「ねぇ名前、一緒に釣りしようよ」



食堂のいつもの席で本を読んでいるぼくらの可愛い妹に声を掛けた。2番隊の補佐になってから時間が増えたらしい名前は食堂で本を読むことが多くなり、今も難しそうな本を前に顔を顰めていた。


ぼくの声に振り返った名前は不思議そうに首を傾げた。



「どうしたの?珍しいね、ハルタが誘ってくるなんて」
「最近名前と話してないなぁと思って…いいでしょ?」
「ふふ、もちろん」



名前はふんわりと笑うと本を閉じて立ち上がり、ぼくの隣に並んで歩き始めた。

ぼくより少し背の低い名前、それでも昔はもっと小さかったからずいぶん成長したんだなと思う。


隊員に準備しておくように頼んでおいた釣竿をもらって船縁に二人で並んで座った。



「はっ!」



チャポンッ



勢いよく竿の先を海に投げ込んだ名前がなんだか可笑しくてククッと笑えばなに?と不思議そうな顔をする。



「なんだか久しぶりだなと思ってさ」
「ふふ、そうかも」



クスクス笑う名前に、子供の頃の姿が重なった。まだ少し、この船に怯えていた頃の名前。



「マルコの次はぼくに懐いてたでしょ?」
「うん。だって、他のみんな顔が怖いんだもん」
「みんな必死だったんだよ?名前に好かれようとさ」



何かを思い出したのかクスクス笑い始めた名前。確かにあの頃は船員みんなが名前にデレデレで悪人面がさらに気持ち悪いことになってた。特にサッチなんかは…



「サッチは毎日デザート作ってくれたんだけど、くれる時の顔がすっごく怖かったんだよ…」
「ハハッ、その度にナースにしがみ付いてた」
「そうそう!ふふ、懐かしい」



ぼくのも名前のも、一向に魚が掛かる気がしない。でもいいんだ。こうして話したかっただけ。



「マルコ以外に近付けたのはハルタとイゾウだけだったなー…」
「あの頃も釣りしたね、名前すぐ飽きてたけど」
「ハルタはたくさん釣れてるのにわたしのは釣れなかったんだもん!」



ぶーっと膨れる名前にまた笑いが零れる。今はぼくも釣れてないじゃん。と言えば、そうだけどー。と言う。こういう負けず嫌いなところも名前の魅力の一つだと思う。



「2番隊にはもう慣れたの?」



一番聞きたかったこと。マルコが名前の異動を言った時はとっても驚いたけど、これもマルコなりに考えがあることなんだと思う。
だって名前の父親はやっぱマルコだし、それでも気になる、名前は嫌じゃないのか。とか…。



「うん!エースってサッチ以上に報告書書くのが下手なんだよ!」
「あー、エースってバカそうだもんね」
「ペン持って2分で寝ちゃう!」



逆に凄いよ!と楽しそうにエースの話をする名前に安心した。
エースと名前がくっ付けば良いって言ったけど、名前はやっぱりマルコの傍にいたいんじゃないかとか色々思ってた。
でも、エースの話をこんなに楽しそうにするんだもん。エースにも可能性がない訳じゃないよね。

最近では名前にベッタリくっ付いてるエース。名前が本を読んでる横にもいるし、報告書を書くときは必ず名前に教えてもらいながらだし…
さっきはオヤジに呼ばれたらしくて、珍しく名前が一人だったけどさ…

前は名前が報告書を受け取りにきてくれたときにたくさん話せたのに…、今はエースのせいでぼくが名前と話をする時間が全くないんだ!

と突っ込みたくなるが、ぼくだっていい大人だ。末っ子のエースの恋の邪魔をする気はない。



「今は2番隊にきて良かったと思ってる。心配してくれてありがとう」
「そっか」



ぼくの考えてたことなんてお見通しだったのかな?ニッコリ笑う名前は本当に綺麗で、可愛くて。ぼくも微笑み返した。その時遠くから聞こえた名前ー!!と言う声。その声に名前とぼくが振り返れば顔をあたふたさせて焦っているエースがいた。



「あ、危ねェだろ!なんでそんなとこ座ってんだ!」
「え?」



名前の手を引いて降ろし大事そうに受け止めると、今度はぼくを睨みつけるエース。それにやれやれとため息が漏れた。



「名前になんてことするんだハルタ!」
「別になにもしてないよ」
「んなとこ座ったら落ちるだろうが!」
「釣りしてだけだよ?」



何も釣れなかったけど。と名前が笑って付け足した。
それよりも、エースは何をそんなに怒ってるんだ、自分なんて座りながら寝てたこともあるのに。



「名前、あそこ座る時はおれを呼べよ?」
「え、うん…?」



別にエースがいなくたって、ぼくがいたじゃんか。


あー、なんか、
マルコよりも過保護になってる気がする…。


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