ビスタの部屋の扉の前にやって来てコンコンとノックする。
「ビスタいる?」
「おぉ、名前か」
間髪いれずに返事が返って来たので扉の前で待つと、すぐに扉が開いて良い香りと共に立派な髭を蓄えたビスタが顔を出した。
「また、マルコの手伝いか?」
「うん、報告書貰って来てくれって言われたんだけど…」
「あぁ、この間のか」
少し考えるように目線を上げたビスタは、まだ終えていない箇所があるらしく、少し待っててほしいと言った。
マルコもオヤジから呼び出されていたし、急ぎではないと伝えると、だったら紅茶でも飲んでけ、と部屋へと通された。
テーブル前の椅子に座るとビスタも紅茶と菓子を持って正面に座った。
「悪いな。好きなだけ飲め」
「わ、ありがとう…!」
「前の島で新しいのを買ったんだ」
「良い香り…」
ビスタからカップを受け取り、口を付けると、ふんわり甘苦い味が口に広がり、思わず頬が緩んだ。
「おいしい…」
「名前も紅茶が飲めるようになったか」
「うん、昔はココアばっかり飲んでたけどね」
「一度、マルコの真似事をしてコーヒーを飲んだことがあったが、その時は泣きそうになっていたな」
「うそ、そんなことあったっけ…」
書類を書き進めるビスタと顔を合わせて笑い合う、懐かしいな。
ふとビスタの書いている書類を覗くと文字がビッシリ!
「わ…文字だらけ…」
「はは、報告だからなきちんと書かないと」
「サッチの報告書スカスカだよ?」
わたしの言葉にビスタの目が下がり髭が揺れる。
「あいつは書き物が苦手だからな」
「ちゃんと書いてるのってビスタとマルコくらいだよ…」
みんな、何かと誤魔化してる感じが見てとれる報告書ばかり。
「ハハ、マルコには負けるよ。あいつの容量の良さは凄まじい」
「うん、何でも1人でやっちゃうもん、でも、少しでも手伝いたい」
「名前も、マルコに負けず劣らずだぞ」
「え?」
聞き返そうとしたが、手が伸びてきて、頭を掻き回された。
わわっ、と驚いていると、ビスタは、そういえば。と声を上げた。
「次の島は春島らしいな、良い紅茶が買えそうだ」
「うん、もうすぐ着くってマルコが言ってたよ、わたしも楽しみなんだぁ」
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