2番隊の隊長に就任してから約二週間。任務に出掛けたりとしていたおれは、ついに貰うことがで来た一人部屋で寛いでいた。
隊長になったからって、普段はあまり変わることもなく、ちょっと仕事が増えたくらいだ。まぁ戦闘の時は前線に立つんだけどな。
コンコンッ
「んー?」
「わたしだけど…」
ベッドの上から怠けた返事をしたが、扉の向こうから聞こえた声に飛び上がった。
慌てて扉を開くと予想通り名前がいて、ニコリと微笑んでいた。
「どうした?」
「この間の報告書出来てる?マルコに貰ってきてくれって言われたんだけど…」
「あ、あぁ!あれな、ちょっと待ってくれ」
部屋に入るように言うと、名前はおじゃまします。と律儀に言ってから入り、部屋の中をキョロキョロと見回し始めた。
「何もないねー」
「まだ移動して来たばっかだからな!」
そうは言ってもベッドに小さな円テーブルと椅子、机もつけてくれてて、かなりありがたい部屋だ。
名前は二、三冊しか本のない本棚を指して見てもいい?と聞いた。それに了承すれば、一冊取り出しパラパラとページをめくる。
「これってもしかして航海日誌?」
「あぁ、スペードの頃のな」
「そっか、エースって船長だったもんね」
興味深そうにページを見つめる名前をおれは緩んだ顔でジッと見ていた。すると急に顔を上げた名前と目が合った。
「報告書見つかった?」
「あ、そうだった!」
すっかり報告書の存在を忘れてたおれを見て名前はクスクスと笑う。
えーっと…。どこに置いたか…
それよりも、おれ報告書なんて書いたか…?
取り敢えず机の引き出しを片っ端から開け中身を確認していく。すると、一番右端の引き出しに一枚の紙が入っていた。これか?と思い裏返して、後悔した。
そうだ。思い出した。
報告書の紙もらって、最初はやる気だったんだ。でもペン持っていざ向き合うと眠気が襲って来て…。
報告書の紙にはペンのニョロニョロした線と、おれの、よ、よ、よ、涎が…。
「あ、やっぱり書けてない…」
「!!?」
おれの横から覗き込んでいた名前に驚き、慌てて紙を隠す。
それでも名前は笑っていた。
「実はね、マルコに言われたんだ。
“エースのことだ、どうせ報告書なんて書けないだろうから、教えてやってくれよい”
って」
クスッと笑う名前だが、おれは恥ずかしさで真っ赤。
「じゃあ始めよっか」
「わりィ…」
ニッコリ笑って、テーブルの椅子に座る名前についておれも向かい合わせて座る。
「あ、横に並んだ方が教えやすいと思う」
「お、おぉ!」
そう言われて椅子を隣にくっ付ける。と、思いのほか名前と近いことに驚くがなんとか平静を装った。
「あ、ちゃんと新しい報告書持って来たから」
ジャン!とまだ何も書かれていない白紙の報告書を出した名前はおれの前にそれを置いた。
「まずね、ここに何番隊か書いて…」
名前がペンの先で空欄部分を指し、おれはそこに2番隊と書き込んだ。
「でね、その横に偵察に行った島の名前を書いて…」
「ここか?」
「うん、そこそこ」
ふわり。と名前が頭を動かせば香る爽やかな香り、ナース達みたいな甘ったるい香水の匂いじゃなくて、名前自身の匂いだ。
「それから…この枠に偵察した内容を書いてね」
「おう!じゃあ……異常なし。と…」
「…え?」
「へ?」
変な声を出した名前と互いに顔を合わせる。すると名前はそれだけ?と言った。
「島の様子とか…食料問題だとか…他にはなかった?」
「んー、平和だった」
「……はぁ」
ため息を吐かれ、サッチ以上にスカスカになりそうだとか言われた。何がスカスカ?と頭に浮かぶが名前は頭を悩ませているみたいだ。
「これじゃダメなのかよ?」
「こういう報告書はね、マルコが纏めた後、オヤジがナワバリの島の状況を把握するためのものなの、だから異常なしだけじゃわかんないかな…」
遠慮がちだがこの報告書はダメだということらしい…、だが、おれも隊長だ、報告書くらいサクッと書ける!
「とにかく島の状況を書けばいいんだな?」
「う、うん」
えーっと…あの島は…どんなだったっけな…。安全で子供達も公園で遊んでたな…おれらが行っても誰も怖がらずに歓迎してくれた。他にはなんかあったか?あー、考えすぎて頭パンクしそうだ……
ガクンッ!!
「えっ!?」
「ぐぅーーー…。」
「うそ…!」
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