幸い、名前のケガはひどくなかったらしく、今はもう自室に戻っているそうだ。
あれから数日、おれはまだ名前のところには行けていなかった。
名前のところに行ったのであろうやつが通りかかりにおれの肩に手を乗せて話しかけてきた。
「名前無事でよかったな」
「……」
にこやかに、労わりも込めてだろうか、そいつは穏やかに微笑んだが、全然良くない。と自分の心が言う。
「頭と顔にガーゼは貼ってたが、大したことはないらしいぞ」
「……そうか」
そう言われ、あの時の名前の傷を思い出す。
血が出て痛々しい頭の傷と、真っ赤に腫れて歯型のついた頬。
滑らかで綺麗な肌だった。ミラノに教わって手入れをしていると言っていた。
それなのに、おれのせいで…。
名前を取り返したあの日からこういう声を掛けられることがあったが、
その度におれの心は、“間に合わなかった”“名前が傷付けられる前に救えなかった”それらの罪悪感で押しつぶされそうになる。
あの時青雉に乗せられず船から離れなければ、最初から名前の元にいてれば…、名前があんなに傷つくこともなかった。
ごめん。ごめんな名前。
本人に会う勇気すらない、傷ついた名前を見たくない。
「おいエース」
食堂のテーブルに伏せっていたおれに乗っかるようにしてきたのはサッチ。
「なんで名前のとこに行かねぇ」
サッチがグッとおれの背中に体重を乗せた。
「おれは、名前に会わせる顔がねぇ…」
「なんだそれ」
「おれがもっと早く行ってれば名前はあんなに傷つかなくて済んだ。おれがあいつの傍を離れなかったら連れ去られることもなかった」
「お前なぁ」
サッチがあからさまに大きく溜息を吐く。
「今回の件はお前だけの責任じゃないだろ」
「サッチの言う通りだよい。エース」
「……マルコ」
いつの間におれ達の話を聞いていたのか、マルコがやって来た。
「名前が連れ去られたことなら青雉に気をとられたおれの判断ミスでもある。お前だけが責任を感じることはねぇ」
「けど…」
「そもそも、今回の件、天竜人の一件は名前自身が起こした事件だろい。それにあいつは、海賊として生きることを自分で選んでんだ。あいつはちゃんと覚悟してだはずだ」
「そうだぞ。名前は覚悟決めてんだ。あいつの覚悟を含めて守ってやるのがおれ達の役目だろ」
サッチがおれの上から退いて顔を上げると、兄貴の顔をしたマルコとサッチと目が合う。
なんか癪だけど、この2人はやっぱ大人だった。
おれを見たマルコがフッと笑う。
「情けねぇ面してんじゃねぇ。名前の中で、お前はおれを超えてんだからよい」
「は?」
「自信持てってことだよっ」
サッチに急かされ席を立つ。
「さ、行ってこい」
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