「名前はさ…本当の親いるのか?」
名前を見つめ問う。
「…ぇ」
小さく発すると、すぐに困ったような顔を見せ、顔を伏せて名前は黙ってしまった。
そこでおれは、しまった。と思った。
「あ…い、いや、わ、悪ィ…」
慌てて訂正するおれに、顔を上げた名前は、ニッコリ。天使のような笑顔を浮かべていた。
「…いたよ」
でも、その目は悲しみで染まっていて、こんなか弱い名前が、この海賊船にいる訳が、全てこの一言に含まれている気がした。
「お父さんも、お母さんも、おばあちゃんも…いた」
「……」
顔はよく覚えてないけど…。そう付け足した名前は自嘲気味に笑った。
なんて言ってやったらいいのか分からない。
いつも思ったことをそのまま口に出して来たのに、今は、何を言っても名前を傷つけることになるような気がした。
名前はおれの目をジッと見ていて、おれもその目を離すことが出来なかった。
ギュッ……
いきなり、腰より少し上あたりに巻きついた細い腕、気が付くと名前の頭もおれの胸あたりにくっついていた。慌てるおれに、名前は後ろに回った手でトントンとあやすように背中を叩く。
「でもね、顔も覚えていないような人たちより、わたしは今の家族を大事にしたいの…」
ゴクリ。息を飲む。
「だから…、エースも悩みがあるなら、今の家族に相談すればいいよ」
何も言わないおれに名前は続ける。
「みんな、全部受け入れてくれるから」
その言葉を聞いて、おれの中の、何か、ダマのようなものが消えた気がした。
全部受け入れてくれる…
おれはその言葉を待ってたんだ…。
おれも名前の背中に腕を回しギュッとさらに引き寄せた。
「…ありがとう」
「うん…」
身体を離すと、まず名前の首に掛かっている白ひげのマークが目に入った。
ここのみんなはきっと受け入れてくれる、おれを家族として認めてくれる…
名前がこう言ってくれたおかげで、おれの心はとても軽くなった気がする。
この家族を信じよう。
そう思えた。
…なのに、目の前のこいつはなんでこんな悲しそうな顔してんだ?
一体、名前には何があったんだ?
聞きたい。でも、聞けない。
名前はきっと、おれに話す気なんてない。
まだたった数ヶ月の付き合いのおれには…
「じゃあ…わたしは戻るね」
「おう」
背を向け、船内へと入っていく名前。おれはその後ろ姿を呆然と見送った。
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