甲板から部屋に戻る途中、通りかかった食堂の入り口。
少し灯りが漏れていて、誰かいるんだろうな、とは思った
だが、眠いってのもあって素通りしようとした時、名前を呼ばれ立ち止まった。

入り口の扉を少し開き顔だけ覗き込むと、いつもの二人組がいた。



「やっぱりな!もう名前と会ったのかよ?」
「なんで会ってること知ってんだよ!?」
「おれを誰だと思ってんのよ?」



ふふん、と鼻を鳴らすサッチと呆れたようにそれを見ているマルコ。あまり長居するつもりもなく、扉から顔だけ出して会話していたが、コッチ来いよ。と言われ仕方なく椅子に座る。すると、目の前に出される酒の入ったグラス。



「名前のやつ、エースと会ってることおれに言わねェんだよい」



マルコを見れば、不貞腐れたようにおれを睨んだ。

おれはとにかく早めに切り上げようと、出された酒を一気に飲み干した。しかし、酒はすぐに足された。



「なんでそんな浮かねェ顔してんだよ?あ、隊長の話か?」
「それは…、またオヤジと話してから決める」
「ヘェ…じゃ、なんで?」



サッチは少し酔ってるのか、調子よくおれの話を聞き出そうとして来る。
こいつらなら、名前の過去を知ってるよな…?
聞いてもいいのか分からねェけど名前に直接聞けないしな。

結局おれは口を開いた。



「聞きたいことがあんだけど」
「おぅ、なんだ?」



サッチは身を乗り出して、隊長職についてか?なんて言ってくる
マルコも酒を飲みながら興味なさそうに聞いている。
おれは酒の入ったコップを持つ手に力を込め二人を見た。



「名前ってさ…、昔、なんかあったのか?」
「「……」」



おれの意を決した質問に、サッチは乗り出していた体をまた椅子へと落ち着け、マルコは少し驚いたように目を見開いた。



「なんで、そんなこと思ったんだよい?」
「いや…何もないならいいんだけどよ…」



ほんとうにただ、さっきの悲しそうな笑顔が気になっただけで…
すると、二人は顔を合わせていた。



「……どうするマルコ?」
「……話してやれよい」



名前は自分から話したがらねェしな。と、酒を一口飲みながら付け足すマルコ

やっぱり、あんなに悲しそうな顔するんだ、何かあったに決まってる。名前が話そうとしない過去は、一体どれほどの事なんだ。知りたい。純粋にそう思った。


少し酔いが覚めたらしいサッチはゆっくりと口を開いた。



「名前はな…両親に売られたんだ。」
「…は?」


この、サッチの言った事がすぐには飲み込めず、少し頭の中で考える。



「売られたって……人間屋(ヒューマンショップ)か?」



シャボンディ諸島にはいくつもある人間屋。そこ以外にも人身売買っつうのはよく聞く話だ。そこに名前は売られたってことか?それでオヤジが買ったとか?


おれが必死で動かしている思考を止めたのはサッチだった。


「まぁ聞け」


もう酔いは完全に覚めたらしいサッチは、いつものおちゃらけた感じからは程遠い真剣な顔をしておれを見た。マルコは相変わらず、聞いているのか聞いていないのか分からない表情で、酒を飲み進めていた。



「名前は昔、グランドラインにある島の小さな村で生まれたんだ。


一人娘で、両親と…あと、ばあさんもいたっつってたかな。


三人とも名前を可愛がってくれてたそうだ」



おれは酒を置いて、話すサッチをジッと見て聞き続けた。


「村人はみんな仲が良かったそうで、毎日、幸せに暮らしてたんだと


そんなある日、その島に海賊がやって来て、その島の村々をどんどん襲っていった


まぁ、名もねェ海賊団だ…


だが、村人たち一般人が敵うわけねェ


近くの村がどんどん潰されていき、最後にやって来たのが、名前の住む村だったそうだ。


もちろん名前の村も襲われそうになった…


だが、


当時から能力者だった名前の存在に気付いた海賊は名前を欲しがった。


その海賊団は悪魔の実の存在を知らずにグランドラインに入り、能力者のいる海賊団に出会いボロボロに負けたんだと。


だから一般人に手を出してたんだ。だが自分達の仲間にも能力者がいれば、また能力者軍団ともやりあえると思ったんだろうな。


だからそいつらは名前の両親にこう言ったんだ。


名前を2000万ベリーで売れ、売ったらこの村は見逃してやる。

ってな。


それを聞いた両親はなくなく決心したそうだ。名前を売ろうと。


両親は2000万ベリーと島とを引き換えに名前を売った。


娘より、金と自分達の命を選んだ。


これが名前が5歳の時の話だ」



サッチの話に思わず目を見開く。



「5歳…」



そんな歳で親に売られたのか。おれも親はいねぇが、物心ついた頃からいたこともないから、寂しいとか悲しいとか思ったことなかった。それに子供の頃からルフィやサボがいて、特に親を羨ましいなんて思ったこともない。
だけど名前は…。


これまで黙って聞いていたマルコが漸く口を開いた。



「3年間。おれたちがその海賊を潰すまで名前ずっとその海賊船に乗ってたんだよい」
「そこでどんな扱いを受けてたとか、どんな目にあっただとか、それはおれたちにも話してくれてねェ…」



マルコとサッチ、二人の顔が歪む。
多分、おれの顔も。

そんなやつらだ。きっと、酷い扱いを受けてたはずだ…。


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