ビュオッ!と風が吹き荒れ正面にいる黄色の房が揺れる。
息が荒くなっているが互いに睨み合う視線はそらさない。
どっちが先に動くのか周りの奴らも興味深そうに見ていた。
「おらっ!今日こそミンチにしてやる鳥野郎!」
「やれるもんならやってみろい」
ニヒルな笑みを浮かべ瞬間に青い鳥へと姿を変える。その隙をと刀を振り下ろすも、それは簡単に避けられた。すぐにおれの腹めがけて飛んできたかと思うとすぐに人型に姿を変え腹に強烈な蹴りを入れた。吹き飛ばされる寸前勝ち誇ったような表情が目に入る。マルコだ。
「ぐおっ…!」
にしてもやっべ…完全に入った…!
軽く甲板の端まで飛ばされ、思わず腹を抱えてしまう。
終了ー!と言う審判の声が響きおれの負けが決定した。
「くっそぉ…またやられた…」
腹を抱えるおれの横にタンッと着地し、マルコはおれを見下げてニヤリと笑った。
「お前なんかにゃやられねェよい」
「あー!ムカつく!!」
マルコが差し出してきた手を大人しく掴んで立ち上がる。
「またおれの勝ちだな」
「あーもう!次の島で奢ってやるっての!」
そんな時聞こえたトタトタトタとこちらへ向かってくる軽やかな足音。
二人そろって足音の方へと顔を向ける。
「マルコ!サッチ、お疲れ様」
愛する妹登場におれもマルコもフッと表情が和らいだ。
名前は持ってきたタオルをおれとマルコへ差し出した。
「ありがとよい」
「ありがとな!名前!」
タオルを受け取って頭をガシガシ撫でてやれば、ふにゃり。と笑う顔。
あー、かわい。この笑顔見るだけで疲れなんて吹き飛んじまう。まじで。
「今日の二人もすごかったね」
名前が言った言葉におれは自然に頬が緩む。横にいたマルコを見ればおれ同様口角が上がっていた。嬉しいのな。
「マルコを討ち取るまでもうちょいなんだけどな」
「どこがだよい」
「うっせー、パイナップル!」
「ぷっ!」
名前が吹き出してマルコが衝撃を受けたように肩を震わせ笑いを堪える姿を見た。
最近名前はマルコのパイナップルネタにハマっているらしく、パイナップルって言うとすぐ吹き出す、そんなところもすげぇ可愛いけど。
マルコはかわいがっている名前にそう見られるのがショックみたいだ。
「あははっ…!」
耐えられないと声に出して笑う名前を見て、少し眉を寄せたマルコはスッと手を伸ばし、名前の両頬を片手で摘まんだ。するとムニッと頬が寄り口がアヒルのように唇がツンと尖る。
あ、かわいい…。超かわいい。
ムッとするマルコに、ごめんってー。と反省の色なしの言葉。そんな名前にフッと笑ったマルコは手を放した。そしてそのまま頭の上に手を乗せ軽く撫でる。
「ふーっ。あ、そういえば模擬戦終わったら部屋に来いってオヤジが言ってたよ」
「おれかよい?」
「うん」
オヤジからの伝言を聞いたマルコは、あー。と少しこめかみを掻いた。
そんな様子に名前も不思議そうに首を傾げる。
「何かあった?」
「いや、ビスタから報告書をまだ貰ってなくてよい。後で行こうと思ってたんだが…」
「あ、じゃあわたし行ってくるよ」
「頼めるかよい?」
「うん!」
まかせてっ。と微笑んだ名前は船室へ向かって行く。
その後ろ姿をおれたちはしばらく見つめていた。
「名前も立派な一番隊隊長補佐だな」
「あぁ、あいつがいると助かるよい」
名前のことになると、何を思い出してんのか途端に顔が緩むマルコ。まぁわからなくもねェけど。
「航海術の方はどうだ?」
「あぁ、スラスラ覚えておれも教え甲斐があるよい」
名前は今マルコのもとで航海術の勉強中だったりもする。
今まで独学でやってきていたらしいがさすがに独学の限界ってやつに達したんだろう何十年って航海士してるマルコのもとで勉強するのは懸命な判断だと思う。
それにこのマルコにここまで言わしめるとはさすが名前といったところか。
昔から努力を怠らないいい子だった。
妹の成長に嬉しく思っていると、マルコは少し表情を曇らせて「頑張りすぎな気もするがな」とも呟いた。
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