甲板、船縁に腕を預けてじーっと海の先を見続けている後ろ姿。
時々、少し離れてても聞こえるくらいのため息を吐く。
昨日、エースがドーマんところに出てからずっとこんな調子だ。
「名前」
「ん?サッチ、どうしたの?」
名前を呼べば、振り返って不思議そうに俺を見て首を傾げる名前。
うん、かわいいよかわいいけどな。
「エースなら昨日行ったばっかだろ?まだなんじゃねェの?」
「うん…分かってるんだけど…」
そう言うとまた海に視線を戻す。
「…早く帰るって言ったんだもん…」
海を見て切なそうに言った名前に少し驚いた。
名前って、マルコ以外の奴にもこんな風に思うんだっけ?
俺の驚き様に気付かず名前はまたポツリと呟いた。
「エースがいないと、結構退屈…」
船縁の上の腕に顎を乗せて、うー…。と唸る名前。
ほんとどうしちまったんだ!おれの …あ、間違えた。おれたちの妹は!
「っくしゅん!」
可愛らしい、でも盛大なクシャミをした名前は、また、うー。と唸った。そりゃ一日中甲板に出てりゃそうなるわな。
おれもいつもとは違う様子の名前に本来ここへ来た目的を見失ってたが今ので思い出した。
「名前、エースが帰って来たら誰かに知らせさせるから一旦中に入れ、風邪ひくぞ」
「はーい…」
少しむず痒そうに鼻を動かした名前は大人しく中へ入ることにしたみたいだ。
本当はマルコに頼まれたんだけどな、名前がずっと外にいるから風邪ひかないように中に入れろよいって。自分で言やあいいのによ、なぜか最近距離をとってるマルコパパ、やっぱ娘離れか?
でもま、名前は名前でエースと楽しくやってるみたいだし、おれは何も言わねェけど…。
「ココア飲みたいな…」
「おっ、久しぶりだなー。任せろ、美味いの入れてやる」
遠慮がちに言った名前の頭をガシガシ撫でてやると、ありがとう!とおれの腕に両腕を絡め、ふふ。と笑った。
そういうとこ本当かわいいわ…!
ブォォォォーーーン…
「名前ーーー!!」
微かに聞こえたエンジン音と叫び声に思わず素っ頓狂な声が出た。
「は?」
その音と声は名前も聞こえていたみたいで、おれの腕から離れ船縁に走って行った。
右腕に少し名残惜しさを感じながらもおれも名前の隣に並んで海を見てみる。
まだ目を凝らさないと見えない程度だが、あのオレンジの帽子をかぶったエースが笑顔で両手をブンブン振っていた。
「エースさん、帰って来るの早くないすか…?」
「予定だとまだのはずじゃ…?」
船員達の不思議がる声を他所にエースの乗るストライカーはどんどんモビーに近付いて来る。
とうとうその距離はなくなり、エースが甲板に飛び乗ってきた。
「ただいま!!」
「「「おかえりなさーい!」」」
船員達が盛り上がってるが、エースは名前は?と、すぐに名前を探し始める。
「おかえりエース」
「ただいまッ!」
名前の声に反応したエースはガバリと名前に抱き付き、ニッと素敵スマイルを見せた。
え?え?え?お前らそういうことしちゃうほどの関係なの!?
「早かったね」
「名前が早く帰って来いって言っただろ?」
「そうだけど…」
名前の表情にエースは嬉しくねェか…?と不安そうに名前を覗き込む、すると名前はパァッと顔を明るくして笑った。
「嬉しいよ…!」
「へへっ!」
照れ臭そうに笑うエース。それよりもその二人を見るおれの目は点だ。他の奴らは何かと盛り上がってて気付いてねェが、こんなの今まで見たことねェだろ…!!
「あれ、なんでエースがいるの?早くない?」
大騒ぎが聞こえて甲板に出てきたらしいハルタとイゾウが不思議そうにエースを見ていた。
「おう!もう帰ってきた!」
「ちゃんと任務はやったのかい?」
「バッチリだ!」
ピースサインを決めるエースに、へぇー。と笑った二人は、だったら早くオヤジのとこ行って来い。とエースの背中を叩いた。それにより、エースは名前を連れてオヤジィー!と去ってしまった訳だが…
おれの目は暫らく点だな…。
「どうしたのサッチ?そんな気持ち悪い顔して」
「……」
「目がなくなってるよ。キモイ」
「ハルタ、お前酷いな…」
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