「島が見えたぞーー!!」



その言葉に反応して食堂の椅子からドダッと立ち上がったエース。転ぶんじゃないかと思ったが、全然そんなことはなく、そわそわそわそわ…扉を気にしてる。


おれが昨日名前から聞いた、島にはエースと行く。と言うことを伝えた時、エースは嬉しそうな顔を見せてたが、おれの言ったことが半信半疑。自分から迎えに行けばすぐに分かることだけど、昨日の件もあるし、悩んでんだな。

それより、名前は大丈夫なんだろうか。
名前としても、エースに直接じゃないけど断る風なことしたから気にしてるんだと思う。


ガチャ……


ゆっくり開いた食堂の扉を見れば、そろり。と名前が顔を出した。それを見たエースがパァッと顔を明るくさせ、名前ッ!と嬉しそうに名を読んだ。



「島、見えたって…?」
「おう!見に行くか!」



少し伺うような笑顔を見せた名前に、満面の笑みで返したエース。
いつも通りのエースを見て安心したんだろう名前はふにゃりと笑った。



「楽しんで来いよ!」
「おう!」
「行ってきます」



食堂にいた面子もいってらっしゃいと手を振る。全員に笑顔を返そうとする名前をエースは待ち切れないと言うように手を引き外へ飛び出して行った。

























名前の手を引き、甲板に出て船縁から島の方向を見る。



「あれか!」
「うん、天気も良いし、良かったね」



嬉しそうに微笑む名前におれも顔が緩む。
こっちがいつも通りにしてれば、名前だっていつも通りだ。昨日のことはちょっとショックだったけど、いきなりのことで戸惑ったんだと思う。それに、名前が嫌なら無理に2番隊に来てくれなくてもいい。
ほんとはすっげェ来てほしいけど。
でも、毎日こうやって名前の笑顔を見れたら、おれはそれでいい。


風も手伝ってあっという間に島との距離がなくなった。いつもならそのまま飛び降りるところだけど、今日は名前がいる。錨を降ろすのを手伝って一緒に島に降りた。



「んー!!なんか、久しぶりだぁ…!」



伸びをする名前のワンピースの裾がヒラヒラと風に舞う。今日の名前は少し刺繍の入った白の膝丈ワンピースに斜め掛けのバッグ、靴は少しヒールのあるサンダルで、首にはいつものネックレスがかかっていた。



「まずは本屋だよな!」



名前の手を取って歩き出せば、一瞬わっ、と驚いたようだったが、そのまま大人しく手を引かれて着いて来る。しばらく木々の中の道を進むと賑やかな街に出た。そこは前の秋島とは違ってたくさんの人が行き来していて、店もたくさんあるみたいだ。



「本屋どっちだァー…?」
「んー…、すぐじゃなくてもいいよ。ブラブラ歩いて、見つけたらでいい」
「そっか、じゃあ飯でも食うか!おれ腹減ってんだ」
「ふふっ、うん!」



笑った名前の手を握って、おれたちは街の中へ歩いた。












「名前、ほんとにそれだけでいいのか?」
「うん」
「絶対足りねェぞ」
「や、エースが多いだけだよ」


おれの前にある何人前か分からねェほどの量の料理に比べて、名前はオムライス一つという少量。それだけじゃ絶対お腹いっぱいになんねェ…。



「おいしいね」
「あぁ!サッチのには負けるけどな」



それ言っちゃ勝てる人いないよ。と名前はふわりと笑った。


可愛い。
ほんと、変わらねェんだ…。この島を歩いて更によく分かった。名前はこの街を歩いてる普通の女と、何一つ変わらねェ…。
ただ海賊船に乗って、そこで暮らしてるってだけ。マルコやサッチの話からすれば名前は成り行きで船に乗ったらしい…。海賊船だといつ戦闘が起きるか分からねェし、いつ死ぬかも分からねェのに、名前は島で平和に暮らしたいとか思わねェのかな…。



「エース」
「……」
「エース?」
「っうぇ?な、なんだ?」



知らないうちにボーッと考えこんじまってた。意識を戻すと、名前が不思議そうにおれを覗き込んでいて、考え事なんて珍しいね。と少し笑った。


カチャ…


なぜか名前は手に持っていたスプーンを置いて、手をテーブルの下に持って行く。不思議に思って名前を見れば、少し顔を伏せていて、今どんな顔をしているのか分からなかった。
名前?と聞けば返事はすぐに返ってきた。



「エース、昨日はごめんね…」
「あ、あぁ、いいってそんなの、あんなの誰だってビックリするだろ」
「ごめん…。でね、昨日考えたの」



何を?とは言わない。分かってる。異動の件だ。名前は伏せていた顔を上げておれの目を見た。



「わたし、2番隊に行くよ』」
「え……」



名前は笑顔でおれを見てくれてるが、おれは暫くの放心。名前がおれの目の前で手をヒラヒラさせて名前を読んでくれるまで意識が戻らなかった。



「ほ、ほんとか?」
「うん」
「でも…、いいのか?」
「いいの、マルコにも後でちゃんと言ってくる」



昨日はお騒がせしてごめんなさい。
そう言って頭を下げる名前に手をのばして髪をクシャと撫ぜた。



「よろしくな!」
「うん!よろしくお願いします。エース隊長!」
「あ、隊長なんて付けなくていいぞ!てか付けるな!」
「ふふ、わかった、エース」



おれが笑うと名前も笑う。しばらくお互い笑い合った。



「あ、おれも聞きたかったことがある」
「んー?なに?」
「名前は船降りようとか思ったことねぇの?」
「えっ…?」



突然のおれの質問に困惑を示す名前におれは慌てて付け加えた。


「や、あのさ……。この島に来て余計思ったんだけど、やっぱ島で暮らす方が安全だし…好きなことして遊んで…とか、船の上じゃ出来ねェだろ?」


おれの言葉を聞いて少し考えるような仕草をした名前はまたおれに視線を戻した。


「エース、わたしが船に乗った経緯誰かに聞いたの?」
「え!あ…、うん、悪い……」


そうだった…!名前はおれが名前の過去について聞いたってこと知らないんだった…!!
しまった。という表情をしたおれを見て名前は大丈夫だよ。って笑った。



「うん、なんか、エースにならいいや」
「そうなのか…?」


うん。と笑った名前におれは安心の息を吐いた。その後、あ。と声を出した名前は先程のおれの質問に答えてくれた。


「船を降りようと思ったことはね、ないよ。一度も。そりゃあ最初は成り行きであの船にお世話になってたけど、みんなと冒険するの楽しいし…、それに、わたしの好きなことは航海術とか海に関することだしね。わたしの航海術じゃまだまだだけど、立派な航海士になって、みんなの航海のサポートをしたいと思ってるの。だから、降りようと思ったことはないよ。一度も」



今の家族が大好きだもん



本当に、心の底からそう思ってるんだろうな。と思えるような笑顔でそう言った名前はすげー可愛くて、カッコよかった。



「……そっか、そっか!」
「ふふ、あ、デザート頼もっか?」
「おう!」


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