「はよ!サッチ!」
「おぉ、どうしたエース、今日早いな!」
「なんか目が覚めちまった」



へへっと笑ったエースが頭をボリボリ掻く。エースがマルコや名前よりも早くに起きてくるなんて珍しいこともあるんだな…。
そんな今日はまた珍しいことが起こる。
次にガチャ。と扉が開きやって来たのは名前。



「おはよう…」
「名前ッ!おはよ!」
「あれ、マルコまだ来てないの…?」
「そうみたいだな、飯なら取っといたぞ!」
「ふふ、ありがとう」



名前の疑問は尤もだ、いつもなら一番に起きてくるマルコのやつがまだ来てねェ。名前の来た時間はいつも通りだからマルコが遅いってことだ。あいつが寝坊なんて、嵐でも来るんじゃねェか?


早く来いとばかりに隣の席をバンバン叩くエースとそこに向かう#名前…なんだけど…。
名前、なんか顔色悪くねェか?
足もフラフラっていうか、覚束ないっていうか…。



「名前、大丈夫か?」
「あ、うん大丈夫。昨日遅くまで起きてたから、寝不足でフラフラするだけだと思う」
「…そっか。」



いつも通りにニッコリ笑った名前を信じておれも自分の分の朝食を取ってエースの正面に座った。隣は後で来るであろうマルコのために空けといてやる。

案の定、暫くして食堂の扉が開きマルコが入ってきた。



「おー!寝坊か?」
「いや、起きてからちょっとオヤジの所に行ってた」
「なんだ、つまんねー」
「おれが寝坊なんかするかよい」



だよなぁ。ま、たまにはゆっくりしてくれてもいいんだけど、あいつの場合目覚まし時計なんか設定しなくても体内時計で起きるからどうしようもねェか。


マルコは自分の朝食を確保すると迷わず俺が空けといてやった名前の正面の席にやって来る。



「マルコおはよう…」
「おぅ、おは……!」



マルコは名前を見ると、眠そうな目を少し見開いた。かと思うと、スッと名前の額に手を延ばす。
その様子を今まで名前の隣でぺちゃくちゃ喋っていたエースも口を閉じ不思議そうに見つめていた。



「名前、お前熱あるよい」
「えっ!!?」
「やっぱり…」
「あ…、はは…」



驚くエースに、納得するおれ。おれが見ても分かったんだ、マルコが気付かないわけねェ。やっぱりいつもより顔色が悪いし、朝飯も全然食ってねェし。
すると今度はエースが名前の手を掴んだ。



「熱い…」
「はは…、ごめん、やっぱり辛いかも…」



熱が上がり始めたのか、息もハァハァと辛そうになって額から汗も滲み出し始めている。

エースに困ったような笑顔を見せる名前。マルコはそんな名前の腕を掴み、立ち上がらせた。クタッとよろけた身体を受け止め、抱き上げるとおれの方を向いて一言。



「サッチ、なんか食いやすいもん作っといてくれよい」
「おう!了解!」



最近環境の変化が色々あって疲れが溜まってたんだな、よおし!サッチお兄ちゃんが美味いもん作ってやるからな!
そう意気込んでいるとエースが焦ったようにおれにしがみついて来た



「サッチどうしよう!名前が!」
「落ち着けよ…!ただの発熱だろ、ちゃんと寝てれば治るっての!」
「でも…おれ…、名前の隊長なのによ…」



何も出来なかった…。と落ち込むエースに呆れた溜め息が零れた。いつもの自信はどうしたんだよ、ほんと、2番隊隊長様が聞いて呆れるぜ。

おれはそんなエースの肩に手を置いた。すると涙目で顔を上げるエース。
おぅっ!可愛いなお前!おれ、決してそんな趣味はねェけど!!



「名前に持ってってやるもの一緒に作るか?」
「お、おう!!」
























マルコに部屋まで運ばれると、ベッドの上にそっと下ろされた。



「船医呼んでくるから寝てろい」
「うん…ありがとう…」



そっとわたしの頭を撫で部屋から出て行くと、暫くして船医さんやミラノさん達を連れて戻って来た。
診察が始まっても扉の所に凭れているマルコを見てなんだかホッとした。頭はボーッとしているけど今はマルコに傍にいてほしい。それだけはハッキリと分かる。



「異動もあったしな、疲れが溜まってたんだろう、暫く安静にすれば治るよ」



実は、朝起きたときから身体に変な気怠さがあった。昨日夜更かししたこともあって寝不足だったからそのせいにしてたんだけど、こうなるんだったら朝から部屋で寝てれば良かったな…。でもわたしがいないと洗濯物するの大変だし…。そう思えば思うほどみんなに申し訳なくなってきた…。



「食欲はあるか?あるなら食べたほうがいい、薬も渡しておくから飲みなさい」
「はい…」



船医はそれだけ言うとマルコに頭を下げて部屋を出て行った、ミラノさんはわたしの頭に濡れタオルを置いてくれたりして暫くいてくれた。落ち着いたのか傍にある椅子に座ると、ゆっくり頭を撫でてくれた。



「可哀想に…疲れてたのね」
「あはは…そうみたい」
「何かあったらなんでも言ってね、欲しいものない?」
「ないよ、ありがとう」



ミラノさんは最後に頭を一撫でして、あとお願いしますね。とマルコに言って部屋を出て行った。

スタスタとマルコが近付いて来る音が聞こえる。足音が止むと、少しボヤけてるけどマルコが心配そうな顔で覗き込んでいた。



「辛いか…?」
「うん…ごめんね…」
「何言ってんだ、名前を異動させたのはおれだろい」
「自己管理が出来てなかった自分だから…」



申し訳なさそうな顔しているマルコ、その手をギュッと掴んだ。



「ねェ、マルコ…、頭…撫でてほしい…」



さっきミラノさんも撫でてくれたけどね、やっぱいマルコが良いな。
ボヤけている視界の中、マルコのフッという声の後、頭にいつもの温もりがおりてきた。何度も何度も往復するその心地よさにわたしはゆっくりと目を閉じ、眠りについた。



「寝ちまったかい…」




















「ん…」



重い瞼をゆっくりと開く、身体はまだ怠い気がするけど、頭はだいぶスッキリしている。

窓の外はもう薄暗くて、時間の経過を教えてくれた。


ふと左側の重みを不思議に思い顔を向けると、椅子に座りベッドにうつ伏せて寝ているマルコ…ではなくエースの姿。


なんでエースがいるんだろう…?

ベッド脇のテーブルを見れば、お盆に乗った小鍋とコップ。あぁ、何か持って来てくれたのかな…。

わたしが上半身を起こしてみてもエースの方は起きる気配が皆無で、わたしの額からポト。と濡れタオルが落ちて来た。それがまだ冷たいことに驚く。

エースが替えてくれたのかな。

むにゃむにゃと眠るエースが可笑しくて髪を撫でてみれば心地よさそうに目が垂れた。



「ふふ…」



ツンツンと頬を突ついてみると今度は眉が寄ったが、それでも眠り続けるエース。



「エース…」
「ハッ!」



小さな声で呼んだのだけど、それだけで起きてしまったらしいエースはガバリと身体を起こした。



「名前ッ!大丈夫か!?」
「うん、朝より全然マシだよ」
「飯…作ったんだけど…食えるか?」
「エースが作ったの?」
「おう…!」
「食べたいな…」



すると、ちょっと待ってな。と嬉しそうに小鍋からよそってくれるエース。小鍋を覗き込めばふんわりと甘い香りがした。



「ミルクがゆ?」
「おう、サッチと作ったんだ」
「おいしそう…!」



小皿とスプーンを受け取ろうとしたらスッと避けられた。え?とエースを見れば、おれが食べさせる!となぜか意気込んでいた。



「い、いいよ、自分で食べられる」
「ダメ!今は俺に甘えてろって」



フーフーと息を吹きかけたエースは、ん。とわたしの口元にスプーンを持ってくる。
戸惑いながらもそれをパクリと口に入れた。すると口の中にふんわりとミルクの甘さが広がる。



「おいしい…!」
「へへっ、まだ食うだろ?」
「うん…!」



するとまた嬉しそうに笑うエースがスプーンを口元に持ってきてくれパクリ。それをなんども繰り返しわたしはエースが作ってくれたミルクがゆを完食した。



「おいしかった…!」
「また作ってやるよ!」
「ありがとう」



笑い返せば今度はエースの手が額に延びて来た。



「んー?熱下がったかな…?」
「まだ少しあるかも、身体が少し怠いし…」
「じゃあまた寝るか?何も欲しいもんねェ?」
「うん…。あ…手貸して…」
「手?」
「うん」



差し出された手をギュッと握った。エースには名前?と驚かれたけどそこは気にせずまたギュッと握る。やっぱり、マルコとは違うけど安心できるな…。と手を握っているとまた、だんだんと眠くなってきた。



「名前?」
「ふあ…」
「おーい」
「ん…」
「え、寝た!?」

手ェ…握ったままなんですけど…。













後日、名前は無事回復、上半身裸で一晩過ごしたエースが発熱。



「エース…ごめんね、大丈夫?」
「ん…、名前ー」
「何?何か欲しいものある?」
「手ェ、貸して」
「手?」
「うん」



にぎにぎ…ギューッ



「ふはは…」
「なに?くすぐったい」
「名前の手、気持ちいい……」


「寝ちゃった…!」


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