ふらふらとおぼつかない足取りの名前を支え部屋へ連れて行く。その道中、何度もごめんねを繰り返す名前。
礼を言いたいのはおれだ。名前のおかげでオヤジに話せたんだし…。
ガチャ…
名前の部屋の扉を開き中へ入る。
おれ、そういや名前の部屋って初めて入るな…。
名前の部屋は女らしい装飾や無駄なものは一切なく、本が大量につまった本棚と本やノートが置いてある机にテーブルとイス、そしてベッド。
おれはとりあえず名前をベッドの端に座らせた。
「水飲むか?」
「うん、ごめん」
笑顔を見せてはいるがやっぱり気分が悪そうで、水を渡すとゆっくり飲み始め、おれはその背中を摩ってやった。
「ふぅ…」
受け取ったコップをテーブルに置いて名前を見ると。頭を抑えて唸っていた。
「頭がガンガンする…」
「薬とか、貰って来ようか?」
「ううん、大丈夫、寝たら治るよ」
「そっか」
少し目がとろんとした目でおれを見る名前に、どうしても今日中に言いたいことがあったおれは正面に椅子を持ってきて座った。
膝の上に拳を作って黙ってしまったおれを名前は不思議そうに見てるんだと思う。
「あのさ…ありがとな…」
「え?」
顔を上げて見ればやっぱり不思議そうな顔をしていて、おれの顔を覗き込んでいた。
「ちゃんと、オヤジに話せたぜ。」
「そっか!よかったね」
「やっぱ、オヤジはデカい男だな」
「ふふ、でしょ」
おれがいつも通りに笑顔を見せると、途端に名前の表情も笑顔に変わった。
「おれの悩みなんてオヤジにとっちゃちっぽけなことなんだ…」
「うん…」
名前はこうして話してても、おれの悩みを無理には聞き出そうとしない。おれの話すことだけを聞いてただ相槌を打ってくれるだけ。でもそのほうがおれにとっては嬉しい…
誰にでも聞かれたくないことはある。きっと、名前自身もそれを持ってるから分かるんだと思う。
名前と話してたら止まらなくなりそうだが、目的は酔ってる名前を休ませるために連れて来たんだ。とおれは慌てて立ち上がった。
「あ、は、話し付き合わせてごめん!一旦横になるか?」
おれの変わり様に驚いた様子の名前だったけどすぐに笑顔になって、うん。と頷いた。
ベッドに横になった名前に布団を被せる。
「わざわざごめんね?主役にこんなことさせて…」
「いいんだ、それよりさ。“ごめん”より“ありがとう”って言われるほうが嬉しい。」
さっきからずっと思っていたそれを口にすれば、眉を下げていた名前は、おれを見上げて顔を笑顔に変えた。
「ありがとう」
[ 51/130 ][*prev] [next#]
もくじ