火拳ことポートガス・D・エースがわたしたちの家族になって一週間がたった。それでもわたしの生活にさほど変化はなく、いつもの毎日を過ごしていた。


そんなある日の朝、少し寝坊したわたしは、早足で食堂に向かっていた。その途中、急に誰かが目の前に現れ、慌てて足を止めた。



「わっ…」



火拳のエース…。家族になってからちゃんと会うのは初めての事で少し戸惑う。

何か言われるのかと言葉を待つが、彼は何も言わず、視線を下げて一点を見つめている。
その空気が居た堪れなくて、あの…。と口を開いた。



「悪かった」
「え…」



そう言って、直角に身体を曲げた。そのせいで後ろに かけてあった帽子がパタッと音を立てて彼の頭に落ちた。突然の事に驚いていると彼はそっとわたしの左手を取った。



「火傷…」



あぁ、さっきから見ていたのはこの火傷か…。
刺激しなければ痛みはないものの、まだ新しい皮膚が再生せず、包帯は外せないでいるそれ。

心配、してくれてたんだ。



「大丈夫だよ、みんな大げさなだけだから」



そう微笑んで見せてみても、彼は表情を歪めて、左腕の包帯の箇所を見つめるばかり。



「痕が残るってサッチが…」


ポツリとそう呟いた。

サッチめ…余計なことを…



「サッチが何を言ったのかはわからないけど大丈夫だから。本当、気にしないで」



腕に巻いてある包帯に、親指でそっと触れられる。直接じゃないけど、なんだかくすぐったい。



「ほんと、すまねェ…」
「大丈夫だから…。えっと、わたしは1番隊の…「名前だろ?」



とにかく火傷のことから話を変えるため、名乗ろうとしたが、彼はわたしの名前を知ってた。少し驚いてパチパチと瞬きをして彼を見つめると彼も顔を上げてわたしを見ていた。



「他の奴らから聞いた。何度も助けてくれてありがとな、なのにおれ、こんな火傷負わせちまって…」



またも肩と視線を落としていくこの人にわたしは慌てて肩を掴んで身体を起こさせた。



「あ、あの時はあなたも気が立ってたし!誰にでもそんな時はあるよっ」
「エース」
「え?」
「ちゃんと名前で呼んでくれ」



そう口を尖らせて言うエースがなんだか可笑しくて、わたしはもう一度彼の名前を呼んだ。



「エース」
「ん」



嬉しそうに笑顔を見せてくれるエースにわたしはなんだか照れ臭くなって、少し視線を下げた。
するとその時、朝食を終え食堂から部屋に帰る途中であろうハルタが通りかかった。



「なになに?手なんか取っちゃって、青春だねー」



ハルタのその一言にエースは掴みっぱなしだったわたしの手を慌てて離した。



「へ、変なこと言うな!」
「なに?照れてんの?」
「ッ!!」
「ちょ、ちょっと…」



顔が真っ赤になっていくエース。その様子を面白そうに見るハルタは、そうだ。とわたしの方を向いた。



「そういえばマルコが探してたよ?名前が食堂に来ないって、部屋にも行ったみたいだけど」
「うそ!」


エースと話してて自分が寝坊したことをすっかり忘れてしまっていた。


「ごめん!わたし行くね!」


わたしは慌てて食堂へ向け駆け出した。



「あ、おい名前!」


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