おれの名前はキト、この島に住む17歳の男子。親はおらず、日雇いの仕事で稼いで、その日暮らしをしている。いつか、この島も出たいと思っているけど…、なかなかきっかけってのがない…。


今日は一日ゆっくりしようと特に仕事を入れていなかった。夕暮れ時ぶらぶら商店街を歩いていたら、大通りからは少し外れた道を大荷物を抱えて歩く女の後ろ姿が見えた。

両腕に紙袋を抱えてかなり歩き辛そうだ。なんとなく、その子を見ていると、その子の腕の袋からポロッと野菜が転がった。



「あ…」



落ちたのに気が付いたみたいだが、既に両腕がいっぱいで、どうしようかとオロオロとしていた。

おれが直ぐさま近付きその野菜を拾うと、ありがとうございます。とその子はニッコリ微笑んで見せた。


…!!


す、すごく、可愛い…。こんな子…この島にいたっけ…?

化粧っ気もなく透明感のある肌で、ふんわりと微笑むその姿におれは心を奪われた。所謂一目惚れってやつかな。直ぐに立ち去ろうとするその子の腕から荷物を一つ奪う。すると、不思議そうな瞳がおれを見つめた。



「運ぶの手伝いますよ、家はこっちですか?」
「あ、いえ、大丈夫ですよ、こんな、初対面なのに…悪いです…」
「今日は暇なんで大丈夫ですよ。それに、最近、海賊が停泊してるらしいですから、女の子1人じゃ危ないです」
「でも…」
「大丈夫ですから、行きましょう」



おれが歩き始めれば渋々ながらも付いて来てくれた。このまま別れるなんてもったいなすぎる、渋々でもいい、家が分かれば何度でも会いに来れるし…

それにしても…、荷物の中身を覗けば、全部が食糧。こんな量を1人で買いに行ったのか…



「ずいぶんとたくさん買ったんですね」
「あ…、うち大家族なので…」
「そうなんですか?なら誰が連れてくれば良かったのに、こんな量、1人じゃ大変でしょう?」
「連れはいたんですけど、まだ買い足りないから先に戻ってろって言われまして…」
「そうなんですか」



この量を買ってまだ買い足りないなんてどんな大家族なんだ…。そんな大家族がいたらこの島でも有名になってるだろうに、聞いたこともねェ…



「大家族って何人くらいなんですか?」
「うーん…、兄も姉もたくさんいます」
「末っ子ってやつですか?」
「そうですね、わたしも弟や妹がほしいです」



クスクス笑う彼女、てっきり長女で下の子達の世話をしているのかと思ったが、違うのか…。



「おいくつですか?」



女の子に年齢を聞くなんて失礼かとも思ったが、彼女は嫌な顔一つ見せず18ですと答えた。



「あ、おれ17なんです。弟がほしいならおれのことそう思ってもらってください」



って!何言ってんだおれ!!彼女もびっくりしてるじゃねぇか!



「ふふ、ありがとうございます」
「い、いや…」



意外にも笑顔で礼を言ってくれた彼女に照れ臭くなって頭を掻いた。



「あなたもお兄さんとかいるんですか?」
「いや…おれ、家族いないんです」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
「大丈夫ですよ、もう一人が長いですから」



申し訳なさそうな顔をする彼女にヘラッと笑って見せると、彼女も少しだけ笑ってくれた。おれなんかに気を遣ってくれて、本当にいい子だ…。



「ここって、とっても良い所ですよね、街も、人も」
「おれもこの島好きですよ」
「わたしもです…」


また彼女が笑う。本当に綺麗だ。見た目もだけど中身も、今まで色んな人にあったけれど、ここまで惹かれる子は初めてだな…。



「あの、名前、聞いても良いですか?」
「もちろん。わたし名前です。あなたは?』
「おれはキトです」
「キトくん、いい名前ですね」
「名前さんも、いい名前です」
「ふふ、ありがとうございます」



それにしても…彼女はどこに向かってるのだろうか…?かなり街から外れた所にやって来ていて、こんな所に家があるなんて聞いたこともない。それに、この道を真っ直ぐ行ったところで港があるだけだ。不思議に思うおれの思考は彼女が立ち止まった事で停止された。



「もう、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「え、ここで良いんですか?」
「はい、本当にありがとうございました」



お辞儀をして、おれの手から荷物を受け取る。最後に笑顔を見せてまた歩き始めた彼女の後ろ姿をおれは暫く見つめた。



「今日はここまでか…」



いきなり家に行くのもどうかと思うし、しつこい男もダメだよな。
どうせ、この島に住んでるんだ。また会える…。




















キトくんと別れて船に戻ると見張りの人達が荷物を上に上げてくれた。わたしも縄梯子を登って船に降りればすぐにおかえり、と声が掛けられる。



「ただいま」

「名前〜!」
「エース、終わったの?」
「バッチリだ!」
「どこがバッチリだい、10枚も書いてねェだろい!」



ゴツン!とエースの頭にマルコの拳が落ちる。サッチから聞いたけど夜中のうちにエースが食糧庫のものを食い漁っちゃったらしい…。それでマルコがご立腹なのだ。



「サッチはどうした?」
「まだ買ってくから先に戻ってろって言われたの」



結構2人とも腕いっぱいに荷物持ってたのに、あそこの魚安い!って言って走ってっちゃったんだよね。



「それにしても、あんな量、よく1人で持って帰られたねい」
「あ、道で会った男の子が途中まで運んでくれたの」



ピキッ

2人の額に青筋が見えた気がした。
すると2人がずいっと一歩わたしに近付いた。
え…何…?



「名前、何もされてねェ?」
「知らないやつに付いて行くなっていつも言ってるだろい」
「わたしが付いて行ったわけじゃないし…、この船に来る途中にちゃんと別れたよ」



海賊船が停泊してるから危ないって言われた時はちょっとまずいかなって思ったけど、幸いわたしをその海賊だとは思ってなかったみたいだし…。



「荷物運んでくれただけだから」
「まぁいい、次から気をつけろい」



少し難しそうな顔をしていたマルコもなんとか納得してくれたよう。もしキトくんが危険な人でも、わたしだって能力があるんだし、少しくらい大丈夫…!水さえあれば…だけど…。



「名前!明日はどこ行く?なんかいい場所あったか?」
「あ、良さそうなレストランあったよ」
「じゃあ明日はそこ行こうぜ!」
「うん」



この島には暫くいるみたいだし、治安も良いからとても気に入った。早くエースと回りたいなぁ…。


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