いつもの朝と同じく、ザワザワと騒がしい食堂。争奪戦からしっかりと確保した二人分の朝食。しかし…
「名前が来ねェよい…」
もう、いつもなら起きて朝飯を食ってる時間だ。なのにいくら待っても名前は食堂へやって来ない。
「名前のやつ寝坊か?珍しいこともあるもんだな」
もう先に食っちまえよ。おれの隣でバクバクと朝食を口へ放り込んでいるサッチが言う。まさか、今日も朝飯抜く気じゃ…。
「おれちょっと見てくるよい」
「年頃の女の子の部屋覗くなんて
マルコったら変態ィ〜!」
席を立ち、叫ぶサッチの頭に拳を落として、名前の部屋へと向かった。
部屋の前に着きノックするが返事は返って来ない。
「名前、寝てるのかよい?」
物音一つしない。ガチャリ。ゆっくりと扉を開き中を覗く。ベッドの上のシーツは少し乱れているが、そこに名前の姿はなかった
入れ違ったのか…?
こんな広い船じゃ食堂への道のりなんていくらでもある。おれとは違う道順で食堂へ行ったのかもしれねぇ。
だったらもう食堂か。そう考えたおれは食堂への道を戻った。
また食堂に到着したものの、やはりそこに名前の姿はなかった。
「名前はまだ来てねェのか?」
「あれ、呼びに行ったんじゃなかったのか?」
「部屋にはいなかったよい」
入れ違ったんだと思ったんだがな…。やっぱり食わねェ気か…。
食堂の人数はかなり減ってきており、さっきまでおれの隣で食っていたサッチももう厨房に戻って洗い物をしていた。おれも先ほどの自分の席に戻り朝食を始めた。
「ごちそうさまー」
「今日も美味かった」
「へへっ、だろー」
唯一残っていたハルタやイゾウ達も朝食を終え食堂から出て行ってしまった。
束の間の静かな時間に突然ガチャッ!と音が鳴り、勢いよく扉が開くとそこから名前が飛び込んで来た。名前は急ぐようにおれの前の席へと座る。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「今日も食わねェ気かと思ったよい」
「ちゃんと食べるよ」
ぶぅっと顔を膨らましながら食事に手をつける名前に笑いながらおれも食事を再開した。
食堂で飯を食ってるのはおれたち2人だけで、厨房ではサッチたち4番隊がいるが、この空間はとても静かなものだった。
暫くしてポツリと名前が言葉をこぼした。
「実はね、さっきエースに謝られたんだ」
「ヘェ?」
おれは顔を上げ目の前の名前見るが彼女はパンを手に持ち、それを眺めながら続ける。
「悪かったって」
「あいつがねェ…」
「大丈夫って言ったんだけど、サッチが余計なこと言ったみたいでね、気にしてくれてたみたい」
「そうかい」
「うん」
名前の表情はいつも通り穏やかだ。
その細い手首へ視線を移すと、この子に似つかわしくない頑丈に巻かれた包帯。
サッチから聞いたがおれが出ている時、サッチをエースから庇おうとして火がかかって出来たものらしい。それに、痕が残ると。
名前がおれに言おうとしなかったのはエースを庇ってのことだろう。本当、いつも自分のことは二の次な子だ。
にしてもエースが謝るとは、奴なりのケジメだろうか。名前がエースを攻めるようには思えないが、痕のことは気になるだろうな。
名前がパンを口へ運び、おれも止めていた手を再開する。二人の間に言葉はないものの気まずさもなく、居心地のいい空間だった。
「名前ー!洗濯手伝ってくれー!」
「あ、はーい!」
暫く経った頃、おれは朝食を終え、食後のコーヒーを飲んでいた。その時、甲板から名前を呼ぶ声がして、その声に反応した名前は朝食を猛スピードで口の中へ放り込んでいく。
「慌てるなよい、詰まらせるぞ」
「ゴホッ!ふぁいじょうふ!(大丈夫!)」
なんとか全て口に入れスープで流し込んだ名前はトレーに乗った食器を急いで返却口へ持って行き食堂の出口へ向かった。そして、最後に振り返る。
「じゃあ行ってくる。後でマルコの部屋行くね」
「あぁ、慌てて転ぶなよい」
「大丈夫だよ」
少し拗ねたように頬を膨らませ、名前は食堂を出て行った。
名前の姿が消えてすぐ、廊下から「イテッ!」と聞こえたのには思わず苦笑が漏れた。
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