「はい、これ」
マルコに確認し終えた書類を渡すと、ありがとよい。といつもの返事が返ってきた。
「ねぇ、島にはいつ着きそう?」
「明日か明後日には着くだろうよい、どこか行くのか?」
「本屋さんに行こうと思ってる」
持ってる本は全部読んじゃって、ちょうど新しいのが欲しいなと思っていたところだ。マルコを見ると少し眉を下げてわたしを見ていた。
「悪いが…おれは仕事が残っててよい…」
「一人で大丈夫だよ」
笑顔を見せるとマルコは悪いな。と言い頭を撫でてくれた。
わたしは、マルコの部屋を出て食堂へ向かった。食堂に人は疎らで、厨房では何人かが、夕飯の準備かなんかをしている。
「お、名前!タルトあるけど食うか?」
「うん、食べる!」
厨房から顔を出したサッチに返事をし、席に座り本を開く。最近はマルコの仕事も落ち着いて来たみたいで、わたしにも暇が増えた。まぁ前までが忙しかっただけなんだけど…
「ほら、サッチ特製フルーツタルト!」
「わぁ!ありがとう!」
コト、と置かれたフルーツタルトに目を輝かせ、フォークを手に取った。
「いただきます」
「おぅ!くえ!」
紅茶も持って来てくれたサッチはカップをお皿の近くに置き、わたしの前へ腰掛けた。
タルトにフォークを通し、一口パクリ。サクサク生地と甘いフルーツがなんとも言えない…
「おいしいっ!」
「そっかそっか、お前タルト好きだもんな」
「うん大好き」
わたしが頬を抑えてタルトを堪能しているとサッチも嬉しそうに笑顔を向けてくれた。
「あ、ねぇエース知らない?」
「エース?なんか用か?」
「いや…特にないんだけど…」
いつもわたしが食堂に休憩に来ると、必ず近くへ来て何か話してくれてたのに、最近は姿さえも見ていない。同じ船に乗ってるんだからそんなのあり得ないはずなのに…
「最近、エースと話してないなぁと思って…」
そう言うとサッチは上を向いて、あー。と言った後、わたしを見た。
「そろそろ終わるって言ってたし、今日中には来るだろ」
「終わる…?」
何のこと?
バッタン!!!
疑問を頭に浮かべた時、大きな音がして、そちらに目を向けると、ゼェゼェと息を乱したエースが食堂の扉を開け、立っていた。
「やっと見つけた!」
顔を上げ、目をキラキラとさせたエースがこちらへと近づいて来る。だけどわたしにはなぜシャツを着ていないのかというだけが疑問が浮かんだ。
わたしの隣の席に来ると、フルーツタルトを見て、うまそー。と呟き、それを見たサッチはちょっと待ってろー。と厨房へ取りに向かった。
「ど、どうしたの?」
タルトのお陰で放置されていたわたしが声を出すと、エースはそうだったそうだった、と後ろを向いた。
「ジャーン!」
「うわぁ…!」
エースの背中にはニヤリと笑う白ひげ海賊団の刺青。
「カッコいいだろー」
「うん…!」
「オヤジの次に見せるのは名前だって決めてたんだ」
「わたし…?」
「そうだ!」
キッパリそう言い切るエースになんだか照れ臭くなった。どういう訳があるのかは分からないけど、わたしをオヤジの次に選んでくれたみたいだ。
そっと、その刺青部分に触れると、ビクッと反応したエース。
「名前の手冷てェな…」
「あ、ごめん…。最近島が近くて寒くなって来たからかな」
すると、すぐに振り返りまたこちらを向いたエースはわたしの手を取るとギュッと握った。
突然のことについていけず、戸惑ったわたしがエースを見ると、彼は満面の笑みを浮かべていた。
「おれの手あったかいだろ?」
「うん」
エースは火だからなのかな。熱すぎないけど、ぬくぬくしてる感じ、あったかい…。
「ずっとこれ彫ってたから会わなかったんだね」
「そうなんだよ、これ地味に痛ェな…」
「あはは、でも、いいな…」
「だろ!名前のは?」
「え?」
エースって時々、会話の重要な部分が抜けるよね。一回で理解出来ない時が多々ある…
「刺青!どこに彫ってるんだ?」
「あ…、わたしは、彫ってないの…」
「え、そうなのか…?」
「うん、マルコが駄目だって…」
昔、一度お願いした。わたしもみんなみたいに彫りたいって、でも、刺青は一生残るし、自分の身体傷付けるなって言われた。あの時はマルコに何も言い返せなかったけど、また頼んでみようかな…。
「でもね…」
「ん?」
首に掛けてあるネックレスに触れる。マルコが彫ってる刺青と同じ形の付いたネックレス。
「これがあるから大丈夫。マルコに駄目だって言われて落ち込んでた時にサッチが島で作って来てくれたの」
嬉しかった。これがあれば、わたしもこの家族の一員なんだって思えた。わたしがその時のことを思い返して微笑むと、エースもニッと笑ってくれた。
「そっか…、良かったな!」
「うん…!」
微笑み合っていると、サッチがエースの分のタルトを持ってやって来た。
すんごい量…
「ほい、サッチ特製フルーツタルト、エース特別版!」
「うおおお!ありがとうサッチ!!」
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