんですけど、新聞でエースさんのニュース見つけて、すっげェ強くて超新星とか言われたり、七武海の勧誘蹴ったり、カッコ良いなって思ってて…!!おれもいつか海に出たいなって思うようになってたんだ!!」
だから頼む!!と頭を下げたキトをおれと名前は呆然と見つめていた。
こいつ…実はすっげェ良いやつなんじゃないか…??
オヤジ、キトくん、エース、3人が話すのを少し離れたところで見ながら、わたしはマルコに事情を話していた。
「それで…連れて来たのかい」
「うん…あはは」
マルコの呆れたようなため息には苦笑いしか出ない、結局あの後、エースはキトくんをかなーり、気に入っちゃって、オヤジんとこ行こう!って連れ帰っちゃったわけだ。
「グララララ…、キト、お前島に家族はいねェのか」
「いないです。昔から1人で生きて来ました」
「…そうか、ならかまわねェ、これからおれたちがお前の家族だ」
「はい!!」
どうやらキトくんの乗船が決まったみたいだ。エースも嬉しそうにキトくんの背中をバシバシ叩いている。
「ほんとに弟になっちゃった…」
初めて出来た弟、なんだか嬉しいな…
「名前さん!」
わたしの所へ走ってやって来たキトくんはさわやかな笑顔でこれからよろしくお願いします!と手を差し出した。それにわたしもよろしくね、と手を合わせる。
「おれはマルコ、よろしく」
「不死鳥マルコさんですよね、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるキトくん
「今日はほとんどが島に下りてるが、また戻ったら宴で紹介するよい」
「ありがとうございます!あの、おれって何番隊所属になるんですか?」
「特に人不足はねェし、好きな所に行ってもらって大丈夫だ」
エースに憧れてるなら、2番隊か?と聞くマルコにキトくんは、はい。と答えた。
「名前さんも2番隊なんですよね?」
「え?うん」
「じゃあぼくも2番隊でお願いします」
「…あぁ」
なぜわたしのも聞くのかは分からないけど、やっぱり2番隊になったらしいキトくん。
隊長であるエースを見れば、まだオヤジの傍で、おれに憧れるなんて流石だよな!と鼻高そうに話している。そんなエースに思わずクスリと笑いが漏れた。
「この島にはまだ暫くいるから、その間に別れの挨拶とか済ませておいてね」
「あ……はい」
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